Tracers S&P500ゴールドプラスの仕組みと全体像

Tracers S&P500ゴールドプラスは、日興アセットマネジメントが提供するユニークな投資信託で、米国株式(S&P500指数)と金(ゴールド)の両方に同時に投資することで、リターン向上とリスク分散を狙った商品です。先物取引などを活用して純資産の200%相当(米国株100%+金100%)の投資を行うため、通常の分散投資とは異なる仕組みを持ちます。以下、このファンドの投資対象や運用方法、リスク・リターン特性、手数料構造、透明性などについて専門的かつ分かりやすく解説します。

投資対象とベンチマーク連動の仕組み

投資対象は大きく2つ、米国の株式市場全体金先物市場です。それぞれ以下のように連動する運用を行っています:

  • 米国株式部分:S&P500指数に連動する成果を目指します。具体的には、ファンド資産の一部を「インデックス・マザーファンド米国株式」に投資し、**S&P500指数(円換算ベース、為替ヘッジなし)**の動きに沿った運用をします。これにより、このファンドの米国株部分は、米国主要500社の株価動向(配当込み)を日本円ベースで反映します。米国株式への投資は原則為替ヘッジを行わないため、円ドル為替の変動も基準価額に影響します。
  • 金(ゴールド)部分:金価格に連動する成果を目指します。ただし現物の金ではなく、金の先物取引を通じて投資します。主にニューヨーク金先物などの価格連動を取り込み、金の値動き(ドル建ての金価格変動)をファンドに反映させています。金は「有事の金」とも言われる安全資産で、株式とは異なる値動きをする傾向があります。このファンドでは先物を用いることで、実際に金を保有せずとも金価格の値動きをポートフォリオに取り込んでいます。

以上の2資産に同時に投資することで、ファンド全体としては**「S&P500指数の動き」と「金価格の動き」**の両方に連動した複合的な値動きとなります。S&P500部分が上昇すればその利益を享受し、金価格が上昇すればその分も利益となります。一方、どちらかが下落した場合はもう一方の動きがファンド全体に影響を与え、ファンドの基準価額は両者のリターンを足し合わせたような挙動になります(詳細は後述のリスクとリターンの項で説明します)。

2つの資産への分散投資方法

通常のバランス型ファンドでは、100%の資産配分を複数の資産間で**按分(例:株60%・債券40%など)**します。しかしTracers S&P500ゴールドプラスは、**株式も100%、金も100%**という独自の配分を実現しています。これは一見不可能に思えますが、先物取引によるレバレッジ活用によって実現されています。

https://www.nikkoam.com/sp/tracers/sp500goldたとえば上図のように、このファンドでは純資産100に対して米国株式に100、さらに金にも100相当を投じるイメージです。つまり投資割合の合計が200%になるよう設計されています。具体的な運用では、まず集めた資金でS&P500連動の現物資産(マザーファンドやETF等)をできるだけ確保し、それによって純資産の約100%分の米国株エクスポージャーを持ちます。その上で、先物契約を利用して金にも純資産の100%相当のエクスポージャーを加えます。必要に応じて米国株式も一部は先物で補完し、両資産の割合が概ね純資産に対してそれぞれ100%ずつになるよう調整されます。

この方法により、株式の投資パワーを削がずに金への分散効果を上乗せすることができます。従来であれば、株式100%のポートフォリオに金の分散効果を取り入れるには、例えば株式を50%に減らして残り50%で金を買うといった形になり、株式から得られる利益も半減してしまいます。対して当ファンドでは、株式はフルに100%維持したまま、追加で金も100%分持つという戦略を取っています。そのため**「株式60:金40」のように配分した場合と比べ、株式市場が好調な局面で得られる利益を減らさずに済み**、同時に金の保有によるリスク分散メリットも享受できるのです。

