金銀の最高値更新は「安全資産回帰」か「過熱相場」か

テーゼ:金・銀価格急騰の理由

2025年12月時点で、金は1オンス4,480〜4,500ドル付近、銀は70ドル前後まで上昇し、ともに史上最高水準に達しました。この価格高騰には以下の要因が挙げられます。

  • 安全資産需要の高まり:世界的な地政学リスクの高まりや米国の金融政策に対する不透明感が、安全資産である金・銀への投資を促しました。投資家は通貨価値の下落や財政赤字への懸念から、価値保存手段として貴金属を選んでいます。
  • 金融緩和期待によるドル安:米連邦準備制度が政策金利の引き下げに動くとの見方が強まる中、ドルが弱含みとなり、金利を生まない金・銀の相対的な魅力が高まりました。
  • 供給制約と工業需要:銀は太陽光パネルや電気自動車(EV)、5G通信などの成長産業で広く使われており、供給不足が進んでいます。ロンドンの在庫は2022年中頃の3万1000トンから2025年初頭に約2万2000トンに減少し、需要増に追いついていません。銀市場は2021年以降構造的な供給不足が続き、2025年も約9,500万オンスの赤字が見込まれています。
  • 中央銀行・投資家の積極的な購入:中央銀行が外貨準備の多角化を進め、金の保有を増やしているほか、銀上場投資商品(ETP)への資金流入も2025年に大幅に増加しました。こうした長期的な買い需要が価格を押し上げています。

アンチテーゼ:過熱リスクと逆風要因

一方で、銀や金の急騰が必ずしも持続的ではなく、反落の可能性も論じられています。

  • 需要の減退と価格高騰の悪影響:銀需要は工業・宝飾・バー&コイン需要など全体で前年比4%減少すると予測され、工業需要も銀価格高騰を受けて2%減少が見込まれています。価格上昇そのものが需要を抑制し、リサイクル供給やスリフティング(銀使用量の削減)を促す可能性があります。
  • 投機要因と高ボラティリティ:銀は市場規模が小さいため、ETFや先物のポジションが価格変動を増幅しやすく、急騰後の急落がしばしば起こります。年末の薄商い相場では価格変動が拡大しやすく、短期的なボラティリティが高まる懸念があります。
  • 政策・マクロ環境の変化:インフレや金融政策の環境が急変した場合、貴金属への資金流入が鈍化する可能性があります。例えば米国経済が予想以上に堅調で金利低下が遅れると、ドル高や実質金利上昇により金・銀価格が下押しされるかもしれません。

ジンテーゼ:バランスの取れた見解

上記のように、金・銀の記録的な上昇には強固な基礎がある一方で、過熱感や需要減退といった逆風も存在します。これらを総合すると、以下のようなバランスの取れた見解に行き着きます。

  • 長期的には構造要因が支援:地政学リスクや債務膨張、中央銀行の多角化戦略、工業用途の拡大と供給制約など、構造的な要因は金・銀価格を中長期的に支え続ける可能性が高いです。
  • 短期的にはボラティリティに注意:市場が薄い時期や投機的な取引の増加によって急激な価格変動が起こる可能性があり、過去数十年の平均に比べて金銀比率は依然高水準です。短期的には調整局面もあり得るため、投資家は分散投資とリスク管理が欠かせません。
  • 需要の質の変化:工業需要は高価格や技術革新により伸びが鈍化する可能性がありますが、グリーンエネルギーやEV・AI関連市場の拡大など、別の需要源が伸びる余地もあります。投資需要と実需が交互に価格を牽引する構造が続くでしょう。

最終要約

  • 2025年末、金は4,480〜4,500ドル/オンス、銀は70ドル前後まで上昇し、史上最高水準となった
  • 安全資産需要、ドル安、供給制約、工業需要、中央銀行の買い増しが上昇の主因である。
  • しかし高値は需要減退や投機的な過熱を招き、価格変動リスクも高い
  • 総合的には長期的に支持材料が多いものの、短期のボラティリティと需給変化に留意すべき

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