1. 2026年4月施行:企業型DCのマッチング拠出制限の撤廃
背景
企業型DC(企業型確定拠出年金)では、従業員が自分の掛金を上乗せする「マッチング拠出」が認められています。ただし現行制度では「従業員の掛金額は事業主掛金を超えられない」という制限がありました。このため、企業型DCだけでは拠出枠を使い切れず、iDeCoに加入して上限まで拠出する人も多くいました。
改正内容
改正法では、このマッチング拠出の掛金制限を撤廃し、事業主掛金の額によらず従業員が拠出限度額まで拠出できるようにします。内閣官房の資料では、現行制度の問題点として「マッチング拠出は事業主掛金の額を超えてはならない制限が設けられている」と指摘し、これを撤廃する方針を明記しています。実施日は「公布から3年以内の政令で定める日」とされており、2026年4月1日施行予定と報じられています。
特に、中小企業向けの「簡易型DC制度」を通常の企業型DCへ統合する改正も同日に行われる予定です。
意義
この改正により、企業型DC加入者は企業年金の拠出枠を最大限利用できるため、老後資金準備を企業型DCだけで完結できる人が増えることが期待されます。iDeCoを併用しなくても上限額まで拠出できるようになるため、一部では「会社員はiDeCoが不要になる人もいる」と言われています。
2. 2027年1月施行:iDeCoの拠出限度額引き上げと加入年齢拡大
2-1 拠出限度額の引き上げ
現在のiDeCoの掛金上限は職業区分によって異なり、企業年金ありの会社員は月2万円、公務員は月2万円、企業年金なしの会社員や専業主婦は月2.3万円、自営業者は国民年金基金との合計で月6.8万円に限られています。
改正法ではこの枠組みを見直し、月額上限を一律で引き上げます。鳥取県のFP事務所「アシン株式会社」が紹介した資料では、施行後の上限額を次のように示しています:
加入者区分 | 現行の上限 | 改正後の上限 | 実施時期 |
---|---|---|---|
企業年金ありの会社員 | 月5万5,000円(企業型DCの従業員掛金は0円) | 月6万2,000円 | 2027年1月の掛金引き落とし分から |
企業年金なしの会社員 | 月2万3,000円 | 月6万2,000円 | 同上 |
自営業者・第1号被保険者 (国民年金基金等と合算) | 月6万8,000円 | 月7万5,000円 | 同上 |
厚生労働省の資料でも「企業型DCの拠出限度額は現行の月5.5万円から6.2万円に引き上げ、iDeCoの上限は第1号被保険者7.5万円、第2号被保険者6.2万円へ引き上げる予定」と示されており、この金額が国の方針であることが確認できます。
2-2 加入年齢の引き上げ
従来、iDeCoの加入年齢は国民年金第1号・第3号被保険者(自営業者や専業主婦等)が60歳未満、第2号被保険者(会社員・公務員)が65歳未満でした。
改正後はすべての被保険者が70歳未満まで加入できるようになります。
アシン社の記事でも「第1号・第3号被保険者は原則60歳未満から70歳未満、第2号被保険者は65歳未満から70歳未満へ変更される」と説明しており、働き続ける高齢者がより長くiDeCoを利用できる環境が整うと述べています。
2-3 その他のポイント
- 税制優遇は維持 – 掛金は全額所得控除の対象であり、運用益も非課税というメリットは改正後も維持されます。
- 拠出上限の穴埋め方式採用 – 上限額に企業年金や他の制度を合算する「穴埋め方式」になるため、企業年金加入者でもiDeCo枠をフル活用しやすくなります。
- 老齢給付開始後は対象外 – iDeCoの老齢給付金や老齢基礎年金の受給を開始した人は対象外になるため、65歳で老齢基礎年金を受給する場合は受給開始の繰下げが条件となります。
3. 今後の影響と活用のポイント
- 会社員は企業型DCとiDeCoのどちらを使うかの選択が重要 – 2026年4月からは企業型DCの掛金制限が撤廃されるため、会社員は企業型DCの枠だけで拠出上限を満たせる場合が増えます。一方、投資商品の選択肢や手数料、運用管理機関を比較し、iDeCoを併用するメリットがあるか検討することが大切です。
- 自営業者や企業年金のない会社員は拠出枠が大幅に広がる – 2027年1月から拠出上限が月6.2万円(会社員)〜7.5万円(自営業者)へ引き上げられるため、老後資金を非課税で積み立てられる余地が大きくなります。
- 加入年齢の延長で長期間の運用が可能に – 70歳未満まで加入できるようになることで、60代後半も継続して運用を続けることができるため、複利効果を活かした長期投資がしやすくなります。
- 制度改正までの準備 – 改正前に企業型DCやiDeCoの規約変更が必要な場合があるため、勤務先の人事・総務部門や金融機関に早めに確認しましょう。また、拠出上限に近づく場合は、所得控除の効果や退職金との関係も踏まえた資金計画が必要です。
以上のように、2026年4月の改正では企業型DCのマッチング拠出制限が撤廃され、2027年1月の改正ではiDeCoの拠出上限引き上げと加入年齢拡大が行われます。これらの改正によって、会社員・自営業者を問わず老後資産形成の選択肢が広がるため、自分の働き方や年金制度に応じた資金計画を検討することが重要です。
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