はじめに
2025年9月末、ナイキは2026年度第1四半期(2025年6月~8月)の決算を公表し、同社の「Win Now」戦略の初期成果が注目されました。売上高は前年同期比1%増の117億ドルで、アナリスト予想の110億ドル前後を上回りました。希薄化後1株当たり利益(EPS)は49セントで、事前予想の27セントを大きく上回り、在庫削減努力が業績を押し上げました。しかし、関税によるコスト増や中国市場の低迷など、課題も浮き彫りになっています。
テーゼ:回復の兆し
ナイキの決算ではいくつかの明るい材料が示されました。売上高が予想外に増加し、EPSが予想を大幅に上回るなど、事業のテコ入れが効果を発揮し始めています。北米の売上高は前年同期比4%増の50億2000万ドル(5.02億ドル)に伸び、アナリスト予想を上回りました。これはランニングシューズなどの主要カテゴリーの好調と在庫改善が寄与したとされます。卸売チャネルも好調で、売上は68億ドル(6.8億ドル)と前年同期比7%増加し、長年低迷していた卸先との関係修復が進んでいることを示しました。さらに、在庫は前年同期から2%減り81億ドル(8.1億ドル)となり、過剰在庫が課題だった同社の姿勢改善がうかがえます。
もう一つの明るい点は、ターゲットをスポーツに絞った「Win Now」戦略でランニングなどのコア競技に注力したことです。経営陣によると、ランニングカテゴリーの売上は四半期で20%以上増加し、復調の象徴となりました。北米や卸売での成果が業績を支える一方、女性向けライン「NikeSKIMS」など新しいプロダクトにも期待が寄せられています。
アンチテーゼ:残る課題とリスク
好材料の裏で、複数の懸念も浮かび上がっています。まず、粗利率は前年同期比で320ベーシスポイント低下して42.2%となり、関税の増加や割引販売の増加がマージンを圧迫しました。関税コストは年間15億ドルに達する見込みで、前四半期時点の10億ドルから50%も増加しています。これにより、今後の利益率回復には外部環境の不確実性が大きなハードルとなります。
地域別では中国市場の低迷が顕著です。経営陣によると、四半期中の中国売上高は前年同期比9〜10%減少し、減少が5四半期連続となりました。競合である安踏や李寧など現地ブランドの躍進が背景にあり、回復には時間がかかる見込みです。さらに、ダイレクト販売(Nike Direct)は45億ドル(4.5億ドル)と前年同期比4%減少し、長年成長を牽引してきた直販ビジネスが停滞していることが不安材料となっています。純利益も31%減の7億ドルに落ち込み、EPSの増加は在庫圧縮や株式買い戻しの影響が大きいと指摘されています。
ジンテーゼ:総合的な評価と今後の展望
ナイキの2026年度第1四半期決算は、プラス材料とマイナス材料が混在しています。売上高とEPSが予想を上回ったことや北米・卸売の回復は、CEOエリオット・ヒル氏が推進する「Win Now」戦略の効果が早期に現れた証拠です。一方で、粗利率の低下や中国市場の失速、DTC(Direct to Consumer)ビジネスの減収は、収益構造の根本的な課題が解決されていないことを示しています。経営陣自身も「回復は一直線ではない」と述べ、慎重な姿勢を崩していません。
今後のポイントは、(1)関税やコスト上昇への対応策、(2)卸売と直販のバランスをどう取るか、(3)中国およびアジア市場で競合に対抗する戦略、に集約されます。ランニングやスポーツウェアの新製品が追い風となる可能性がある一方、ブランド価値を高めながらマージンを回復するには時間がかかりそうです。投資家や市場が今回の決算をポジティブに評価したのは、期待値が低かったことも背景にあり、継続的な成長が確認されるまでは楽観は禁物でしょう。
要約
ナイキの2026年度第1四半期決算は、売上高117億ドル(前年同期比1%増)、EPS49セントと予想を上回る好調なスタートだった。北米売上は4%増の50億2000万ドル、卸売売上は7%増の68億ドルに伸び、在庫も2%減の81億ドルへ減少した。一方で、粗利率は関税や割引販売の影響で42.2%に低下し、ダイレクト販売は4%減の45億ドル、中国売上は約10%減と落ち込んだ。ランニング分野など一部カテゴリーは20%以上の成長を見せたが、回復には時間がかかるとの経営陣の発言もあり、マージン改善と中国事業の立て直しが今後の課題となっている。
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