VT(バンガード・トータル・ワールド・ストックETF)のように全世界の株式市場に分散投資するインデックスに連動し、米国市場(NYSEやNASDAQ)上場のブル型レバレッジETF(2倍または3倍)の商品について調査しました。結論から言えば、全世界株式に直接連動するレバレッジETFは米国市場に存在しません。しかし、その代替として地域別のレバレッジETFを組み合わせることで全世界株式へのレバレッジ投資を実現する方法があります。以下では、利用可能な主なレバレッジETF(2倍および3倍)を地域ごとに紹介し、それらの特徴を詳述します。最後に、それらを組み合わせる方法と比較・留意点をまとめます。
米国株式市場対象のレバレッジETF(例:S&P 500連動)
- SSO(ProShares Ultra S&P500) – S&P 500指数の2倍の値動きを目指す日次連動型ETFです。
- 投資対象インデックス: S&P 500(米国大型株500社)
- レバレッジ倍率: 2倍(Daily 2x)
- 運用会社: ProShares(プロシェアーズ)
- 純資産総額(AUM): 約70億ドル(2025年現在)とレバレッジETFの中では最大級の規模です。流動性が高く、取引が活発です。
- 経費率: 0.89%(年率)
- 設定日: 2006年6月19日
- 主な特徴: 米国市場全体の時価総額の約80%を占める大型株指数S&P500に連動します。情報技術(AppleやMicrosoftなど)や金融など米国の主要セクターに幅広く投資しますが、小型株は含みません。日々の基準価額の変動に対し2倍となるよう調整されるため、日次リバランスの影響で長期保有時の複利効果により基準指数の2倍から乖離するリスクがあります。レバレッジ効果で上昇局面では大きな利益が期待できる一方、下落局面では損失も2倍になる点に注意が必要です。
- UPRO(ProShares UltraPro S&P500) – S&P 500指数の3倍の値動きを目指す日次連動型ETFです。
- 投資対象インデックス: S&P 500
- レバレッジ倍率: 3倍(Daily 3x)
- 運用会社: ProShares
- 純資産総額(AUM): 約45億ドル
- 経費率: 0.91%
- 設定日: 2009年6月23日
- 主な特徴: 上記SSOの3倍版に相当し、米国大型株へのより高いレバレッジ投資を可能にします。S&P500の値動きに対し日々3倍となるよう運用されます。経費率はSSOと同程度ですが、3倍という高レバレッジゆえにボラティリティの高い運用となります。短期売買や戦略的なポジション調整に利用されることが多く、長期投資には向きません(長期では指数の3倍のリターンを得られない場合があります)。なお、米国株3倍ブル型ETFには本ETFの他にDirexion社の**SPXL(Direxion Daily S&P 500 Bull 3X)**もあり、こちらも同様にS&P500の3倍(日次)連動で、経費率約1.0%、AUM約55億ドル(設定2008年11月)と比較的大型です。
米国除く先進国株式市場対象のレバレッジETF(例:MSCI EAFE連動)
- EFO(ProShares Ultra MSCI EAFE) – MSCI EAFE指数の2倍の値動きを目指す日次連動型ETFです。
- 投資対象インデックス: MSCI EAFE(イーファ:北米除く先進国株指数。主に欧州・豪州・東アジアの先進国株で構成)
- レバレッジ倍率: 2倍
- 運用会社: ProShares
- 純資産総額(AUM): 約2,000万ドル(2千万ドル)と小規模で、流動性は限定的です。
- 経費率: 0.95%
- 設定日: 2009年6月4日
- 主な特徴: 日本、イギリス、フランス、ドイツなど米国以外の先進国株式で構成されるMSCI EAFE指数に連動します。地域配分としては欧州が約半分、環太平洋(日本やオーストラリアなど)が約半分となり、新興国株式は含まれません。米ドル建てで各国株式に投資するため為替変動リスクも伴います(為替ヘッジはなし)。日次2倍のレバレッジにより、先進国株式全体の値動きを短期的に増幅させる手段となりますが、市場時間のズレ(欧州・アジア市場が米国と異なる時間で動く)により厳密な2倍効果の維持が米国株ETFより難しい側面があります。またAUMが小さいため売買スプレッドが広がりやすく、繰上げ償還のリスクにも留意が必要です。
