インフレと貴金属バブル

正:インフレ期における貴金属の価値保存機能 ― 1970年代の銀バブル

インフレが高進すると、投資家は法定通貨の購買力低下を嫌って金や銀といった貴金属に資産を逃避させます。とりわけ1970年代後半、ドルの金本位制離脱とインフレ高進により紙幣への信認が揺らぐと、銀価格は急騰し、わずか1年で700%以上上昇して1オンス50ドル近くに達しました。これは「安全資産」としての銀の需要が爆発的に高まった結果であり、またハント兄弟の巨額買い占めも相まって、供給逼迫と投機熱が相乗的に働いた典型例でした。すなわち「正」の立場からは、インフレ期には貴金属が価値の避難先となり、時に劇的な高騰を遂げるといえます。

反:投機バブルと崩壊 ― 1980年「シルバー・サーズデー」の教訓

しかしその急騰は持続不可能な投機バブルでもありました。1980年3月、取引所の規制強化や信用収縮をきっかけに、銀価格は一気に暴落し、50ドルから10ドル台へと転落しました。レバレッジを過剰に用いていたハント兄弟は破綻に追い込まれ、多くの投資家も大損を被りました。この「シルバー・サーズデー」は、インフレ退避先とされた銀が投機過熱によって逆に金融システム不安を誘発する危険性を示しました。ゆえに「反」の観点では、貴金属の高騰は安全資産ではなく「不安定なバブル」になり得ると強調されます。

合:現代における再現の可能性と条件

両者を統合すると、インフレや通貨不安が再燃すれば再び金銀に資金が流入し得る一方、同時に投機熱によるバブル化の危険も孕むといえます。今日では規制が強化され、1980年型の市場操作は難しいと考えられますが、巨額のマネーが比較的小さな金銀市場に流れ込めば急騰は再現し得ます。ジム・ロジャーズは依然として銀に強気姿勢を示しており、実需と過去高値との乖離から「再度の高騰」を期待しています。他方で、現代にはビットコインなど新たな「デジタル金」とも称される資産も存在し、投機マネーがそちらに流れる可能性も高いでしょう。しかしビットコインは歴史が浅く、価格変動も激しいため、金銀以上にバブル性が強いとも指摘されます。

要約

1970年代の銀バブルは、インフレ期における貴金属の避難先としての機能と、投機熱による脆さの両面を示した。現代においても、インフレや通貨不信が拡大すれば類似の動きが再燃する可能性はある。ただし、規制強化や代替資産(ビットコイン等)の登場により、その形態は変容し得る。結論として、貴金属はインフレ防衛の有効な手段であるが、同時にバブル化リスクを内包するため、冷静なバランス感覚が不可欠である。

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