二以上事業所勤務制度の概要

法人役員を含め、同時に2社以上で常勤して報酬を受ける場合には、健康保険・厚生年金で「二以上事業所勤務者」として扱います。いずれの事業所も社会保険の加入要件を満たすとき、被保険者本人の届け出によりいずれか1社を主たる事業所(選択事業所)に定め、その他を従たる事業所としますnenkin.go.jpnenkin.go.jp。このとき、各社からの報酬月額を合算し、その合計額で標準報酬月額を算定しますnenkin.go.jpjob.fellow-s.co.jp。そして、この合算した標準報酬月額に基づく健康・厚生年金保険料を、各事業所の報酬月額比率で按分して各社が負担しますnenkin.go.jpjob.fellow-s.co.jp

主たる事業所・従たる事業所の選択

「主たる事業所」は、被保険者(役員本人)が届け出によって選択しますnenkin.go.jpjob.fellow-s.co.jp。選択した事業所の所在地を管轄する年金事務所および健康保険(協会けんぽまたは健康保険組合)が、主たる保険者として手続きを行います。一方、選択しなかった他の事業所を従たる事業所と呼びます。主たる事業所では手続きが集中的に行われ(健康保険証も主たる事業所のみ発行されます)、従たる事業所ではあくまで保険料負担などで参加する形になりますjob.fellow-s.co.jpuse-charlotte.jp

手続き・届出先

  • 各事業所(法人)側では、新たに加入義務が生じる役員ごとに「被保険者資格取得届」をそれぞれの管轄年金事務所・保険者に5日以内に提出します。その際、備考欄に「二以上勤務者」である旨を記載しておきますohno-jimusho.co.jp
  • 被保険者(役員)本人は、事実発生から10日以内に選択する事業所の管轄年金事務所へ「健康保険・厚生年金保険 被保険者所属選択・二以上事業所勤務届」を提出しますohno-jimusho.co.jpnenkin.go.jp。これにより主たる事業所が正式に決まります。
  • 健康保険組合加入の場合は、合わせて該当組合への届出も必要ですnenkin.go.jp。また70歳以上被用者の場合は別途「70歳以上被用者届」の提出も要しますnenkin.go.jp

標準報酬月額の合算方法

被保険者が複数事業所で給与・報酬を得るとき、各事業所ごとの報酬月額を合算した額をその者の「報酬月額」として扱います。法律上も健康保険法44条3項および厚生年金保険法24条2項で、同時に2以上の事業所で報酬を受ける者については各事業所で算定した額の合算額を報酬月額とする旨が定められていますja.wikibooks.org。したがって、各社から得る毎月の報酬を合計し、その合計額に基づいて標準報酬等級表から標準報酬月額を決定しますnenkin.go.jpjob.fellow-s.co.jp。例えばA社から20万円、B社から30万円を得ていれば、合計50万円を基に標準報酬月額を決定します。なお、各社分の報酬には通常の給与や役員手当、通勤手当などが含まれます。

保険料の算定と按分方法

合算した標準報酬月額に健康保険料率・厚生年金保険料率を乗じて保険料総額を計算します。この総額について、各事業所の報酬月額の比率で按分して各社分を求めますnenkin.go.jpohno-jimusho.co.jp。具体的には、健康保険法施行令や厚生年金保険法施行規則に規定があり、各事業主の負担額は「(被保険者負担分半額)×(各事業所の報酬÷全報酬合計)」で計算されますyamakawa-sr.net。例えば総保険料が5万円で、A社報酬割合が40%・B社が60%なら、A社・B社の保険料はそれぞれ2万円・3万円となります。なお、事業主負担分と被保険者負担分は折半となるため、上記額のうち半額が従業員(役員)から控除され、残りを各社が負担します。

法人間の保険料負担と会計処理

各社はそれぞれ、自社に割り当てられた保険料を納付します。具体的には、年金事務所から送付される「保険料決定通知書」には各社分の保険料額が記載されますuse-charlotte.jp。各社はその金額を自社の管轄する年金事務所等に納付するとともに、従業員負担分はそれぞれの給与から天引きして納付しますjinzai-info.comjinzai-info.com。会計上は、従業員負担分は給与関連科目と相殺処理し、事業主負担分は法定福利費等の費用として計上します。法人間で相互に精算する必要はなく、各社が自社分を個別に処理します。

役員に特有の留意点

  • 被保険者性の判定:役員が社会保険に加入するには、「定期的な出勤・指揮監督・役員会出席等」の要素から実質的に常勤と判断される必要があります(昭和24年7月28日保発74号ほか)ohno-jimusho.co.jp。したがって、役員であってもこれらの要件を満たせば被保険者となりうる一方、両社のいずれかで実質的勤務がなければ二以上勤務には該当しませんuse-charlotte.jp。例えば「A社で給与を受けている従業員、B社で名目上のみの役員(報酬なし)」や「A社・B社とも役員報酬ありだがB社では勤務実態ゼロ」というケースでは、本制度は適用されませんuse-charlotte.jp
  • 法人設立時の加入:法人は設立時点で「適用事業所」とされるため、役員報酬が支払われる場合は基本的に社会保険加入が義務づけられますhorishita.com。これにより新設法人の役員も、所定の要件を満たせばすぐに加入手続きが必要です。
  • 報酬変更時の対応:両社のいずれかで役員報酬が大きく変動した場合、その事業所では随時改定(各種の届け出)を検討します。この際、合算した標準報酬月額自体は再計算されますが、実務上は変動のあった事業所で単独で手続きを進めることが多いですohno-jimusho.co.jp。変更後は改めて保険料を再按分します。
  • 事務手続き上の注意:主たる事業所を管轄する年金事務所が、主・従それぞれの事業所に保険料決定通知を送付しますuse-charlotte.jp。届出や算定基礎届・月額変更届等は、主選択事業所・従たる事業所ともにそれぞれ主選択事業所管轄の年金事務所へ提出しますuse-charlotte.jp。また、健康保険組合の場合は組合への届出先が異なる点にも留意します。