もっとも、2つの資産をそれぞれ100%ずつ保有するため、実質的には元本の2倍の金額を運用している状態になります。この点は次のデリバティブ活用の項目で詳しく説明しますが、レバレッジを用いた運用であることから、通常の100%運用に比べ値動き(ボラティリティ)は大きくなる点には注意が必要です。ファンド運用では、市場変動によって各資産の比率がずれた場合には適宜先物ポジションの調整等を行い、概ね**米国株:金=1:1(各100%)**のエクスポージャーを維持するよう努めています。ただし市場急変時や資金流出入の状況によって、一時的に厳密な200%・各100%の配分を確保できない場合もありえます。

デリバティブ(先物)活用と仕組債の有無

運用の仕組みとして大きなポイントは、上述のように先物取引(デリバティブ)を積極的に活用していることです。米国株部分と金部分の両方で先物を用いることで、少ない元手で大きなノミナル投資を実現しています。

  • 株式部分の先物利用:ファンドでは現物の米国株式(マザーファンド経由でS&P500構成銘柄やETFに投資)に加え、必要に応じて株価指数先物も利用します。例えば資金の一部を担保にS&P500先物を買い建てれば、手元資金の範囲内でさらに株式エクスポージャーを増やすことが可能です。こうして現物と先物の合計で純資産の100%分の株式露出を確保します。
  • 金部分の先物利用:金への投資はほぼ全て先物取引で行います。金先物取引は、証拠金を差し入れて将来の金を一定価格で買う契約を持つことで、現物金と同等の値動きを得る仕組みです。このファンドでは主に海外(金価格連動の先物指数など)を使い、純資産と同額相当の金先物買いポジションを持ちます。例えば純資産100億円なら、その100%にあたる100億円分の金先物を建てるイメージです。ただし先物取引自体は証拠金さえ積めば契約を持てるため、実際に100億円分の現金を使うわけではなく、少額の証拠金で済みます。

仕組債の活用については、このファンドでは特段の仕組債(構造的に複雑な債券等)は組み込まれていません。運用手法はあくまで株式現物+先物取引によるエクスポージャー構築であり、分かりにくいデリバティブ組成債券などを介さずシンプルです。先物取引自体は金融派生商品ですが、その価格連動やコスト構造は透明性が高く、直接指数やコモディティ価格をトレースするものです。したがって投資家にとっては、何に投資しているかが明確(米国株と金という二つの資産そのもの)であり、運用内容がブラックボックスになりにくいというメリットがあります。

なお、先物取引を利用することでレバレッジ効果(少ない元手で大きな投資)が得られる一方、先物にはロールオーバーコスト(限月が来た際に次の限月へ乗り換えるコスト)や、想定外の価格変動時に証拠金維持のための調整が必要になる等の側面もあります。これらは日興アセット側で適切に管理されますが、先物を用いる以上、現物運用にはない特有のリスク(先物価格の急変や流動性リスクなど)がある点は留意が必要です。

為替リスクと手数料の構造

為替リスクについて

Tracers S&P500ゴールドプラスは為替ヘッジを行っていないため、円とドルの為替変動リスクを伴います。米国株式部分はドル建て資産への投資ですから、円高・円安の動きが基準価額に直接影響します(円安ドル高になれば米国株の円換算価値も上昇しファンドにプラス、円高ドル安ならマイナス要因)。金先物部分についても、金の国際価格はドル建てで動くため基本的には同様ですが、先物取引の仕組みにより金ポジションの元本部分については為替影響が限定的になる特徴があります。すなわち、金先物では契約時点でドル建ての原資産を丸ごと保有するわけではなく、評価損益や証拠金部分にのみ為替影響が生じるため、金価格そのものの変動が主な影響要因となります。その結果、ファンド全体としては米国株部分ほどには金部分での為替感応度は高くありません。ただし**トータルでは依然として「外貨建て資産への投資」**ですので、長期的な円高局面では基準価額の逆風、円安局面では追い風となる点は押さえておく必要があります。

