正:割高な市場と必然の修正
- 極端なバリュエーション
米国株式市場はシラーCAPE比率が約37.5と過去100年で3番目に高い水準にあり、ドットコムバブル期並みの過熱ぶりです。この指標は企業利益に対する株価の倍率を示し、過去の平均を大きく上回ると将来的なリターンが低下する傾向があります。 - 弱含む基礎的条件
著名エコノミストのデイヴィッド・ローゼンバーグは労働市場の悪化や住宅市場の減速、企業債務の膨張など実体経済の弱さを挙げ、「巨大な価格バブル」であり長期的な株価はマイナスになる可能性が高いと警告しています。 - バブル指標の高さ
レイ・ダリオも、投資家層や融資状況まで含めた独自のバブル指標から「米国株はかなりバブルだ」と指摘し、通常は金融引き締めが起こるまでバブルは弾けないものの「割高な価格が長期的には修正される」と述べています。
反:トランプ政権の介入と株価維持政策
- FRBへの直接干渉
2025年10月、トランプ大統領は東京での演説で、現職のパウエル議長を「無能な連邦準備制度理事会のトップ」と非難し、「数か月以内に辞めさせて新しい人物に替える」と公言しました。さらに財務長官スコット・ベッセントが候補者5名(ケビン・ハセット、ケビン・ウォーシュ、クリストファー・ウォラー、ミシェル・ボーマン、リック・リーダー)を挙げ、12月に大統領へ提示する予定であると述べています。これは中央銀行の人事に政治が直接介入する異例の姿勢を示します。 - 関税による市場操作
トランプ政権は「解放の日」と称した4月の大規模関税発動で株式・債券・ドルが同時に下落するほど市場を揺さぶりました。にもかかわらず、投資家は利下げ期待のもと株式を買い続け、S&P500は堅調に推移しています。今後も大統領は輸入品への追加関税や報復関税の脅しを繰り返し、FRBへの攻撃を続ける意向であり、株価を支えるために金融政策の緩和を誘導する姿勢が読み取れます。 - 政治的タイムライン
こうした介入は2026年の中間選挙まで続く可能性が高い。失業率が上昇しつつある中で株価を下支えすることは選挙戦略として重要であり、トランプ政権はFRB議長の人事や関税政策を駆使して株高を維持しようとするでしょう。
合:バブルの延命と避けられない矛盾
- 短期的な延命
極端なバリュエーションや脆弱な経済指標は、いずれ調整が避けられないことを示しています。しかし、政治主導の金融緩和と市場介入が続く間は、バブルは延命される公算が大きい。歴史的にもバブルは引き締めや何らかの「針」が刺されるまで膨張し続けるため、2026年の選挙までは上昇基調が続く可能性があります。 - リスクの増幅
一方、FRBの独立性を軽視した人事介入や関税による物価上昇は、インフレ再燃やスタグフレーションを招きかねません。過去のバブル崩壊では、政策当局が市場操作に失敗した瞬間に急激な調整が起きました。今回も緩和政策が長引くほど調整時の衝撃は大きくなるでしょう。 - 投資家の対応
この矛盾した状況では、投資家は短期的な上昇に乗りつつも、バリュエーションの過熱と政治リスクを念頭にリスク管理を徹底する必要があります。AIや大手IT銘柄のようにバブルの中心にある資産と、実体経済の弱さから恩恵を受けにくい資産を区別し、適切なポートフォリオ調整が求められます。
要約
米国株はシラーCAPE比率が37.5前後と歴史的な高値を付け、労働市場や住宅市場の悪化を踏まえた専門家は「巨大な価格バブル」と警告している。レイ・ダリオもバブル指標の高さを指摘し、通常は金融引き締めまでバブルは続くと述べた。一方、トランプ政権はFRB議長を「無能」と断じて交代を宣言し、ベッセント財務長官が5人の後任候補を準備するなど中央銀行人事に介入している。関税発動やFRBへの圧力によって市場を操作し、利下げ期待と相まって株価は上昇を続けている。このため、短期的には政治的な介入によってバブルが延命される可能性が高いが、基礎的条件の弱さとバリュエーションの過熱は将来的な急落リスクを高めている。

コメント