2026年(令和8年)税理士試験 所得税法の出題予想

理論問題の出題予想

1. 基礎控除・給与所得控除の引上げ(「○○万円の壁」見直し)
令和8年度税制改正では、低所得者層の税負担を軽減するため基礎控除額と給与所得控除の最低保障額が引き上げられました。これにより、従来「年収◯◯万円の壁」と呼ばれた課税・社会保険上の閾値が上昇し、より低所得の給与所得者が非課税となる範囲が広がっています。出題の可能性として、これら控除額引上げの具体的内容(例えば基礎控除の特例加算や給与所得控除最低額の改定)と、その政策的背景である「年収の壁」問題への対応について説明させる問題が考えられます。近年の本試験でも所得控除の基礎的事項は頻出であり、改正点を正確に理解しているかが問われるでしょう。

2. 暗号資産の課税方式(申告分離課税への移行)
令和8年度税制改正大綱では、ビットコインなど暗号資産の売買益に対し株式譲渡益と同様の申告分離課税(所得税15%、住民税5%)を導入し、かつ損失の3年間繰越控除を認める方針が示されました。従来、暗号資産取引は雑所得として総合課税され最大55%の税率が適用されていたため、これは投資環境に大きな変化をもたらす重要改正です。理論問題では、この新しい課税方式の概要や要件(対象となる「特定暗号資産」の範囲や損失繰越の条件など)について説明を求める可能性が高いです。暗号資産を巡る税制は近年注目度が高く、受験生も最新の制度を押さえておく必要があります。

3. NISA制度の拡充(未成年口座の解禁等)
令和6年にスタートした新NISA制度に加え、令和8年度改正では未成年(18歳未満)への口座開設制限撤廃などNISAのさらなる拡充策が講じられました。具体的には、未成年でも年間60万円までの積立投資枠で非課税投資が可能となり、12歳以上であれば払出しも認めるなど、従来の「成人限定」から大きく制度が広がっています。出題予想として、NISAの非課税措置の仕組みや上限額、新制度で拡充されたポイントを問う理論問題が考えられます。NISAは国民の資産形成を促す代表的な税制優遇策であり、改正論点として重要度が高いためです。ただし昨年の試験ではNISA制度自体の説明は不要とされていたため、出題される場合は改正点に絞った設問になる可能性があります。

4. 青色申告特別控除の見直し(控除額拡大と要件整理)
青色申告特別控除については、近年電子帳簿保存や電子申告の普及を促す観点から制度見直しが進んでいます。令和8年度改正では、一定の要件(優良な電子帳簿による記帳保存)を満たす場合に控除額を現行65万円から75万円に引き上げる措置や、逆に簡易な簿記しか行っていない事業者で一定規模以上の場合には従来の10万円控除の適用を認めない措置が盛り込まれました。昨年の試験でも記帳義務や帳簿保存の論点が出題されており、今年は一歩進んで青色申告特別控除そのものの適用要件や控除額を問う問題が出る可能性があります。受験生にとっては、電子帳簿保存法制との関連も含めて制度の趣旨と改正内容を整理しておく必要があるでしょう。

5. 超富裕層への課税強化(ミニマムタックス)
いわゆる「1億円の壁」(超高所得者ほど実効税率が低下する現象)に対応するため、令和7年からミニマムタックス(富裕層最低税負担制度)が導入されました。一定超の高額所得(現行では年間合計所得3.3億円超)に対して、その超過部分に22.5%の税率を乗じた額を最低税負担として保障する仕組みです。さらに令和8年度改正では、この基準所得金額を1.65億円超まで引き下げたうえで税率を30%に引き上げる見直し(令和9年分以後適用)が盛り込まれており、課税強化が一段と進みます。理論問題では、このミニマムタックスの算定方法や制度趣旨(超富裕層の税負担公平化)について説明させる問いが考えられます。近年の税制改正の目玉ともいえる論点であり、超高所得者に対する新たな課税メカニズムとして注目度が高いためです。

計算問題の出題予想

1. 総合課税・分離課税を含む総合問題
今年度も例年通り、複数の所得区分を組み合わせた総合計算問題が出題されるでしょう。特に令和8年度改正後の各種控除額や税率の適用を踏まえた計算が求められる可能性が高いです。例えば、事業所得者をモデルケースに、事業所得に係る収入・経費計算と青色申告特別控除(65万円)の適用、さらに他の所得(給与所得や不動産所得等)との損益通算を含めた所得金額の計算など、総合的な処理が問われると考えられます。昨年は給与所得者メインの問題でしたが、今年は事業所得を中心としたケースで、減価償却費の計算や純損失の繰越控除の有無など実務的な点に注意した計算問題になる可能性があります。改正により給与所得控除や基礎控除の額が変わっているため、それらを正しく反映できるかもポイントです。

