正：政府による閉鎖と恒久的な解雇を正当化する論理
政府側のテーゼは「財政規律と行政の再編」です。行政管理予算局（OMB）が各省庁に送ったメモは、裁量予算が10月1日に失効するプログラムや「大統領の優先事項と一致しない」事業を特定し、資金の途切れる職員を恒久的に削減する計画を準備するよう指示しました。この方針の背景には、長年共和党が掲げる「行政国家の縮小」があり、財政赤字と債務の増加を抑えるために連邦政府の規模や職員数を削減するという考え方があります。実際、トランプ政権は2025年までに解雇や退職奨励により約30万人の職員を減らしたと報じられています。
メモでは、過去の政府閉鎖で用いられてきた一時帰休（休職）だけでなく、裁量予算に依存する部門を対象に恒久的な解雇を検討するよう求め、閉鎖後も最小限の要員で法定機能を維持すると記されています。OMBは「義務的支出で賄われないプログラムが閉鎖の矢面に立つ」と述べ、社会保障やメディケア、軍事活動などの法定プログラムは停止しないと強調しています。つまり、政府側は不可欠なサービスを守りつつ、優先度の低い事業を整理することで効率的な行政運営を目指しているのです。
反：大規模な解雇に対する反論と懸念
アンチテーゼは、恒久的な解雇がもたらす社会的・経済的な損害を指摘します。通常の政府閉鎖では、非必須職員は一時的に無給休職となる一方、閉鎖後に遅延分の給与が支払われます。しかし今回は恒久的な解雇が計画されているため、再雇用の保証がなく、雇用者本人だけでなく地域経済にも長期的な悪影響が及ぶ恐れがあります。アメリカ連邦政府労働者の労組AFGEは、メモが「大統領選挙の公約として否定されたProject 2025の実行」であり、社会保障庁では半数の職員削減が計画され、環境保護庁では65％の人員削減が見込まれると批判しています。同労組のトップは、長い待ち時間の増大や食品安全検査の減少、医療研究の停滞、航空旅行の安全リスクなど、サービス低下による国民生活への影響を列挙し警鐘を鳴らしています。
経済的影響も無視できません。米議会予算局は2018〜2019年の部分的な政府閉鎖（5週間）が裁量支出を180億ドル先送りし、2019年1–3月期の実質GDPを80億ドル（0.2％）押し下げ、長期的に30億ドル（0.02％）の損失が発生したと試算しました。恒久的な解雇はこのような一時的影響よりも深刻で、家計所得や地域雇用の恒久的な低下を招き、個人消費や企業業績の下振れリスクを高めます。議会民主党の指導者シューマー上院院内総務とジェフリーズ下院院内総務は、このメモを「恫喝」だと批判し、解雇は裁判で覆されるか職員が復職すると予測しています。専門家も、恒久的な解雇が熟練人材の流出による行政サービス低下と経済への自己破壊的な影響を招くと懸念を示しています。
合：対立の止揚（ジンテーゼ）
両者の主張を統合するためには、行政改革と公共サービス維持のバランスを取る現実的な制度設計が必要です。まず、毎年の予算成立が遅れた際には自動的につなぎ予算が発動される「自動継続決議（automatic continuing resolution）」制度を採用し、政府閉鎖を回避する仕組みを整えるべきです。また、労組が指摘するように無差別の大規模解雇ではなく、業務効率化やデジタル化による省人化、職員の再配置や再教育を通じて長期的なコスト削減を図る方法があります。行政管理予算局が各機関の計画を秘密裏に進めていることに対し、元OMB職員を含む有識者は、シャットダウン時の運営計画を事前に公表して透明性を高めるべきだと提言しています。透明な計画は、従業員や地域社会が将来を見通し、混乱を最小限にする助けとなります。
さらに、裁量予算の削減を行う場合でも、社会保障・医療・環境保護など広範な国民サービスへの影響を数値で評価する仕組みや、独立機関による効果検証が不可欠です。議会は政争の道具としてシャットダウンを利用するのではなく、超党派で持続可能な財政運営策を協議し、政府職員の雇用安定や国民サービスの品質を保障する責任を負うべきです。政府が本当に「効率化」を目指すなら、人員削減と同時に労働者の新しいキャリア形成支援や地域経済への投資を行い、「行政改革によって国民生活が向上する」という長期的なビジョンを示す必要があります。
要約
米国では2025年10月1日に向けた政府閉鎖の可能性が高まり、行政管理予算局が各機関に恒久的な人員削減計画の準備を命じました。政府側は財政規律や行政改革を理由に、裁量予算が失効するプログラムの職員を削減し、優先順位の高い事業に集中する方針を示しています。これに対し労組や民主党は、恒久的解雇が過去の一時帰休とは異なり公共サービスの劣化と地域経済の低迷を招くと批判し、社会保障庁や環境保護庁などの大幅な職員削減が具体的に進められていると指摘しています。米議会予算局の試算では2018–2019年の部分的政府閉鎖でもGDPが減少しており、今回のような恒久的な解雇はさらに深刻な経済的・社会的損失をもたらす恐れがあります。こうした対立を乗り越えるには、予算自動継続制度や透明な業務効率化計画の導入、職員再配置支援などを通じて行政改革と公共サービス維持の両立を図る必要があります。
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