正:ADP統計が示す景気後退の兆候
9月のADP全国雇用報告によると、民間部門の雇用者数は前月比3万2,000人減少し、8月の増加分も+5万4,000人から▲3,000人へ下方修正されました。2カ月連続の雇用減少は過去に景気後退の直前か直後に見られる現象であり、金融緩和局面への移行を示唆します。特に小規模企業と中規模企業が合計6万人の雇用を減らし、大企業だけが3万3,000人の増加だったことから、雇用減少が幅広い事業者に広がっている。業種別では、レジャー・宿泊業で1万9,000人、その他サービス業で1万6,000人、専門サービス業で1万3,000人が減少し、建設業でも2,000人の減少となった。ADPのチーフエコノミストであるネラ・リチャードソン氏も「企業は採用に慎重だ」と述べ、労働需要の弱さを認めています。このような雇用の弱さと政府閉鎖による経済の不確実性は、FRBが10月末の会合で利下げに踏み切る可能性を高めており、景気後退が迫っているとの見方を強めています。
反:ADPデータへの過度な悲観への反論
一方で、ADP統計は民間企業の給与データから推計した指標であり、公務員や農業従事者を含まないうえ、集計対象の約2,500万人の雇用データは米国全体の労働人口(約1.6億人)に比べて限定的です。毎年のベンチマーク改定では季節調整や調査対象の入れ替えによって数値が大きく変動することがあり、8月の下方修正と9月の減少が異常値である可能性も否定できません。また、8月末までのGDP成長率は堅調であり、個人消費や設備投資は底堅さを保っていました。雇用減少も主に小規模事業者やレジャー・宿泊業に集中しており、大企業は採用を続け、教育・医療サービスは3万3,000人増加しています。これは高賃金の業種や必需サービス部門では引き続き労働需要が強いことを示します。さらに、正式な雇用統計であるBLSの非農業部門雇用者数が政府閉鎖のため未公表であることから、ADP統計だけで景気後退入りを断定するのは時期尚早です。
合:総合的な見解
ADP統計の2カ月連続減少は明らかに労働市場の弱含みを示し、FRBが政策金利を再度引き下げる要因になり得ます。しかし、ADPはあくまで民間給与データのサンプルに基づく先行指標であり、政府部門を含む総合的な雇用の状況を把握するにはBLSの統計やその他の経済指標との総合的な検討が必要です。教育・医療など一部の分野で雇用が伸び続けていることや、大企業の採用意欲が維持されていることから、米経済全体が直ちに景気後退に陥るとは断言できません。今後の雇用統計、公的機関の再開、消費動向などを見極めつつ、短期的には景気減速リスクに備え、中長期的には構造的な労働需要の変化やAIの導入による雇用構造の変革に注目することが重要です。
要約
ADP全国雇用報告では、9月の民間部門雇用者数が3万2,000人減少し、8月も▲3,000人へ下方修正されるなど、雇用市場の失速が目立ちました。小規模・中規模企業での雇用減とレジャー・宿泊業やその他サービス業での減少が特に大きく、FRBが10月末の会合で利下げに踏み切るとの観測を呼んでいます。しかしADPは民間給与データに基づく先行指標であり、教育・医療サービスなどでは依然として雇用が増加している。景気後退を予断するのではなく、正式な雇用統計や他の経済指標を踏まえて総合的に判断する必要があります。
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