正面(テーゼ)—強みとプラス要素
- ブランド資産と商品の強さ:ディアジオはスコッチ「ジョニー・ウォーカー」やウォッカ「スミノフ」、ビール「ギネス」、テキーラ「ドン・フリオ」など世界的に認知度の高いブランド群を持つ。2025年度はドン・フリオとギネスが全地域で二桁成長を達成し、ジョニー・ウォーカーもシェア拡大を続けた。ノンアルコール飲料「ギネス0.0」のような商品は40%超の成長率で、健康志向の消費者から支持を集めている。
- 販売の底堅さとキャッシュフロー:報告されたネット売上高は前年比0.1%減と横ばいだが、価格政策と出荷増に支えられてオーガニック・ネット売上高は1.7%増となり、アナリスト予想の1.4%増を上回った。その結果、フリーキャッシュフローは27億ドルへ0.1億ドル増加した。
- 市場別成長:北米・欧州・ラテンアメリカ&カリブ海・アフリカではオーガニック成長を実現し、中でも北米は1.5%増となった。経営陣はコスト削減目標を6億2500万ドルに引き上げ、効率化に取り組んでいる。
- マーケティングの成功例:ドン・フリオでは韓国のDJペギー・ゴウと協働し、限定ボトル「194구(194Gou)」をデザインするなど、カルチャーや音楽と結び付けたキャンペーンを展開している。新ボトルはグローバルで販売され、DJの美学を取り入れたミントグリーンと紫の配色やホログラフィックラベルが話題になった。
反面(アンチテーゼ)—課題とマイナス要因
- 利益の大幅減少:2025年度の営業利益は27.8%減の43億ドルと大幅に落ち込み、通期の純利益も約30%減少した。アジア太平洋では中国経済の減速により売上が3.2%減となり、全社の足かせとなった。
- 経営混乱と消費者センチメントの悪化:CEOのデブラ・クルーが辞任し、新CEOを探す中で経営の空白が生じた。世界的なインフレや景気不安により消費者の飲酒量が減少し、AJ Bell投資ディレクターは「節約志向が一時的な現象なのか、健康志向による長期的な変化なのかを見極める必要がある」と指摘している。
- 関税リスク:米国のトランプ前大統領は2025年にカナダ・メキシコ製品への25%関税を示唆しており、ドン・フリオやジャック・ダニエルなどの輸入酒が値上がりする可能性がある。アナリストによると、クラウンロイヤルなどの価格が最大10%上昇し、需要を押し下げる恐れがある。別の試算では、消費者が価格の安い酒へ移行した場合、ディアジオの売上は年間6億ドル(グループ売上の約3%)減少する可能性があるとも指摘されている。
- 報告会が示す警戒:北米のソフトな需要やアジアでの低迷を受け、ディアジオは2026年度のオーガニック売上高を横ばいと予想し、関税の影響も織り込んで営業利益の伸びを中程度にとどめると見通しを示した。同社は米国関税による打撃を年間2億ドル程度と試算しており、英国内の10%関税やEUから米国への15%関税、USMCAの適用除外などを考慮している。これに対し在庫管理やサプライチェーンの最適化で影響の50%を抑制できると述べた。
統合(ジンテーゼ)—全体像と展望
ディアジオは確かに苦境にある。利益の急減とアジア市場の不振、潜在的な関税問題、CEO交代といった不確定要素が重なり、短期的には株価や業績が伸び悩む可能性が高い。しかし、弁証法的に見るとこうした「反面」は必ずしも悲観すべき要素ではない。
第1に、同社には強力なブランドポートフォリオがあり、ドン・フリオやギネスなどは引き続き二桁成長を記録している。世界的なプレミアム化やノンアルコール需要拡大の潮流と合致する商品ラインを持ち、健康志向の市場変化にも適応できる。
第2に、オーガニック売上の伸びと安定したキャッシュフローは、短期的なショックを吸収し長期投資を継続する力を示す。米国の関税リスクに対しても、同社は在庫管理や投資配分の変更で半分程度を緩和できると見込む。
第3に、マーケティングやブランドコラボレーションの成功は、若年層や新興市場へのアピール力を高めている。ペギー・ゴーとのコラボボトルのようにカルチャーと結びつけた戦略はSNSで話題となり、単価の高いプレミアム商品の需要を喚起している。
以上を総合すると、ディアジオの現状は「短期的な課題と長期的な強み」が同居する状態であり、新CEOニック・ジャンジアニの下でコスト削減とブランド強化を進めることで再び成長軌道に乗る可能性があると評価できる。消費者の嗜好や規制環境の変化に敏感に対応し、テキーラやノンアルコール飲料といった成長領域に資源を集中すれば、逆風を乗り越える力は十分に備えているといえる。
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