トレンドか価値か:ポール・チューダー・ジョーンズとレイ・ダリオに見る投資哲学

テクニカル分析に基づくポール・チューダー・ジョーンズ氏の戦略と、ファンダメンタル重視の長期投資家の考え方を対比してみると、投資における「買い時・売り時」の捉え方が大きく異なることがわかります。

テーゼ:200日移動平均線を軸にしたトレンドフォロー戦略

ジョーンズ氏は、株価が200日移動平均線の上にあるか下にあるかで投資の判断を下す。彼の発言によれば「200日移動平均線の下ではどんな資産でも良いことは起きない」ので、線より上にある間は買いを続け、下回れば即座に撤退するというシンプルなルールを採用している。この考え方は、株価が上昇トレンドにあるときには強気で追随し、下降トレンドに転じたら早めに逃げるというモメンタム投資に基づく。実際、CFA協会の分析によれば、S&P500指数が200日移動平均線を上回っている日に市場に投資した場合、各年代で平均日次リターンが0.06~0.10%程度とプラスであるのに対し、下回っている時は平均日次リターンがマイナスになる。こうしたデータは、トレンドフォローが下落局面のダメージを回避する手法として一定の効果を持つことを示している。

アンチテーゼ:割安重視の長期投資と逆張り戦略

これに対して、レイ・ダリオ氏のようなファンダメンタル重視の投資家は「過去に価格が上昇したからといって、その資産がこれからも有望であるとは限らない」と警告し、過去の値動きだけで投資判断を下すことの危険性を指摘している。価値投資の観点では、価格が高い時に買い増す行為は割高な資産をさらに抱えるリスクにつながり、価格が下落したときこそ企業価値に対して割安と判断して買い増すべきという考え方だ。テクニカル指標は短期的なノイズや逆張りシグナルの誤動作によって投資家を振り回す可能性もあり、200日移動平均線の下で生じる損失も長期的には一時的な変動で済む場合が多い。そのため「買い高・売り低」と見えるモメンタム戦略に対し、長期投資家は「安い時に買い、高い時に売る」が基本だと主張する。

シンセーシス:二つの視点の統合とリスク管理

トレンドフォローと価値投資は一見対立しているが、どちらも市場の異なる局面に対処するためのツールとして有効である。ジョーンズ氏のように200日移動平均線を指標とすることで、大きな暴落を回避しつつ上昇トレンドに乗ることができる。しかし、この戦略は短期的なノイズによる「だまし」に弱く、長期的な成長銘柄を早々に手放す可能性もある。一方、ダリオ氏のアプローチは企業価値やマクロ環境を踏まえて割安な資産を長期保有することでリスクを分散できるが、トレンドが変わるまで含み損を抱える覚悟が必要だ。実証研究でも、移動平均を用いたロング・ショート戦略は市場平均を上回ることがあるが、ボラティリティが高く、1980~1990年代ほどの超過リターンは現代では縮小している。

投資家は、自らのリスク許容度や時間軸に応じて、モメンタムのシグナルをリスク管理の一手段として取り入れつつ、ファンダメンタル分析に基づく長期視点も併用することが望ましい。例えば、上昇トレンドではポジションを拡大しつつも、企業の価値指標や経済環境をチェックし、過熱感が強まれば縮小するなどのバランスが求められる。

要約

ポール・チューダー・ジョーンズ氏は、株式市場のトレンドを見極めるために200日移動平均線を最重要指標とし、この線より上では強気に追随し、下回れば即売りとするトレード戦略を提唱している。CFA協会のデータも、200日線を上回る日の投資が平均的にプラスのリターンを示すことを裏付ける。しかし、レイ・ダリオ氏のような長期投資家は、過去の値上がりを理由に買うべきではなく、割安な時に買って長期保有する方が合理的だと主張する。双方の手法には利点と欠点があり、投資家は時間軸やリスク許容度に応じて、モメンタム指標とファンダメンタル分析を組み合わせたバランスの取れた投資戦略を構築することが重要である。

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