以上が、複数法人で常勤する役員に適用される二以上事業所勤務制度の取扱いです。標準報酬月額は各社分を合算して算定し、保険料は各社分を報酬割合で按分して負担しますnenkin.go.jpyamakawa-sr.net。制度の運用は日本年金機構のガイドラインに沿っており、法令(健保法44条3項・厚年法24条2項等)にも根拠がありますja.wikibooks.orgnenkin.go.jp。なお、会計上は各法人がそれぞれの負担分を法定福利費等で処理し、従業員負担分を給与から控除して納付する点に留意します。 

参考文献: 日本年金機構告知資料nenkin.go.jpnenkin.go.jp、社労士解説ohno-jimusho.co.jpohno-jimusho.co.jpohno-jimusho.co.jpuse-charlotte.jpuse-charlotte.jpyamakawa-sr.net等。

引用

複数の事業所に雇用されるようになったときの手続き|日本年金機構

https://www.nenkin.go.jp/service/kounen/tekiyo/hihokensha1/20131022.htmlhttps://www.nenkin.go.jp/service/kounen/tekiyo/hihokensha1/20131022.files/2kashoijyokinmu.pdf複数の事業所に雇用されるようになったときの手続き|日本年金機構https://www.nenkin.go.jp/service/kounen/tekiyo/hihokensha1/20131022.html二以上事業所勤務とは?https://job.fellow-s.co.jp/law-info/fukusu二以上事業所勤務とは?https://job.fellow-s.co.jp/law-info/fukusu2つ以上の事業所に雇用される際、適用となる二以上勤務被保険者が 増える可能性も。実務上の整理を行っておきましょう。 | 労務DXならCharlotte(シャーロット)https://use-charlotte.jp/columns/c018/3809.renhttps://www.ohno-jimusho.co.jp/wp-content/uploads/2020/03/news20111215_2.pdf3809.renhttps://www.ohno-jimusho.co.jp/wp-content/uploads/2020/03/news20111215_2.pdfhttps://www.nenkin.go.jp/service/kounen/tekiyo/hihokensha1/20131022.files/2kashoijyokinmu.pdf健康保険法第44条 – Wikibookshttps://ja.wikibooks.org/wiki/%E5%81%A5%E5%BA%B7%E4%BF%9D%E9%99%BA%E6%B3%95%E7%AC%AC44%E6%9D%A13809.renhttps://www.ohno-jimusho.co.jp/wp-content/uploads/2020/03/news20111215_2.pdf保険料の負担及び納付義務/健康保険法6-14 http://yamakawa-sr.net/ver1/text/kenpo/kenpo_103.html複数の会社から給与が払われている場合の社会保険料の扱いは? | 横浜の社会保険労務士法人ジンザイ|株式会社人財経営センターhttps://jinzai-info.com/information/%E8%A4%87%E6%95%B0%E3%81%AE%E4%BC%9A%E7%A4%BE%E3%81%8B%E3%82%89%E7%B5%A6%E4%B8%8E%E3%81%8C%E6%89%95%E3%82%8F%E3%82%8C%E3%81%A6%E3%81%84%E3%82%8B%E5%A0%B4%E5%90%88%E3%81%AE%E7%A4%BE%E4%BC%9A%E4%BF%9D/複数の会社から給与が払われている場合の社会保険料の扱いは? | 横浜の社会保険労務士法人ジンザイ|株式会社人財経営センターhttps://jinzai-info.com/information/%E8%A4%87%E6%95%B0%E3%81%AE%E4%BC%9A%E7%A4%BE%E3%81%8B%E3%82%89%E7%B5%A6%E4%B8%8E%E3%81%8C%E6%89%95%E3%82%8F%E3%82%8C%E3%81%A6%E3%81%84%E3%82%8B%E5%A0%B4%E5%90%88%E3%81%AE%E7%A4%BE%E4%BC%9A%E4%BF%9D/3809.renhttps://www.ohno-jimusho.co.jp/wp-content/uploads/2020/03/news20111215_2.pdf2つ以上の事業所に雇用される際、適用となる二以上勤務被保険者が 増える可能性も。実務上の整理を行っておきましょう。 | 労務DXならCharlotte(シャーロット)https://use-charlotte.jp/columns/c018/〖お役立ち情報〗会社役員の社保加入は義務? 役員報酬が支払われる会社役員に関する取扱い、手続きや保険料など、役立つポイントをわかりやすく解説 | 社会保険労務士法人 堀下&パートナーズhttps://horishita.com/tips-hints/%E6%89%8B%E7%B6%9A%E3%81%8D/tips-5858/2つ以上の事業所に雇用される際、適用となる二以上勤務被保険者が 増える可能性も。実務上の整理を行っておきましょう。 | 労務DXならCharlotte(シャーロット)https://use-charlotte.jp/columns/c018/

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