- DZK(Direxion Daily MSCI Developed Markets Bull 3X) – MSCI EAFE指数の3倍の値動きを目指す日次連動型ETFです。
- 投資対象インデックス: MSCI EAFE(米国を除く先進国株指数)
- レバレッジ倍率: 3倍
- 運用会社: Direxion(ダイレクシオン)
- 純資産総額(AUM): 約1,000万ドル程度と、非常に小さい規模です。
- 経費率: 1.16%
- 設定日: 2008年12月17日
- 主な特徴: 上記EFOの3倍版で、米国以外の先進国株式市場に対し日次3倍のレバレッジを提供するETFです。欧州・日本株などにまとめてレバレッジ投資したい場合に利用されますが、AUMが極めて小さく流動性リスクが高いです。経費率も1%以上と高めであり、長期保有コストは大きくなります。日次リバランスによる**ボラティリティ・ドラッグ(高い変動性下での複利効果による乖離)**が顕著になりやすいため、ごく短期の取引向けのツールと言えます。
新興国株式市場対象のレバレッジETF(例:MSCI新興国指数連動)
- EET(ProShares Ultra MSCI Emerging Markets) – MSCIエマージング・マーケット(新興国)指数の2倍の値動きを目指す日次連動型ETFです。
- 投資対象インデックス: MSCI Emerging Markets(新興国株指数。中国、インド、台湾、ブラジルなど24か国の大型・中型株で構成)
- レバレッジ倍率: 2倍
- 運用会社: ProShares
- 純資産総額(AUM): 約2,300万ドルと小規模です。
- 経費率: 0.95%
- 設定日: 2009年6月2日
- 主な特徴: 中国やインド、台湾、韓国などの新興国株式市場全体に2倍レバレッジで投資します。地域的にはアジア新興国が指数の過半を占め、中国市場の動向に大きく影響されます。新興国ゆえ値動きの変動性が高くリスクも大きいです。為替リスク(米ドルと新興国通貨)や流動性リスクも伴います。日次2倍の設計上、短期的な指数変動を捉える目的には有用ですが、中長期では基準指数の2倍の成果から乖離しやすいため注意が必要です。
- EDC(Direxion Daily MSCI Emerging Markets Bull 3X) – MSCI新興国指数の3倍の値動きを目指す日次連動型ETFです。
- 投資対象インデックス: MSCI Emerging Markets
- レバレッジ倍率: 3倍
- 運用会社: Direxion
- 純資産総額(AUM): 約8,000万~9,000万ドル(市場変動により変化)
- 経費率: 1.08%
- 設定日: 2008年12月17日
- 主な特徴: 上記EETの3倍版で、新興国株式に対し最高水準(3倍)のテコ入れを行うETFです。新興国市場は先進国に比べ変動が大きいため、3倍レバレッジによって一日で数%~二桁%の価格変動が起こる可能性もあります。特に大きなイベント(政策変更や通貨危機等)が起きた場合の価格急変に留意が必要です。経費率も高く設定されていますが、純資産規模は類似の先進国向け3倍ETF(DZK)より大きく、一定の利用者がいることを示唆します。それでも一般的なインデックスETFと比べれば小規模で、出来高も限定的なため、大口取引の際は**スリッページ(希望価格で売買できないリスク)**に注意が必要です。
全世界株式レバレッジ投資の代替アプローチ
ご覧の通り、現状米国市場に**「全世界株式」を直接対象とした2倍または3倍のETFは存在しません**。これは、異なる時間帯で動く世界各国の市場全体に対し日次レバレッジを正確にかける運用の難しさや、十分な需要が見込めないことが背景にあると考えられます。そのため、地域別にレバレッジETFを組み合わせて代替する方法が現実的な選択となります。
例えば、VT(全世界株式)に相当するポートフォリオを2倍レバレッジで再現したい場合、以下のような組み合わせが考えられます(括弧内はおおよその現在の全世界株式時価総額比率):
- 米国株:約**60%**を SSO(米国S&P500の2倍)で運用
- 米国除く先進国株:約**30%**を EFO(MSCI EAFEの2倍)で運用
- 新興国株:約**10%**を EET(MSCI新興国指数の2倍)で運用
