2024年世界の金産出国ランキング

金は古くから貴重な資源として重宝され、現在でも投資需要や工業用途で需要が伸びています。一方で、新たな大規模鉱床の発見は減少傾向にあり、既存鉱山の枯渇や環境規制の強化など、供給面では課題も見られます。こうした中、2024年の最新データに基づく世界の金鉱山からの産出量ランキング(年間産金量)と、各国の生産動向や背景について解説します。

第1位:中国 – 世界最大の産金国

中国は世界最大の金産出国です。2023年時点の年間産出量は約370トンに達し、2024年も約380トンと推定されます。これは世界全体の約1割強を占める量で、2位以下を大きく引き離しています。中国が金生産で世界首位に立ったのは2007年で、当時長年トップだった南アフリカを抜き去って以来、その地位を堅持しています。

中国の金鉱業が急成長した背景には、政府の強力な後押しと鉱業への投資があります。新疆ウイグル自治区や山東省など各地で大規模な金鉱山開発が進められ、国内の生産能力が飛躍的に向上しました。しかし近年、環境保護意識の高まりから採掘に対する規制が強化されつつあり、鉱山開発は環境との両立が課題となっています。また労働安全や効率化にも引き続き注力が必要です。一方、中国自体が世界有数の金需要国(宝飾品や投資用の消費大国)であり、国内需要の増加が生産拡大の原動力となってきました。今後は環境に配慮した持続可能な採掘技術の導入や、新規鉱床の発見による埋蔵量の確保が、中国の金産出維持の鍵を握るでしょう。

第2位:ロシア – 豊富な埋蔵量と制約下での高水準生産

ロシアは年間約310トンの産出量で、中国に次ぐ世界第2位の金生産国です(オーストラリアと拮抗する水準)。近年のロシアの金生産は堅調で、2010年代半ばには約250トン規模だった産出量を現在は300トン超まで伸ばしてきました。これはシベリアや極東地域に点在する豊富な金鉱床と、国家主導の開発計画に支えられた結果です。ロシアは推定約12,000トンという世界第2位の金埋蔵量を有し、長期的な生産ポテンシャルも非常に大きいとされています。

広大な国土に豊富な資源を抱えるロシアでは、政府支援策や海外資本の導入によって金鉱山開発が加速し、生産増加に繋がりました。しかし、生産を取り巻く課題もあります。シベリアの厳しい寒冷気候や鉱山が位置する辺境地域での採掘は技術的・経済的コストが高く、効率化が常に課題です。また地政学的リスクも無視できません。2022年以降、ウクライナ侵攻に伴う国際制裁でロシア産の金は従来の欧米市場へ流通しにくくなり、輸出面で制約を受けました。そのためロシアは自国の中央銀行による金の買い入れを積極化させたり、中国やインドなどBRICS諸国をはじめとする代替市場への販売に力を入れる動きがみられます。ロシアの代表的な金鉱山には、シベリアのオリンピアーダ鉱山(世界有数の高産出鉱山で、年間約45トンもの産金実績があります)などがあり、豊富な埋蔵資源を背景に今後も高水準の生産を維持すると見込まれます。

第3位:オーストラリア – 安定した生産と世界最大の埋蔵量

オーストラリアは年間約290トン前後の金を産出し、世界第3位につけています(ロシアとほぼ並ぶ水準です)。前年(2023年)の約296トンからわずかに減少しましたが、長期的には安定した生産国です。世界有数の鉱物資源大国として知られるオーストラリアは、19世紀のゴールドラッシュ以来、金採掘の長い歴史と実績があります。現在でも世界全体の約9%程度の金供給を担っており、その地位は堅固です。特筆すべきは埋蔵量の多さで、オーストラリアの確認埋蔵量は推定**13,000トン規模(世界最大)**に達し、将来的な資源供給力でもトップクラスです。

オーストラリアの金鉱業は、長年にわたる経験と高度な採掘技術によって支えられています。西オーストラリア州のカルグーリー地区にあるスーパーピット(金の露天掘り鉱山)や、ニューサウスウェールズ州のカディアバレー鉱山など、世界的に有名な大規模金鉱山を数多く有しています。近年、業界全体としては採掘コストの上昇や環境規制の強化に直面しており、効率的かつ持続可能な採掘方法への転換が進められています。例えば省エネルギー型の機械導入や、廃水処理の高度化など環境負荷を減らす取り組みが活発です。また、豊富な地質知見と最新の探査技術を活かし、新たな金鉱脈・鉱床の発見も期待されています。こうしたイノベーションにより、オーストラリアは今後も安定して高水準の産金量を維持し続けるでしょう。

