株式市場と金市場の規模の概観
- 株式市場の規模 – SIFMAの「2025年キャピタルマーケット・ファクトブック」によれば、世界の株式市場の時価総額は2024年に約126.7兆ドルに達し、前年より8.7%増加した。ステートストリート・グローバル・アドバイザーズのグローバル市場ポートフォリオ分析では、2024年6月時点の投資可能な株式総額は約78.4兆ドルで、グローバル市場ポートフォリオ全体の44.8%を占めている。RBCウェルス・マネジメントによると、米国経済は世界GDPの約20%に過ぎないが、米国株式市場は世界の株式時価総額の65%を占める。
- 金市場の規模 – 金の総採掘量は世界全体で約21万トン(約67億オンス)と推定され、この全量を金価格2,300ドル/オンスで評価すると金の総価値は約15兆ドルとなる。金価格が3,912ドル/オンスに達した場合、金の時価総額は26兆ドル前後と推定される。金融資産としての金(バー・コイン・ETF・中央銀行準備金)に限ると総額は約5〜6兆ドルであり、ステートストリートのポートフォリオでは投資可能な金資産は6.3兆ドル、ポートフォリオ全体の3.6%を占める。
弁証法的な考察
テーゼ:株式市場の拡大と成長性
株式市場は企業の成長期待を反映するため規模が大きく、米国の株式市場だけで世界の過半を占める。株式市場は企業の収益性と経済成長に連動するため、AIブームや世界的な金融緩和のような追い風が吹けば時価総額は急増する。例えば2024年はグローバル株式の時価総額が前年比で大幅に増え、発行総額も活発化した。株式はリスク資産であり、資本を成長分野へ配分する機能を担う。
アンチテーゼ:金市場の安定性と希少性
金は採掘量が限られており、供給が年率2%未満のペースでしか増えない。財やサービスを生み出す株式と違い、金は物理的な貯蔵資産として価値保存を目的とした需要が多い。金の総価値は株式市場より小さいが、金の市場規模が最大15〜26兆ドルに上るのは、数千年にわたる蓄積と世界各国の中央銀行が金を準備資産として保有していることによる。金融資産としての金は約6兆ドルで、株式に比べれば規模は小さいが、価値保全機能から中央銀行・長期投資家の需要が根強い。金は株式市場の下落局面で価値が上昇することが多く、インフレヘッジとしても認識されている。
止揚(統合): 相互依存と補完関係
株式市場と金市場は対立する性質を持ちながらも、相互に補完する。株式市場が拡大すると投資家はリスク資産への配分を増やし、金の相対的シェアは縮小する。しかし、金融不安やインフレ懸念が高まれば資金は株式から金へ流れ、金の時価総額が膨らむ。ステートストリートのグローバル市場ポートフォリオでは、株式が全体の44.8%、金が3.6%を占め、それぞれリスクと安全性を分担している。米国株式市場の世界シェアが65%と偏重する状況は、投資家が成長機会を求めつつも、地政学リスクや米国財政の持続可能性に応じて金への逃避が起こりやすいことを示す。
まとめ
株式市場は世界全体で約126.7兆ドルの規模を持ち、投資家のリスク選好や企業成長期待を反映して拡大している。これに対し、金市場の総価値は15〜26兆ドルと推定され、うち投資可能な金は約6兆ドルである。株式は高い成長性とリスクを持ち、金は希少性と価値保存機能を持つという対立的性質があり、両市場の規模の差もこの性質の反映である。しかし、株式市場の暴落やインフレ期には金が資金逃避先となり、両者は相互に影響し合う。こうした弁証法的な視点からは、株式と金は単なる対立ではなく、ポートフォリオにおいて互いを補完し合う存在として統合的に考えることが重要である。
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