この比率配分により、VTが連動するFTSE Global All Capなど全世界指数に近い地域構成を持つ2倍レバレッジポートフォリオを構築できます。同様に3倍であれば、UPRO(またはSPXL)、DZK、EDCを6:3:1程度の比率で組み合わせる方法が考えられます。ただし、このような組み合わせを用いる場合、各ETFが日々目標倍率にリセットされる点に注意が必要です。市場環境によっては各地域の値動きに差が生じ、意図した配分から乖離することがあります。したがって、全世界株式へのレバレッジ投資を複数ETFで行う場合、定期的なリバランス(構成比の調整)が不可欠です。また、各ETFの経費率コストも重複しますので、トータルのコスト負担も考慮しなければなりません。
各ETFの比較・特徴と留意点まとめ
- 商品ラインナップと指数連動: 全世界対象の直接的なブル型ETFは無いため、米国(S&P500)、先進国(MSCI EAFE)、新興国(MSCI EM)と地域別に対象指数が設定されたレバレッジETFを利用する形になります。それぞれ対象指数の構成国・セクターが異なるため、地域偏り(例:米国はIT比率高、新興国はアジア比率高など)が生じます。結果として、組み合わせたポートフォリオ全体でもVTのような小型株まで含む超分散には及ばず、大型株中心の構成になる点に留意してください。
- レバレッジ倍率とリスク: 2倍と3倍ではリスク・リターン特性が大きく異なります。3倍は日々の値動きがより大きく、わずか数日の急落で元本の大半を失う可能性もあります。日次レバレッジETFはいずれも**複利効果による乖離(ボラティリティ・ドラッグやパス依存性)**が存在するため、特に3倍ではその影響が顕著です。安易な長期保有は危険であり、想定通りの2倍・3倍のリターンにならないケースが多いです。従って、短期売買や戦略的なポジション調整用途に限定し、日々または頻繁にモニタリングすることが推奨されます。
- 運用会社と経費率: 米国レバレッジETF市場ではProShares社とDirexion社が主要なプレイヤーで、本調査で挙げたETFもこの2社が運用しています。経費率は概ね0.9%~1.1%台と高めで、通常のインデックスETF(VTの経費率はごく低廉です)と比べるとコスト負担は無視できません。また、各ファンドの設定日を見ると2006~2009年と比較的歴史はありますが、純資産規模には大きな差があります。米国株レバレッジETF(SSOやUPROなど)は数十億ドル規模で安定的ですが、国際株のレバレッジETF(EFO, EET, DZK, EDC)は数千万~数億ドル程度とかなり小さく、繰上げ償還リスク(規模縮小により運用が終了するリスク)も考えられます。
- 流動性と取引面: AUM規模の大きい米国株レバレッジETFは出来高も多くスプレッド(売買気配の差)も狭い傾向にあります。一方、国際株(先進国・新興国)レバレッジETFは出来高が少なく、指値注文しても約定しにくかったり希望価格とかけ離れた価格での取引となる可能性があります。投資家は取引執行リスクを管理するため、マーケットメイカーの動向や気配値を注視し、場合によっては小分けに売買するなどの工夫が必要です。
- 戦略的特徴: 以上のETF群を組み合わせればVTのような全世界株式へのレバレッジ投資が可能になりますが、その戦略は高度なリスク管理を伴う積極的な戦術と言えます。全世界に分散していてもレバレッジによってボラティリティは高まり、短期的な損益ブレも非常に大きくなります。また各地域の経済・金融イベント(米国の金融政策や欧州の政局、新興国の通貨変動など)の影響も拡大されてポートフォリオに跳ね返ってきます。したがって、これらレバレッジETFを使った全世界投資は経験豊富な投資家が市場急変時にも迅速に対応できる体制で行うべきであり、初心者や長期の資産形成目的には適しません。
以上を簡潔にまとめると、VTのような全世界株式に直接連動する2倍・3倍のETFは米国市場に存在しないため、米国・先進国(米国除く)・新興国のレバレッジETFを組み合わせるアプローチが必要です。それぞれにティッカー(SSO, UPRO, EFO, DZK, EET, EDCなど)と対象指数、レバレッジ倍率、経費率、規模、リスク特性があり、総合すると米国株レバレッジETFは規模大・安定、国際株レバレッジETFは規模小・流動性注意という傾向が見られます。投資に当たっては、各商品の特徴とリスクを十分に理解し、短期的な値動きへの対応力を持って運用することが肝要です。全世界をカバーする分散効果はあるものの、レバレッジによるリスク増幅と運用コスト増も大きいため、安易な長期保有は避け、計画的な活用が求められます。
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