2. 各種所得控除・税額控除を盛り込んだ税額計算
所得控除では扶養控除や配偶者控除の適用要件となる所得上限額が令和8年分から引き上げられており、こうした控除要件の細かな改正点を織り込んだ計算も考えられます。例えば、配偶者の合計所得金額要件が58万円から62万円以下に緩和された点などを踏まえ、配偶者控除・配偶者特別控除の額を計算させる問題が想定されます。また、住宅ローン控除医療費控除といった実務上重要な所得控除・税額控除も試験で度々扱われる論点です。今年は住宅ローン減税が5年延長され適用期限が拡大しているため、住宅ローン控除を適用した場合の所得税額計算が出題される可能性があります。住宅取得年や合計所得金額による限度額の違い、控除可能期間内かどうかの判定など、正確に計算できるかが問われるでしょう。昨年の計算問題では予定納税額の計算や配当控除も出題されており、今年も税額控除(配当控除、住宅借入金等特別控除など)の適用を含めた総合計算が予想されます。

3. 資産譲渡所得に関する計算問題
不動産や株式の譲渡所得計算は所得税法の計算分野で重要論点です。特に居住用財産を譲渡した場合の3,000万円特別控除や、所有期間に応じた長期・短期譲渡所得の税率適用などは実務上も頻出するため、計算問題で取り上げられる可能性があります。例えば、納税者が自宅を売却したケースを想定し、譲渡収入金額・取得費・諸経費から譲渡所得金額を算出したうえで、居住用財産特別控除を適用して課税譲渡所得を求める計算などが考えられます。また、前年からの譲渡損失の繰越控除があればそれも考慮するなど、譲渡所得と他の所得の関連計算も問われるでしょう。昨年は金融商品の譲渡損失について理論出題がありましたが、今年は実額計算としての譲渡所得が出題され、改正による変化が少ない分野だからこそ基礎知識の正確な適用力が試されると予想されます。

4. 新制度に対応した細目計算(利子所得の総合課税化 等)
令和8年度改正では、この他にも所得税計算に影響する新ルールが導入されています。その一つが同族会社の役員等が受け取る利子の取扱いで、改正により実質的に自己の会社から受け取る利子は分離課税の利子所得ではなく総合課税の雑所得として扱われることになりました。試験の計算問題でも、こうした改正点を織り交ぜた設問が出される可能性があります。例えば、納税者甲が自分の経営する会社から社債利子を受け取っているケースで、その利子を従来通り分離課税と誤認せず総合課税所得として計上し、適切に税額計算できるかを試すような応用的な問題が考えられます。また、来年度以降適用される防衛費財源確保のための**新たな附加税(防衛特別所得税)**や、復興特別所得税率の変更なども周辺知識として問われる可能性がありますが、計算そのものへの影響は小さいため、出題される場合でも注意書きで与件が提示される程度でしょう。

以上のように、理論問題では最新の税制改正項目や近年重視される論点が中心に問われ、計算問題では改正点を反映した総合計算力が試されると予想されます。特に令和8年度の改正事項(暗号資産課税や各種控除の見直し等)は要注意です。受験生は改正趣旨と具体的な制度内容を押さえ、基本項目の確実な暗記と計算処理の練習を積み重ねておく必要があります。


要約(出題予想のポイント)

  • 理論分野: 基礎控除・給与所得控除引上げによる「年収の壁」緩和策や暗号資産の20%申告分離課税化など、令和8年度改正の重要テーマが狙われる。青色申告特別控除の拡充(75万円化)や富裕層へのミニマムタックス導入といった新制度も要チェック。近年の出題傾向から、改正論点の趣旨・内容を正確に説明できるかがカギ。
  • 計算分野: 複数所得を組み合わせた総合計算問題が予想され、改正後の控除額・税率の適用ミスに注意が必要。住宅ローン控除や譲渡所得の特例適用など実務上重要な計算や、新制度を織り込んだ所得税額計算(同族会社の利子所得の総合課税化等)が出題される可能性が高い。基本事項の計算精度と改正点の反映力が合否を左右すると考えられる。

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