フュエルセル銘柄の光と影

テーゼ:燃料電池はクリーンエネルギー社会の要

燃料電池は、水素などの燃料と酸素を反応させて直接電気を取り出す装置で、石炭や石油を燃やす従来の内燃機関よりも高効率で環境負荷が低い。固体高分子形燃料電池(PEM)は低温で素早く起動し、フォークリフトなどの用途で既に実用化されている。固体酸化物形燃料電池(SOFC)は高温域で動作し、天然ガスやバイオガスを直接利用できるため貴金属触媒が不要で高効率という利点があり、ブルーム・エナジー社がデータセンターや病院向けに販売している。また、溶融炭酸塩燃料電池(MCFC)は内部で天然ガスを改質でき、大規模発電用として活用が進められている。2022年の米国インフレ抑制法によって燃料電池設備は投資税額控除の対象となり、クリーン水素製造には1キログラム当たり最大3ドルの税額控除が与えられる。これに加え、重いバッテリー搭載が難しいトラックや船舶では燃料電池と水素がより適した選択肢とされ、水素エネルギーの長所が注目されている。スウェーデンでは、夏の太陽光発電で作った電力を水素に変えて貯蔵し、冬季に燃料電池で電力・熱を供給する住宅団地の実証事業が行われ、再生可能エネルギーの季節間貯蔵に燃料電池が有効であることを示した。

アンチテーゼ:高コストと収益性の壁

他方で、燃料電池の普及には大きな障壁がある。PEM燃料電池は白金などの貴金属触媒を必要とし、触媒コストが高い。水素を安価に大量輸送するためのインフラも整備されていない。1990年代には京都議定書の採択を契機に燃料電池関連株が注目されたが、水素貯蔵・輸送コストや触媒コストの壁から商業化が進まず、当時注目されたプラグパワーやフュエルセル・エナジーの株価は急落した。現在でも状況は劇的に改善していない。プラグパワーの2025年第2四半期売上高は約1.74億ドルに伸びたものの、純損失は2.27億ドルに達し黒字化の目途は立っていない。フュエルセル・エナジーも天然ガス用MCFCプラントを販売しているが、2025年第2四半期の売上高は3,740万ドルにとどまり、粗利益はマイナスで営業損失が続く状況だ。ブルーム・エナジーはSOFCを中心に売上を伸ばしているが、高温稼働のためモジュールの劣化が早く、2025年第2四半期に売上高が約4億1千万ドルまで拡大したにもかかわらず、株価収益率は160倍超と割高感が強い。つまり、税制優遇が追い風になっているとはいえ、主要企業の財務指標を見ると構造的な高コスト問題と収益性の低さが改善しているとは言い難い。

ジンテーゼ:適材適所での活用と技術革新が鍵

燃料電池は、発電効率の高さや排出ガスのクリーンさから脱炭素化に貢献する重要な技術である。しかし、現在のコスト構造では、補助金や税制優遇がなくなると採算が取れない事業が多い。季節間貯蔵を可能にするマイクログリッドや、バッテリーより軽量な電源が求められる長距離輸送など、特定用途では燃料電池の優位性が認められている。スウェーデンの住宅団地のような実証事業や、データセンター向けのバックアップ電源などは普及が期待できる分野だ。今後は電解装置のコスト低減と、触媒や材料の革新が鍵となる。また、燃料電池メーカーの株価は投機的要因で乱高下しやすく、業績に見合わない高評価となっているものも多い。投資家は補助金やインフラ整備、競合技術の動向を注視しつつ、燃料電池技術が適材適所で活用される未来に期待するのが現実的だろう。


要約

燃料電池は、水素などの燃料を用いて発電するクリーンエネルギー技術である。PEM、SOFC、MCFC といったタイプがあり、それぞれ作動温度や燃料に違いがある。インフレ抑制法により投資税額控除が拡大し、重輸送用電源など特定用途では燃料電池が注目されているが、水素インフラと高コストが大きな課題であり、主要企業は赤字が続いている。季節間貯蔵や非常用電源など限定的な分野では実用化が進んでいるものの、大規模普及には技術革新とコスト削減が不可欠である。

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