日本の国家会計は、予算の執行を目的とする官庁会計では「単式簿記・現金主義」を採用しています。この方式では取引を「歳入」と「歳出」でしか管理しないため、仕訳帳や元帳のような借方・貸方の処理を行いません。政府が国債を発行した場合、歳入欄に「公債金」として計上され、支払いを伴う歳出との対応のみが記録されます。財政法4条は、公共事業など特定の支出について国債の発行を認めており、建設国債や特例国債の発行収入は一般会計の歳入の一部となると財務省が説明しています。国税庁の学習サイトでも、令和7年度の一般会計歳入の約25%は「公債金」、つまり国の借金であると説明しており、国債の発行収入が歳入として扱われていることがわかります。単式簿記の世界では、借入金や基金取崩しもすべて「収入」として扱われ、租税収入と国債発行収入との区別ができません。これが、借入の多寡が予算上見えにくくなる要因とされています。東京の公会計改革説明資料でも、現行制度では借金も歳入に含まれるため「全額借入でもOK」と指摘しており、歳入を租税等の経常収支と公債・借入金等の資本収支に分ける必要性が論じられています。
一方、地方公共団体や一部の国の財務書類では、発生主義・複式簿記を取り入れた財務諸表が作成されています。この場合、国債発行は資産の増加(現金や日銀当座預金)と負債の増加(国債)の二面から記録します。例えば、民間銀行が国債を購入すると、政府の仕訳は「現金(または日銀当座預金)/国債」となり、資産と負債の両方が増加します。複式簿記の財務諸表では、このような仕訳により発行残高や資産との対応が明示され、将来世代への負担を見える化できます。
まとめ
- 日本政府の予算会計(官庁会計)は単式簿記・現金主義で、歳入と歳出のみを記録するため、国債発行時に仕訳は行わず、発行額を歳入科目「公債金」として計上する。
- この方式では借入金等もすべて歳入とみなされるため、租税収入と国債発行収入の区別がなく、財政の健全性が把握しにくい。
- 財務諸表で複式簿記を用いる場合は、国債発行を現金(または日銀当座預金)の増加と国債(負債)の増加として記録し、資産・負債の両面を把握する。
このように、国債発行に対する会計処理は、予算執行を目的とする単式簿記と、発生主義・複式簿記による財務諸表とで大きく異なります。

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