第4位:カナダ – 緩やかな増産傾向と豊富な鉱山資源

カナダは年間約200トンの金を産出しており、世界第4位の産金国です。2024年の生産量はおよそ200トンで、前年(約198トン)からわずかに増加しました。カナダの金生産はここ数年緩やかな増産傾向にあり、その背景には新規鉱山プロジェクトの立ち上げや拡張、生産技術の向上などがあります。金鉱業はカナダ経済に大きく貢献しており、金は同国で最も価値の高い鉱産資源です。2023年には金の輸出額が前年比35%増加し、国家の主要な輸出品目となっています。

カナダの金鉱床は主にオンタリオ州やケベック州に集中しており、両州だけで国内産出量の約7割を占めます。これらの地域には世界的に有名な鉱山が数多く存在します。例えば、ケベック州のカナディアン・マラティック鉱山(世界有数の露天掘り金山)では年間20トン超の金が産出されており、オンタリオ州のディトゥア湖鉱山もそれに匹敵する規模です。またヌナブト準州など北部での鉱山開発も進んでおり、寒冷地での採掘技術が発達している点もカナダの強みです。安定した政治環境と鉱業に適した投資気候の下、カナダは引き続き堅調な金生産を維持し、世界の金市場で重要な役割を果たし続けるでしょう。

第5位:アメリカ合衆国 – 安定生産と近年の緩慢な減少

米国は年間約160~170トンの金を産出する世界第5位の金生産国です。2024年の生産量は推定160トンで、前年の170トンからやや減少しました。実は米国の年間産金量は2010年代後半以降じわじわと減少傾向にあり、2017年には約237トンを産出していましたが、それから数年かけて現在の水準まで下がっています。ただし依然として世界生産の5%前後を担っており、主要産金国の一角を占めます。

アメリカの金生産の大半(およそ70%)はネバダ州からもたらされています。ネバダ州は「現代のゴールドラッシュ」とも呼ばれる金鉱地帯で、カリフォルニアのゴールドラッシュ時代から現在に至るまで、全米最大の金産出州です。ネバダ州には巨大な金鉱脈が数多く存在し、バリック・ゴールド社とニューモント社の合弁事業であるネバダ・ゴールドマインズ社が管理するカリリン鉱床やコルテズ鉱山など、世界屈指の金鉱山が操業しています。これら上位数十の鉱山だけで**米国産金量の約97%**を占めており、非常に集約的な生産構造になっています。残りの産出はアラスカ州(全体の約16%)やその他の西部の州からのものです。

米国は地質学的にはまだ多くの金資源を秘めているとされ、推計では確認済みおよび推定埋蔵資源が計33,000トンに上るとも言われます。しかし、新規鉱山開発には環境保護規制や地元の反対などハードルも多く、大規模新鉱床の発見・開発は近年減少傾向です。既存鉱山も成熟期を迎えつつあり、生産量はピークからやや縮小しています。それでも、高度な採掘技術や効率化によって米国は安定した金の供給を維持しており、引き続き世界有数の産金国であり続ける見通しです。

第6位:カザフスタン – 新興の金生産国

中央アジアに位置するカザフスタンは、年間約130トンの金を産出し世界第6位前後につけています。近年、カザフスタンの金生産量は飛躍的に伸びており、たとえば2016年には70トン弱だった産出量が2024年には130トン程度と、ほぼ倍増しました。この成長によりカザフスタンは主要産金国の仲間入りを果たしています。

カザフスタンが金生産を伸ばした背景には、政府の積極的な鉱業振興策と海外からの投資誘致があります。同国は石油やウランをはじめ鉱物資源が豊富で、金についても有望な鉱床が各地に存在します。代表例が北部にあるアルティンタウ・コクシェタウ鉱山で、これは資源メジャーのグレンコア社が所有する大規模金山です。こうした大鉱山の開発や拡張によって国内産金量が押し上げられました。またカザフスタン政府は金の精錬・加工分野にも力を入れており、付加価値向上を図っています。ロシアの大手金鉱企業ポリメタル社(現SolidCore Resources)がカザフスタン国内資産を強化するなど、国際的な企業も同国での生産拡大に寄与しています。中央アジアの新興金生産国として、カザフスタンは今後も鉱区の開発や探査によりさらなる生産増加が期待されます。

