正:金利急騰と「日本売り」を懸念する見方
- 財政拡張と巨額債務:日本政府は世界で最も重い公的債務を抱え、社会保障費や防衛費の膨張により国の支出は増え続けています。2026/27年度の予算要求では、省庁合計で約120兆円に達する見通しであり、金利想定も17年ぶりに2.6%へ引き上げられる見込みです。利払い費は次年度に30兆円規模と予測され、高金利に敏感な財政構造が浮き彫りになっています。
- 金融政策と政治介入:自民党の新リーダーとなった高市早苗氏は「政府が金融政策の方向性を決めるべきだ」と述べ、市場に中央銀行への介入懸念を抱かせました。インフレ率は3年以上2%を超え、円安が進行しており、金利引き上げの必要性がある一方で、政治が利上げにブレーキをかけるリスクが警戒されています。
- 金利と為替の悪循環:財政赤字拡大や政治的な不確実性が増す中、海外投資家が日本国債を売却すれば円安と金利上昇が同時に起こる可能性があります。東京財団のシミュレーションでは、大規模災害や政策の行き過ぎによって長期金利が8%に達するケースも示されました。円がさらに安くなれば輸入物価の上昇を通じて家計を痛め、再度インフレを押し上げる悪循環につながる懸念があります。
反:長期金利の上昇は限定的という見方
- 市場支持と外国資金:2025年夏の参院選で拡張財政への期待が高まる中でも、長期金利は歴史的に低い水準にとどまっています。30年国債利回りは約3%、10年物は1.5%前後であり、財政規律を欠いた水準には程遠い。弱い円、長年の低金利、巨額の国内貯蓄、そして日銀の政策が金利上昇を抑制していることが指摘されています。
- 日本は純債権国:日本は世界有数の純債権国であり、海外投資で得た潤沢な資金を国内債に振り向ける余地があります。年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)や生命保険会社などが外貨建て資産3.6兆ドル以上を保有しており、必要になれば国内債市場を支え得るといわれます。2025年には外国人投資家が日本国債へ累計15兆円超を投資しており、金利上昇に歯止めが掛かっています。
- 中期的な金利見通し:キャピタル・エコノミクスのアナリストは、10年金利が2026年末にかけて2%程度まで上昇するとの見通しを示しています。これは政府の金利想定2.6%より低い水準であり、8%という極端なシナリオは現実的でないという声があります。インフレが定着すれば、名目成長率が上昇し、債務の実質負担は軽減される可能性もあります。
合:リスクと安定要因を踏まえたバランスの取れた評価
- 潜在的リスクへの備え:財政膨張が続き、人口減少と高齢化により社会保障負担が増大する中で、国債需要が鈍れば金利急騰のリスクがあります。特に震災や地政学的リスクが同時に発生すれば、受給バランスが崩れ金利が急騰する可能性は否定できません。政府が金利想定を引き上げ、利払い費の膨張に備える姿勢は、リスク管理の一環として理解できます。
- 金融政策の独立性と透明性:中央銀行の独立性を尊重し、市場とのコミュニケーションを重視することが重要です。政治の短期的な人気取りや税減免競争が金融政策を左右すると、市場の信認を損ない、円安・金利上昇という悪循環を招きかねません。日銀は適切なタイミングで利上げを進め、過度な円安を抑制しながら金融正常化を図る必要があります。
- 持続可能な財政運営:緊縮一辺倒でも拡張一辺倒でもなく、成長力強化・税収増とともに歳出改革を進めることが求められます。減税や給付は所得下位層へのピンポイント支援に重点を置き、将来世代へのツケを回さない工夫が必要です。日本が純債権国である利点を生かしつつ、海外投資家の信頼を維持するために中期的な財政健全化計画を示すことが重要でしょう。
要約
- 日本財政の悪化や新政権の積極財政によって長期金利が8%まで急騰し、「日本売り」に至るとの警告がある。財務省は債務利払いの前提金利を2.6%へ引き上げ、次年度の利払い費は30兆円に達する見込みである。
- インフレ継続と円安、政治的な介入リスクにより市場不安が高まっており、高金利と通貨安の同時進行が懸念される。
- 一方で、日本の30年国債利回りは約3%、10年利回りは1.5%台にあり、膨大な国内貯蓄や外貨資産、外国人投資家の需要が金利急騰を抑えている。専門家は2026年までに10年利回りが2%程度までしか上昇しないとの見方を示している。
- 8%という極端なシナリオは現状では現実的ではないものの、財政規律の欠如や災害などのショックによって金利スパイクが起こる可能性はある。金融政策の独立性を守りつつ、持続可能な財政運営と成長戦略を両立させることが求められる。
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