平成19年4月1日以降に取得した建物を令和7年に売却する場合の取得費の計算

概要

不動産の譲渡所得は、売却価額から取得費と譲渡費用を差し引いて求めます。建物の取得費は「購入代金そのもの」ではなく、所有期間に応じて減価償却費を控除した額になります。減価償却の計算方法は建物の用途と取得時期で異なります。

平成19年(2007年)4月1日以降に購入した建物では、税制改正により残存価額(購入価格の10%)と償却可能限度額(購入価格の95%)が廃止され、償却資産を1円まで償却できるようになりました。これに伴い、事業用不動産の減価償却は新定額法(または新定率法)が適用されます。一方で居住用(非事業用)建物の取得費計算は改正後も旧定額法で行われ、購入時期に関係なく取得価額の90%を基準に耐用年数の1.5倍に対応する償却率を用います。

以下では、令和7年(2025年)に建物を売却する場合の取得費計算のポイントを用途別にまとめます。

1. 非事業用(マイホーム等)に使用していた建物

計算方法

非事業用の建物では、売却までの減価償却費を次の式で計算し、建物の取得価額から差し引きます。

  • 減価償却費 = 取得価額 × 0.9 × 償却率 × 経過年数

ここで、

  • 償却率は旧定額法の率を用い、建物の耐用年数の1.5倍に対応するものを採用します。例として鉄筋コンクリート造なら耐用年数47年×1.5=約70年で償却率0.015、木造なら耐用年数22年×1.5=33年で償却率0.031です。
  • 経過年数は建物を取得してから売却するまでの保有年数で、6か月以上の端数は1年として切り上げ、6か月未満は切り捨てます。
  • 限度額は、減価償却費が建物取得価額の95%を超えないことです。すなわち、取得費は最低でも購入額の5%が残ります。

取得費の算出

非事業用建物の取得費は、建物購入価額から上記の減価償却費を差し引きます。土地は減価償却の対象にならないため、土地の購入額はそのまま取得費に加えます。

例:非事業用の鉄筋コンクリート造マンション

  • 建物取得価額: 2,000万円(令和元年に購入)
  • 構造・償却率: 鉄筋コンクリート造、償却率0.015
  • 経過年数: 令和元年7月購入、令和7年5月売却。保有期間は約5年10か月なので、6か月以上の端数を切り上げて6年。

計算すると、
減価償却費 = 2,000万円 × 0.9 × 0.015 × 6 = 162万円。
減価償却費の上限(95%)に達していないのでそのまま採用します。

したがって取得費は 2,000万円 − 162万円 = 1,838万円です。この建物以外に土地の購入額や仲介手数料などを加えた総額が譲渡所得の計算に使われます。

2. 事業用(賃貸用・店舗用)に使用していた建物

新定額法による減価償却

平成19年4月1日以降に取得した事業用建物では、残存価額10%と償却可能限度額95%が廃止され、取得価額全額を耐用年数までに償却して1円まで減価させることができます。建物の償却方法は原則として定額法で、減価償却費は以下の式で求めます。

  • 減価償却費 = 取得価額 × 償却率 × 使用月数 ÷ 12

ここで、

  • 償却率は耐用年数の逆数です。鉄筋コンクリート造は耐用年数47年で償却率0.022、木造は22年で償却率0.046など。
  • 月数按分は、建物を業務に使用した月数を12で割る方式です。1か月未満でも1か月として数えます。
  • 償却終了は、耐用年数が経過した後も未償却残高が1円になるまで毎年同額を償却します。残存価額や95%限度額はないため、償却費の合計が取得価額に達するまで控除できます。

事業用の場合は毎年の減価償却費を必要経費として計上するため、取得費計算では所有期間中の各年の償却費の合計額を購入額から差し引きます。

例:事業用木造アパート

  • 建物取得価額: 3,000万円(平成25年4月に建築)
  • 構造・償却率: 木造、償却率0.046
  • 使用月数: 平成25年5月から令和7年3月まで賃貸に供し、平成27年12月から2か月空室。令和7年3月までの11年10か月のうち、賃貸していたのは11年8か月(140か月)。

減価償却費の合計は次の通りです。

減価償却費合計 = 3,000万円 × 0.046 × (140 ÷ 12) ≈ 1,610万円。

木造の耐用年数22年のうち約11年8か月賃貸に供した段階でも未償却残高が残るため、1円になるまで償却が続きます。

令和7年に売却する際の取得費は 3,000万円 − 1,610万円 = 1,390万円です。土地部分の取得費やその他費用を加算した金額が譲渡所得計算に使用されます.

3. 比較まとめ

用途適用される減価償却方法減価償却費の計算留意点
非事業用(マイホーム等)旧定額法(取得時期に関係なく適用)取得価額 × 0.9 × 償却率 × 経過年数。経過年数は6か月以上を切り上げ、減価償却費は取得価額の95%が上限。償却率は耐用年数の1.5倍によって求め、木造0.031、鉄筋コンクリート造0.015など。残存価額10%を考慮するため減価償却費が少なく、取得費が多く残る。
事業用(賃貸・店舗等)新定額法(平成19年4月1日以降取得)取得価額 × 償却率 × 使用月数 ÷ 12。残存価額や95%限度額がなく、耐用年数経過後も1円になるまで償却できる。償却率は耐用年数の逆数(鉄筋コンクリート造0.022、木造0.046等)。所有期間中の減価償却費をすべて控除できるため、取得費は非事業用より小さくなる。

まとめ

平成19年4月1日以降に購入した建物を令和7年に売却する場合、減価償却の計算方法は建物の用途によって異なります。非事業用建物は改正前と同じ旧定額法を用い、購入額の90%を基準に1.5倍の耐用年数による償却率を用います。一方で事業用建物は税制改正により残存価額や償却可能限度額が撤廃され、新定額法で1円まで減価償却が可能になりました。売却時の取得費は、建物の購入額からそれぞれの方法で算出した減価償却費を差し引き、土地や仲介手数料などの費用を加えることで求められます。

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