クラウド資本主義の転換点


AI計算資源はコモディティか?

1. 命題:AIはコモディティである

  • 低価格のネオクラウドの台頭:GPUレンタル市場には100以上のクラウド事業者が参入しており、特にNebiusやCoreWeaveのような「ネオクラウド」は、ハイパースケーラーよりも大幅に安い価格でH100 GPUを提供している。たとえばNebiusは時給2.95ドル、CoreWeaveは約4.25ドルで、AWSの約12.29ドルの4分の1から5分の1といった低価格を実現している。
  • 中国市場のさらなる価格低下:中国では供給過剰と規制の影響によりH100レンタル価格が2024年初頭から半減しており、各社がパッチワーク的にサービスを組み合わせてAIを開発している。
  • ベンダーファイナンスによる循環投資:ネオクラウドはエヌビディアやデルからツケでGPUを調達し、レンタル収益で返済する「循環型ファイナンス」に頼っている。これにより償却期間が3〜4年と短く設定され、価格競争力を高めているが、需要減や新GPU登場に伴う減損リスクが高い。
  • 長期償却とのギャップ:ハイパースケーラーはGPUを4〜6年で償却して投資を平準化するが、実際の経済的な寿命は1〜3年と短い。価格崩壊が起これば帳簿価額を大きく下回り、大幅な減損処理を迫られる可能性がある。

2. 反命題:AIはコモディティではない

  • 総合サービスによる差別化:AWSやGoogle、MicrosoftはGPU単体の提供にとどまらず、セキュリティ、ストレージ、ネットワーク、ライフサイクル管理など総合的なクラウド機能を提供し、高価格でも企業ニーズに対応している。
  • 独自チップとデータ資産:各ハイパースケーラーはTPUやTrainiumなど独自AIチップや巨大なデータセット、専用モデルを保有し、ハードウェア以外で差別化を図っている。
  • 規模の経済と契約力:大手クラウドはNvidiaとの長期供給契約や資金調達力で最新GPUを優先的に確保し、ネオクラウドより安定したサービスを提供できる。また、データ保護規制や輸出管理への対応も整っており、信頼性を重視する企業に選ばれている。
  • オフバランス化とSPV:投資リスクを緩和するため、ハイパースケーラーはデータセンターを特別目的会社にオフバランス化し、資金調達やレバレッジを柔軟にしている。

3. 止揚:コモディティ化と差別化の共存

  • 資本集約的レンタル業への変化:GPU価格の低下とネオクラウドの増加により、計算能力は時間単位で売買される資本集約的なレンタル業に移行している。ただし、短期間で投資を回収するモデルは需要が落ち込むと減損リスクに直面する。
  • 二層構造の形成:ハードウェア面では供給増と価格低下によるコモディティ化が進む一方で、サービス品質、データ資産、規制対応といった付加価値が競争軸となっている。したがって、AI計算資源には「ハードはコモディティ、ソフトとサービスは差別化」という二層構造が生まれている。
  • 地域別エコシステムの分断:米中間の輸出規制や各国のデータ主権政策により、GPUレンタル市場は地域ごとに分断され、グローバルな統一市場が形成されにくい。

4. GPUレンタル価格と償却期間の比較表

事業者H100オンデマンド価格 (USD/時間)公表されている償却期間備考
Nebius約2.95ドル約3〜4年低価格と高利用率で顧客獲得。長期契約でさらに割引。
CoreWeave約4.25ドル6年長期償却で利益を平準化するが、価格下落時の減損リスクあり。
AWS(ハイパースケーラー)約12.29ドル5〜6年高価格だが包括的サービスと信頼性を提供。
他のハイパースケーラー非公開だがAWSに近いと推定6年自社AIチップやデータセンター最適化に投資中。

5. 総合的な結論

GPU価格の急速な低下と新興クラウドの台頭により、AI計算資源はハードウェア面でコモディティ化が進んでいる。しかし、ハイパースケーラーはサービスの総合力や独自技術、規制対応で競争力を保っており、完全な汎用品とは言えない。今後の動向はGPU価格の推移、ネオクラウドの利用率、ハイパースケーラーの投資回収力、そして各国の規制環境に左右されるだろう。

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