手数料・コスト構造について

手数料体系は投資家に優しい設定となっています。購入時手数料はゼロ(ノーロード)で、ファンドを購入する際に販売会社に支払う費用はありません。また信託財産留保額(解約時のペナルティ費用)もゼロで、解約時にも直接的な費用負担はありません。ファンドの運用管理にかかる信託報酬(運用管理費用)は年率約0.1991%(税込)と低水準に抑えられています。この信託報酬はファンド純資産から日々間接的に差し引かれる形ですが、0.2%程度というのは一般的な海外株式インデックスファンド並みかそれ以下であり、2資産にまたがるレバレッジ運用としては極めて低コストと言えます。

その他、先物取引に伴う売買コスト(取引所手数料やロールオーバー時のスプレッドなど)はファンドの経費として内在化していますが、これも信託報酬に含まれる管理費用の中で処理されます。運用報告書等では先物取引に関連した費用も開示されますが、追加の隠れた費用負担が投資家に課されることは基本的にありません。総じて、本ファンドはコスト面では透明性が高く、長期保有に適した低コスト商品となっています。

想定されるリスクとリターンのバランス

リスクとリターンの特性は、このファンド最大の特徴とも言えます。純資産の2倍相当額を投資しているため、理論上のリターンもリスク(価格変動幅)も通常のファンドの2倍近くになります。ただし、2つの異なる資産を組み合わせていることで分散効果も働き、単純にリスクが2倍になるわけではありません。

  • 期待されるリターン:ファンドのリターンは基本的に**「S&P500のリターン+金先物のリターン」に近い形で積み上がります。たとえばある期間にS&P500が+10%上昇し、同期間に金価格が+5%上昇した場合、ファンド全体ではおおよそ+15%前後の上昇が期待できる計算です(先物コスト等を無視すれば単純和になります)。このように両資産が上昇局面ではリターンが重畳的に得られる(ダブルでハッピー)**点が魅力です。また長期的には株式・金それぞれの上昇分に複利効果も加わり、大きな資産成長が期待できます。実際、設定前のシミュレーションでは、2000年代以降の長期では株式単体を上回る堅調なパフォーマンスを示したことが報告されています。ただし、将来も同様の成果が得られる保証はありません。
  • リスク(価格変動の大きさ):やはり通常のインデックスファンド以上に大きな変動幅を持ちます。日々の基準価額は株式市場と金市場双方の影響を受けるため、ボラティリティ(標準偏差)は直近では年率換算で10%台後半~20%程度と推定され、一般的な世界株式ファンドに匹敵するかそれ以上です。また両資産が同時に下落した局面では2倍の下落幅を被る可能性があります(いわば「ダブルパンチ」のリスク)。例えばS&P500が急落する局面ではリスク回避の動きから金が買われる傾向がありますが、必ずしも逆相関になるとは限りません。短期的ショックでは株・金共に売られて価格が下がることもありえ、その場合ファンドの下落率は大きくなります。
  • 分散効果によるリスク緩和:上記のようなリスクはあるものの、株式と金の値動きの相関は長期的には低めです。株式が大きく下がる危機局面(例:2008年リーマン・ショック、2020年コロナ・ショックなど)では、金価格が相対的に堅調だったり上昇したりする傾向が見られました。そのため金の存在がポートフォリオの下支えとなり、株式単独で2倍のレバレッジを掛けるよりは下落リスクを抑制できる期待があります。平常時でも値動きの異なる資産を組み合わせていることで、リスクに対するリターン効率(シャープレシオなど)が向上する可能性があります。したがって、単純なレバレッジ型ファンド(例:米国株2倍ブルファンドなど)に比べれば、比較的バランスの取れたハイリスク・ハイリターン商品と位置付けられます。

以上より、このファンドのリスク・リターン特性は**「高い期待リターンと高いリスクを持つが、資産分散によってリスクを一定程度和らげた形」**と言えます。投資にあたっては、値動きの大きさを十分許容できる長期志向の投資家に適した商品と言えるでしょう。短期売買や元本割れ回避を最優先する投資家には不向きですが、長期の資産形成の中でリスクを取ってでも資産成長を目指したい人にとって、興味深い選択肢となりえます。

