世界の外貨準備に占める金の割合の長期推移

世界全体の外貨準備における金(ゴールド)の比率は、過去数十年で大きく変化してきました。以下では、1970年代以降の長期的な推移と、可能な範囲で国・地域別の内訳について説明します。

1970年代~2000年代:金の比率の低下傾向

1970年代:戦後のブレトンウッズ体制のもとで各国通貨はドルと固定され、ドルは金と交換可能でした。しかし、1971年のニクソン・ショックでドルと金の交換が停止し、金本位制の崩壊を迎えます。これ以降、主要国通貨は変動相場制へ移行し、金は公式には通貨と切り離されました。ところが逆に、1970年代後半にはインフレ高進やドル不安から金価格が急騰し、中央銀行の保有する金の価値が飛躍的に上昇します。その結果、世界の外貨準備に占める金の割合は1970年代末頃に約60%前後という非常に高い水準に達しました(当時は外貨準備の半分以上が金という状況です)。

1980~1990年代:1980年に金価格がピークを付けた後、金の割合は長期的な低下傾向に転じました。1980年代以降、主要国の通貨体制が安定し、ドルや他の通貨建て資産が信認を回復すると、各国中央銀行は外貨準備の中心をドルなどの外貨資産に置くようになります。また金価格の低迷(1980年代以降2000年頃までは総じて下落基調)や、一部欧米諸国による金準備の売却(例:1990年代末のイギリスやスイスによる大規模売却)も相まって、金の比率は相対的に下がりました。加えて、1990年代から2000年代初頭にかけて新興国が急速に外貨準備高を積み上げたことも重要です。特にアジアの新興国では1997年の通貨危機以降、経済安全策としてドル建て外貨準備を巨額に蓄積しましたが、金の保有はそのペースについていかなかったため、全世界で見た金の比率低下に拍車をかけました。

2000年代前半の底:こうした流れの中で、金の比率は1990年代末から2000年代前半にかけて歴史的低水準に落ち込みます。正確な数値は算定方法によりますが、おおよそ外貨準備全体の1割程度まで低下したと見られます。例えば冷戦終結後の1990年代後半、金価格が低迷し各国の外貨準備(ドルやユーロなど)が急増する中で、金の占める割合は10%前後にまで縮小していました。2000年代初頭には**「金はもはや時代遅れ(バーBARバラスレリック)」**とまで言われ、各国の準備資産としての重要性が小さくなった時期です。

2000年代末以降:金比率の再上昇と近年の動向

転換点(2008年前後):2008年のリーマン・ショックを契機に状況が変わり始めます。世界的な金融危機により主要通貨への信頼が揺らぐと、中央銀行が金を再評価し始めました。2000年代末頃から先進国による金売却は減少し、新興国を中心に中央銀行が金を純買い越しに転じます(それまで減少していた各国の金保有量が増加に転じた)。同時期に金価格も上昇傾向となり、これらが相まって外貨準備に占める金の比率は2010年代に底打ちし上昇へ転じました

2010年代~2020年代:2010年代を通じ、各国(特に新興国)の中央銀行はポートフォリオ多様化やリスク分散の観点から金の保有拡大を進めました。欧米の超低金利政策や量的緩和による通貨価値への懸念、地政学リスクの高まりなどを背景に、金は安全資産・インフレヘッジとして再評価されています。実際、ロシアや中国、トルコなど多くの国がこの時期に大幅な金準備の積み増しを行いました。金価格も2010年代後半から2020年代にかけて高値圏で推移し、特に世界経済が不透明となった2020年のパンデミック以降は2000ドル近辺の高値を付けています。その結果、世界全体で見た金の比率も徐々に上昇し、2020年代前半には15%を超えて近年さらに上昇しました。

最新の状況(2020年代半ば):近年、この傾向は一段と鮮明です。2022年~2023年には中央銀行の金購入量が年間1000トンを超えるなど、記録的なペースで各国が金準備を増やしました。これはドル資産からの分散や制裁リスクへの備え(例:ロシアが制裁後に金を自国で保管し積極的に買増し)といった動機にも支えられています。こうした動きと金価格の上昇により、2024年末時点で金の割合は世界全体で約20%前後に達し、ユーロの割合(約15~16%)を上回って米ドルに次ぐ第2の準備資産となりました。つまり現在、世界の外貨準備の5分の1程度の価値が金で構成されるまでに至っており、数十年ぶりの高水準となっています。

国・地域別の金保有割合の違い

先進国と新興国の差:世界平均では上記の通りですが、国や地域によって金の外貨準備に占める割合は大きく異なります。一般に先進国の中央銀行は外貨準備に占める金の比率が高めです。これは歴史的経緯として、かつて金本位制下で蓄積された大量の金保有が「レガシー(遺産)」として残っていること、加えて自国通貨が国際的信用を持つため外貨そのものを大量に持つ必要が小さい(=分母となる外貨準備高が相対的に少ない)ことが要因です。たとえば、アメリカは公式外貨準備の約66%が金と言われます。米国は基軸通貨発行国であり外貨を大量保有する必要がないため、約8,100トンという世界最大の金保有がそのまま準備の大半を占めています。同様にドイツ(約66%)、イタリア(約60%)、フランス(約55~60%)などユーロ圏の主要国も、外貨準備の半分以上が金です。ユーロ圏全体でも金の比率は5割強にのぼります。また国際機関であるIMFも大量の金を保有しています。一方、日本や中国などは金の比率が非常に低く、日本銀行の外貨準備に占める金は数%程度、中国に至っては公式発表ベースでわずか数%(約3%)しかありません。これはこれらの国が巨額の外貨(主に米ドル資産)を保有しており、金の比率が薄まっているためです(中国は外貨準備高が3兆ドル規模で、その中で金は約2千トン強に留まるため比率が低い)。

新興国での積極的な金購入:新興国全体として見ると、かつては金準備の比率がきわめて低い国が多く(例えば20年前は5%未満が一般的でした)、主にドル建て資産を外貨準備としてきました。しかし近年は前述のとおり多くの新興国中央銀行が金を買い増ししており、グループ平均としても金の比率が上昇傾向にあります。例えばロシアは2000年代には数%に過ぎなかった金比率を、2020年代には20%前後まで高めました。トルコも近年大幅に積み増し一時は外貨準備の30%以上を金が占めました。石油資源国のカザフスタンや中東諸国なども金準備を増やしています。ただし新興国でも、外貨準備全体に占める金の割合が50%を超える国は依然まれです。上位の例として、経済規模は小さいもののポルトガル(約70%)やウズベキスタン(約60%)などが挙げられます。一方、カナダのように先進国でも公式金保有をゼロにした特殊な例もありますが、これは例外的ケースと言えるでしょう。総じて、欧米先進国は高比率、アジア新興国は低比率という構図が長らく続いてきましたが、その差は徐々に縮まりつつあります。

まとめ

  • 1970年代後半には金の割合が約60%とピークに達し、その後1980~90年代を通じて長期低下し、2000年代初頭には1割前後まで縮小しました。
  • 2008年頃を境に金比率は反転上昇し、各国中銀の金購入や金価格上昇により2020年代前半には約20%に達しています(数十年ぶりの高水準)。
  • 先進国は金の比率が総じて高く、米国・欧州主要国では50~60%超と外貨準備の過半を金が占めます。新興国は低め(10%未満が多い)が上昇傾向にあり、ロシアなど一部では20~30%に達しました。
  • 最近では金がユーロを上回る世界第2の準備資産となり、各国とも地政学リスクやインフレ対策として金を重視する傾向が強まっています。

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