第7位:メキシコ – 長い採掘の歴史と安定生産

メキシコは年間約130トン前後の金を産出し、世界で6~7位クラスの産金国です。2024年の産出量は約130トンと推定され、前年(約127トン)からわずかに増加しています。メキシコの金採掘の歴史は古く、16世紀のスペイン植民地時代にまで遡ります。当時から金(と銀)は中南米における主要な採掘資源であり、現代に至るまでメキシコ経済にとって重要な位置を占めています。現在、金はメキシコの鉱産資源生産額の約半分を占めるまでになっており、同国の主要な輸出品目の一つです。

メキシコ国内には大小多数の金鉱山が存在し、特にソノラ州やチワワ州が主要な産出地域として知られます。産金業の多くはカナダや米国など海外資本の鉱山会社によって担われていますが、メキシコ企業も存在感を示しています。その一つであるフレズニージョ社は、ソノラ州にあるエラドゥラ鉱山を運営しており、この鉱山は2024年時点で年間約10トンの金を産出する同国最大級の金山です。メキシコ政府は鉱業セクターへの投資誘致と規制緩和に取り組んできており、鉱区の拡大や近代的採掘技術の導入が進みました。その結果、金の産出量は緩やかながら増加基調を辿っています。豊富な銀資源で知られるメキシコですが、金についても安定した生産が続いており、今後も堅調な推移が見込まれます。

第8位:ガーナ – アフリカ最大の産金国

ガーナは西アフリカの産金大国で、年間約125~130トンの金を生産し世界第8位前後に位置しています。近年ガーナの金生産は目覚ましい伸びを示し、2010年代半ばには80トン台だった年間産出が、2020年代に入ってから120トンを超えるようになりました。その結果、ガーナは伝統的な金生産国であった南アフリカを追い抜き、アフリカ大陸で第1位の金産出国となっています。

ガーナで金採掘が盛んなことは植民地時代から知られ、かつて「ゴールド・コースト(金の海岸)」と呼ばれたほどです。現代のガーナ経済においても金は最重要輸出品であり、2023年には金輸出が全輸出額の6割超を占めました。生産面では海外鉱山会社の存在が大きく、ニューモント社(米)が操業するアハフォ鉱山や、ゴールドフィールズ社(南ア)が運営するタルクワ鉱山など、世界的企業が大型鉱山を稼働しています。これらの鉱山は年間それぞれ15トン前後の金を産出しており、ガーナの総生産を牽引しています。一方で、中小規模の鉱山や地元の**違法採掘(ガラムセイ)**による環境破壊が社会問題となっており、政府は違法採掘の取り締まりや小規模鉱山の合法化支援に力を入れています。豊富な鉱床資源と安定した政情に支えられ、ガーナは今後もアフリカのトップ産金国として生産を維持・拡大していく見通しです。

第9位:ウズベキスタン – 世界有数の巨大鉱山を擁する国

ウズベキスタンは中央アジアに位置し、年間約120トンの金を産出する国です。2024年は推定120トンと、前年の100トン程度から大きく生産を増やしました。この伸びによりウズベキスタンは世界ランキングでトップ10圏内に入っています。旧ソ連圏ではロシアに次ぐ金生産国であり、その歴史はソ連時代に遡ります。

ウズベキスタンが特筆すべきなのは、同国にムルンタウ金山という世界最大級の露天掘り金鉱山が存在することです。ムルンタウでは1950年代に大規模な金鉱脈が発見され、以降、本格的な採掘が開始されました。この鉱山一つで年間80トン近い金を産出する年もあるほど巨大で、埋蔵量は推定4,500トン以上と世界有数です。ムルンタウを運営するのは国有企業のナボイ鉱山冶金会社で、ウズベキスタンの金産業を支える中核企業です。ソビエト連邦崩壊直後の1990年代半ばには一時生産が落ち込みましたが、2010年代後半から政府は鉱業セクターへの再投資と近代化を進め、金の年間産出量は回復・増加基調にあります。特にムルンタウ鉱山では採掘・処理能力を拡大する計画が進行中で、2026年までに処理鉱石量を年3,850万トンから5,000万トン規模へ増強する見通しです。こうした設備投資により、ウズベキスタンの金生産量は今後さらに増大すると期待されています。今なお豊富な未開発鉱区も残されており、政府は海外の鉱山企業とも協力しつつ探鉱を進めています。ウズベキスタンは中央アジアの新興産金国として存在感を増してきており、長期的に見ても生産拡大の余地が大きい国と言えるでしょう。