運用の透明性と仕組みの特徴

Tracers S&P500ゴールドプラスは、その運用プロセスや仕組みが非常に明確・透明である点も特徴です。以下にそのポイントをまとめます。

  • ルールベース運用の明確さ:このファンドは**「あらかじめ決められたルールに従って機械的に運用(トレース)する」というコンセプトで設計されています。日興アセットマネジメントの「Tracers(トレイサーズ)」シリーズとして登場した第1弾であり、アクティブ運用のように運用担当者の裁量で資産配分を変えたり個別銘柄選別をしたりしません。S&P500指数と金先物という指標に連動するよう常にポートフォリオを整え、先述の100%+100%のルールを忠実に守ります。このため、投資家はファンドの中身や動きを予測しやすい**という利点があります。実際の基準価額も、ほぼS&P500と金の相場動向から説明できるため、「なぜ今日下がったか上がったか」が理解しやすく、運用内容が不透明になりにくいのです。
  • 情報開示とトラッキングの容易さ:ファンドの月次レポートや運用報告書では、組入資産の内訳(米国株式エクスポージャーと金先物エクスポージャーの状況)、リスク指標、過去のパフォーマンス要因などが開示されます。ファミリーファンド方式(ベビーファンドがマザーファンドに投資する形)を採用しつつ先物を組み合わせているため、一見複雑そうにも思えますが、構造自体はシンプルで主要な投資先も明確です。また日々の基準価額はYahooファイナンスなどを通じて公表され、純資産総額や資金流出入も定期的に確認できます。投資信託として一般的な信託銀行による資産管理や投資信託協会ルールにも則っており、運用の透明性・健全性は通常の公募投信と同様に確保されています。
  • 商品設計上の特徴:Tracersシリーズ自体、「こんなの欲しかった」というアイデアを具現化するコンセプトで、ネット専用・ノーロードで提供されています。本ファンドもまさに「米国株100%に金をプラスで持てたら」というニーズをデザインし実現したものです。最低100円から積立投資可能であるなど投資のしやすさも追求されています(※新しいNISA制度では成長投資枠向けの商品として位置付けられていますが、つみたてNISA適格商品ではありません)。分配金も当面出さずに自動的に再投資する方針のため、効率的に資産を増やす運用がなされています。

総合すると、Tracers S&P500ゴールドプラスは**「米国株と金」という異なる資産クラスを組み合わせ、先物活用で双方にフル投資する**という独創的な仕組みを持ちながら、コスト低減や情報開示の徹底によって誰にでもわかりやすく利用できる商品になっています。運用の中身が理解しやすい透明性と、ルールに沿ったブレの少ない運用方針によって、投資家は安心して長期の資産形成プランに組み込みやすいファンドと言えるでしょう。

まとめ

  • S&P500指数と金価格にそれぞれ100%ずつ投資することで、純資産の200%相当のエクスポージャーを持つユニークなファンドです。先物取引の活用によって通常では不可能な「株も金もフル配分」を実現しています。
  • 投資手法は透明でシンプルです。米国株式はインデックス運用(マザーファンドなど)で市場全体に投資し、金は先物で価格連動を確保します。仕組債など複雑な金融商品は使わず、標準的な先物と現物運用の組み合わせです。
  • リスク・リターン特性はハイリスク・ハイリターン寄りですが、単なる2倍レバレッジ株式ファンドよりは分散効果でリスクが和らげられています。株と金がともに上昇すれば大きな利益を得られ、一方で両方下落時には大きな損失も被りえます。長期では双方の資産からのリターンと複利効果が期待できますが、価格変動も大きいため長期視点での運用が肝要です。
  • 為替リスクにも注意が必要です(ドル建て資産への投資のため円高時には逆風)。反面、手数料は購入時手数料ゼロ・信託報酬約0.2%と低コストで、継続保有しやすい設定です。
  • 運用の透明性が高く、ルールベースで分かりやすい商品です。S&P500と金という誰もが追跡できる指標を使い、明確なルール通りに運用されるため、ファンドの動きを投資家自身で把握・予測しやすくなっています。長期の資産形成において、新しい分散投資のアプローチとして注目されるファンドと言えるでしょう。

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