予想外のCPI鈍化は転換点か


テーゼ:インフレ鈍化と利下げ期待

  • 米労働省労働統計局(BLS)が公表した11月の総合CPIは前年同月比2.7%上昇で、市場予想3.1%を大きく下回り、コアCPIも2.6%と予想より低かった。
    内訳では、食品・中古車・サービス・住居費など幅広い項目が9月より鈍化し、インフレ圧力が大きく弱まったことを示す。
  • この結果を受け、市場は2026年3月頃から年2回程度の利下げを見込み、CMEフェドウォッチでは3月と7月に0.25%の利下げを織り込んでいるという。
  • ブロガーは過去の利下げサイクルを踏まえ、「急激な景気失速で2026年には6~8回以上の利下げが行われ、景気後退を伴う弱気相場になる」と主張している(本文より)。

テーゼでは、インフレ鈍化の幅広さと市場や一部投資家が抱く**「利下げ加速」への期待**が強調される。

アンチテーゼ:データの歪みと再加速リスク

  • 政府閉鎖によるデータ不足:2025年10月1日から43日間続いた政府閉鎖によりBLSは10月の価格データを収集できなかったため、11月分の前月比は算出できず、年末商戦のセール期間にかけて収集が遅れた。このため多くのエコノミストは今回の低いインフレ率を「技術的要因による可能性が高い」と指摘し、12月には再加速すると予想している。
  • ブラックフライデーの影響:BLSはブラックフライデー後の11月14日からデータ収集を再開したが、割引セール期間が価格調査に影響を与えた可能性が高いと複数の報道が指摘している。結果として、住居費が2か月でほぼ横ばいと報告されたことなどに対し、民間賃貸データと矛盾するという批判がある。
  • 再加速リスク:エネルギー価格は前年同月比4.2%上昇し、ガソリンや燃料油など一部品目は二桁の上昇となった。また、トランプ政権下の関税引き上げが牛肉・バナナ・コーヒーなどの価格に反映され、牛肉は15.8%、コーヒーは18.8%上昇するなど一部食品のインフレが続いている。こうした要因が今後のインフレ再燃を引き起こす恐れがある。
  • FOMCは慎重姿勢:12月FOMCでは3会合連続の0.25%利下げを行ったが、参加者が公表したドットチャートでは2026・27年にそれぞれ0.25%ptの利下げを行い、その後は据え置きとする見通しが示された。さらに、別のレポートでも、政策金利は中立金利の上限付近にあるとパウエル議長が述べ、利下げペースを鈍化させる可能性に言及した。これは市場の楽観的な利下げ期待とは対照的である。
  • データへの疑義:フィッチ・レーティングスは「政府閉鎖中のデータ欠落は無視できない」と述べ、12月のデータまで待つ必要があると指摘した。また、住宅とエネルギーを除くサービス価格は前年同月比2.7%と低い伸びだったが、粘着性の高い住居費が突然止まるのは「統計上のブレの可能性が高い」と指摘するエコノミストもいる。

アンチテーゼは、統計の歪みや追加関税・エネルギー価格上昇による再加速リスクを提示し、利下げ期待に冷や水を浴びせる。

シンセシス:バランスある理解

  • 一時的要因と基調トレンドの区別:11月CPIの鈍化は消費者にとって朗報だが、政府閉鎖とブラックフライデーによる特殊要因の影響が大きい。同様の指摘は民間調査でも繰り返され、12月以降のデータを見て初めて基調的なディスインフレを確認できる。
  • エネルギー・食品と住居費の動向を注視:ガソリンなどエネルギー価格がなお高いことや、関税の影響で食品価格が二桁上昇していることを踏まえれば、インフレの火種は完全には消えていない。また、住居費が短期間で急減速したのは統計ノイズの可能性が高く、12月以降の住居データが重要となる。
  • 政策金利の道筋はデータ次第:FOMCは中立金利に近い水準まで利下げしたが、参加者の中央値では2026・27年に各1回の利下げで打ち止めとする見通しが示されており、利下げペースは緩やかになる可能性が高い。パウエル議長は、関税やAI投資の影響を含む不確実性を踏まえ、政策判断をデータに依存すると述べている。
  • 複数シナリオの認識:市場の一部が期待する急激な利下げ(6~8回)も、景気後退が深刻化する「リスクシナリオ」としては考えられる。しかし、基調的なインフレが目標を上回っている段階で早期に大幅利下げを行えば、再インフレのリスクを高める。現実的には、緩やかな利下げと長期的な据え置きが基本シナリオであり、各種指標の推移に応じて柔軟に対応することが求められる。

要約

11月の米CPIは総合が前年同月比2.7%、コア2.6%と予想を大きく下回り、食品・中古車・サービス・住居費が軒並み減速した。この鈍化により市場には急激な利下げ期待が生まれ、投資家の中には2026年に6~8回の利下げを予想する向きもある。しかし、今回の数値は過去最長の政府閉鎖とブラックフライデーによるデータ収集の遅れに起因する可能性が大きく、エコノミストはデータ歪曲を警戒している。エネルギーや食品は依然高騰し、住居費などサービス価格が突然鈍化したのは統計上のブレの可能性が高い。FOMC参加者は2026・27年にそれぞれ0.25%ptの利下げを行い、その後据え置く見通しで、パウエル議長も政策をデータ次第で判断すると述べている。したがって、11月のCPI鈍化をもってインフレ沈静化や急ピッチの利下げを断定するのは時期尚早であり、今後発表される統計と政策動向を注視する必要がある。

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