Ⅰ. 正:固定資産税評価額を基準とする立場
- 定義と性質
固定資産税評価額は市区町村が固定資産税を課すために算定する価格です。評価額は公示価格の約7割程度に調整されており、売買価格より低めになるのが特徴です。このため、評価額から実勢価格を逆算する際は「固定資産税評価額×140%〜160%」程度とするのが一般的な目安とされています。 - 利点
① 客観性・公平性:公共機関が一定の評価基準に基づき算定しているため、不動産ごとの評価のバラつきを抑えられます。
② 税務・登記に活用:登録免許税や不動産取得税などの税金計算の基礎となるため、資産価値の最低ラインとして利用しやすいです。
③ 政策目的:公示価格より低めに設定することで、税負担の安定を図ると同時に、急激な地価上昇が課税負担に直結しないよう配慮しています。 - 問題点
固定資産税評価額は3年ごとの見直しで市場動向を完全には反映しません。その結果、実勢価格との乖離が生じ、譲渡価格の基準として用いる場合、過小評価となる恐れがあります。
Ⅱ. 反:実勢価格を基準とする立場
- 定義と性質
実勢価格は実際の取引事例や周辺環境から導き出される「時価」です。固定資産税評価額は実勢価格の約70%とされ、実勢価格は市場における需給を反映した金額になります。 - 利点
① 市場反映力:周辺の取引事例や需給関係を踏まえるため、売却タイミングや立地条件などを織り込んだ「現実的な価格」が把握できます。
② 資産戦略への適合:融資や投資判断、譲渡所得税の算定において、実勢価格を用いることでより合理的な資産管理が可能になります。
③ 公平な税負担の基準:実勢価格を基に課税すると、資産価値が高いほど課税も高くなるため、担税力に応じた税負担が実現します。 - 問題点
実勢価格は市況変動に敏感で、短期間で大きく上下します。近隣に類似取引事例が少ない場合は評価が難しく、査定に不動産会社の主観が入りやすいという側面もあります。
Ⅲ. 合:二つの評価軸の統合
弁証法的視点では、固定資産税評価額と実勢価格は対立する概念ではなく、相補的な役割を持ちます。両者を統合した考え方は次の通りです。
- 基準の二元的活用
固定資産税評価額を「下限(または参考値)」、実勢価格を「上限(実際の取引値)」として捉え、価格帯を幅で捉えることが合理的です。例えば、固定資産税評価額が700万円の場合、公示地価は約1,000万円(0.7で割り戻し)となり、実勢価格はその公示地価の110〜120%、すなわち1,100万〜1,200万円程度になるという計算例が示されています。 - 税務と市場の橋渡し
税の公平性確保のためには行政側の一定の評価基準が必要ですが、市場での取引を円滑にするには実勢価格を尊重しなければなりません。そこで、実勢価格の8割が路線価、7割が固定資産税評価額という目安を活用し、両者の乖離を認識したうえで評価を行います。 - 情報の透明性と専門家の介在
固定資産税評価額は税務署や市区町村が公表するデータであるのに対し、実勢価格は不動産会社による査定や市場取引から得られる情報です。不動産の譲渡価格を決める際には、評価額に専門家の査定を加味し、地域や物件特性を考慮した上で適正価格を導き出すことが求められます。
要約
- 固定資産税評価額は公示価格の約7割とされ、税の計算や登記に用いられる客観的指標ですが、市場価格より低めに設定されています。
- 実勢価格は市場での取引実績に基づく時価で、固定資産税評価額の約1.4〜1.6倍が目安となり、需要と供給を反映した合理的な価格を示します。
- 弁証法的観点からは、固定資産税評価額を「公的な下限」、実勢価格を「市場の上限」として捉え、双方の情報を統合することで適切な譲渡価格が導き出される。特に、評価額から公示価格を推計し、地域の取引事例を参考に実勢価格を補正する方法が有効です。

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