第10位:南アフリカ – 往年の王者から一転して減退

南アフリカ共和国の年間産金量は約100トンで、世界第10位前後に位置しています。2024年はおよそ100トンと推定され、前年の約104トンからさらにわずかに減少しました。南アフリカは20世紀後半まで圧倒的な世界一の金産出国でした。1970年頃には年間1,000トンを超える金を生産していた記録もありますが、その後は長期的な産出量の低下が続いています。1980年から2018年の間に南アフリカの金生産量は実に85%も減少したとも報じられており、かつて「黄金大国」と呼ばれた同国は、21世紀に入り大きく地位を下げました。

産出減少の主な要因は、鉱脈の枯渇と採掘条件の悪化です。南アフリカの金鉱床の多くはウィットウォーターズランド盆地に集中していますが、この地域の鉱山は採掘が百年以上続けられ、現在では地下数千メートルに及ぶ超深部での採掘を強いられています。掘削深度が増すほど技術的難易度もコストも跳ね上がるため、生産性の低下は避けられません。また、近年は電力事情の悪化(計画停電の頻発による操業影響)や鉱山労働者のストライキなど社会・労働問題も生産停滞に拍車をかけています。2024年にはヨハネスブルク西方の金鉱で、不法就労者の排除を目的とした坑道封鎖措置が実行されるなど、鉱山を取り巻く治安問題も浮上しました。南アフリカでは失業や貧困から違法採掘に手を染める人も多く、推計で国内産金量の約1割は6,000箇所以上ある放棄鉱山からの違法産出とも言われます。こうした違法採掘は安全管理されておらず事故や犯罪の温床になっているため、政府は対策を迫られています。

依然として南アフリカの地下には莫大な金埋蔵資源が眠っていると考えられており、その量は世界全体の1割にも達すると推計されています。しかし現状では採掘技術や経済性の問題から活用できずにおり、「宝の山」ながら掘り出せない状態が続いています。世界的な金価格の高騰や技術革新がない限り、生産量の劇的な回復は難しいでしょう。それでも南アフリカは長年培った鉱業インフラと知見を有しており、現在もアフリカ第2位の産金国として存在感を保っています。将来的には安全対策や効率化を図りつつ、限られた鉱脈から可能な限り採算を取る形での生産維持に注力していくとみられます。

まとめ – ランキングの要点

  • 上位3か国が世界生産の約30%を占有: 世界の金鉱山生産量ランキングでは、中国(約380トン)が首位を維持し、ロシア(約310トン)とオーストラリア(約290トン)がそれに続いています。このトップ3で世界全体の産金量のおよそ3割強を占めており、いずれも安定した高水準の生産国です。
  • 新興国の台頭: カザフスタン、ウズベキスタン、ガーナといった新興の産金国が近年生産を大きく伸ばし、トップ10圏内に食い込んできました。中央アジアやアフリカの国々が鉱業政策の強化や海外投資の誘致によって産出量を増やしており、金市場における存在感を高めています。
  • 旧産金大国の停滞: アメリカや南アフリカなど、かつて世界をリードした伝統的産金国は、鉱脈枯渇や採掘コスト増大、労働環境の問題などから生産が伸び悩むか減少傾向にあります。特に南アフリカの没落は顕著で、他方で中国やロシアといった新勢力が台頭した結果、ランキング上位の顔ぶれはこの数十年で大きく様変わりしました。

全体として、世界の金需要が堅調に拡大する中、各国は限りある鉱山資源をめぐって増産と持続可能性の両立という課題に直面しています。新規の有望鉱床の発見や最新技術の導入によって生産を維持・強化しつつ、環境対策や違法採掘の抑制にも取り組むことが、今後の金産出国に共通する重要テーマと言えるでしょう。

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