2026年米国株は上昇を続けるのか:ウォール街強気予測

はじめに

2023~2025年の米国株は人工知能(AI)ブームと景気刺激策に支えられ、S&P500が3年連続で二桁成長を達成するなど絶好調でした。ウォール街の多くのストラテジストはこの流れが2026年まで続くと見ており、企業利益の拡大、**大きくて美しい法案(OBBBA)**による減税・税還付、FRBの利下げ、AI関連投資、個人消費の底堅さを根拠に株価上昇を予想しています。一方で、株式のバリュエーションが歴史的に割高であることや市場の狭さ、労働市場の悪化、中間選挙特有の停滞などの懸念があり、弱気の見方も存在します。本稿ではこのテーマを弁証法(正・反・合)の観点から論じ、強気/弱気双方の主張を整理した上で総合的な視点を導き出します。

正:強気シナリオの根拠

  1. 企業利益の力強い伸び
    ファクトセットによれば、アナリストは2026年のS&P500の1株当たり利益(EPS)が**15%**増加すると予想しており、この伸びは過去10年平均(8.6%)を大きく上回ります。いわゆる“マグニフィセント7”は22.7%の利益成長を見込み、残りの493社は12.5%とされています。さらに2026年のS&P500の純利益率は13.9%と、2008年以降で最高水準になると見込まれています。高い利益成長は株価の上昇余地を広げる要因です。
  2. 減税と景気刺激策
    2025年に成立したOBBBAは、個人向けの税制優遇や控除拡大により、2026年納税期に最大1,000ドルの平均還付増をもたらすと見積もられており、合計で最大1,000億ドルの追加還付が予想されています。これは消費を押し上げ、企業売上の追い風となる可能性が高い。
  3. 金融政策の支援
    インフレ率が鈍化するなか、FRBは2024–2025年に大幅な利下げを実施しました。市場では2026年にもさらに0.25~0.50%の利下げが織り込まれており、新議長がハト派なら一段の利下げもあり得ます。金利低下は株式価値の算定における割引率を下げ、PER(株価収益率)の拡大を正当化します。
  4. AI関連投資の継続
    Forbesによると、AIブームによる設備投資が2026年も続き、半導体やクラウドサービスへの支出は5000億ドル規模に達すると予想されています。この投資サイクルは短く、2~3年ごとにハードウェア更新が必要とされるため、テクノロジー企業の売上成長を支えます。またマグニフィセント7を中心とした企業は利益成長率が高く、S&P500全体を押し上げると期待されています。
  5. 消費の底堅さ
    米国の個人消費はGDPの約70%を占め、減税と好調な雇用が支えています。BCAリサーチはOBBBAによる大型還付が消費を喚起し、景気を押し上げると指摘しています。FRBの利下げにより家計の債務負担も軽減されるため、住宅や耐久財への需要が高まる可能性があります。

これらの要因を総合すると、ウォール街がS&P500の2026年終値を7,500~8,000ポイント(約10~17%の上昇)と予想するのは決して突飛ではありません。実際にファクトセットのボトムアップ予測値は7,968ポイントで、現在の水準から約14~17%の上昇が見込まれています(ヤフー・ファイナンスが示すウォール街予測より)。

反:弱気シナリオの根拠

  1. バリュエーションの歴史的な割高さ
    ファクトセットによれば、S&P500の予想PERは約22倍と過去5年平均(20倍)、過去10年平均(18.7倍)を上回っています。シラーPER(CAPE)は40.7倍で、長期平均(17.3倍)や中央値(16.1倍)を大きく上回り、ドットコムバブル期に近い水準にあります。高PERは将来的なリターンの低下を示唆し、期待される利益成長が実現しなければ株価が大きく調整されるリスクが高い。
  2. 市場の集中と狭い物色範囲
    AIブームはエヌビディア、マイクロソフト、アルファベット、アマゾン、メタ・プラットフォームズ、ブロードコムなど一握りの巨大企業に支えられており、上位10社がS&P500の**約40%を占めています。2024〜2025年は指数を上回った銘柄の割合が約30%**と過去平均48%を大きく下回り、ドットコムバブル時と同水準です。この偏重は、数社が失速すれば指数全体が急落する脆弱性を意味します。
  3. 労働市場と消費者心理の悪化
    インフレが高止まりする一方、AI普及による雇用不安から消費者信頼感指数は低下しています。失業率はすでに上昇し始めており、通常失業率は上がり始めると景気後退入りまで上昇し続けるため、エコノミストの「横ばい」予想は楽観的かもしれません。また、還付金による消費増大はインフレ再燃につながる可能性があり、FRBの追加利下げ余地を狭める恐れがあります。
  4. 中間選挙年のアノマリーと歴史的リターン
    2026年は米国の中間選挙年であり、株式市場が停滞しやすいことで知られています。1946年以降75年間のデータによると、中間選挙年のS&P500の平均騰落率は**+4.6%で、選挙前年(+17.2%)や選挙翌年(+7.9%)を大きく下回ります。LPLリサーチは強気相場の4年目に平均12.8%上昇するとしつつも、中間選挙年は3.8%**のリターンにとどまると指摘しています。2026年の政治イベントや政策不透明感が投資家心理を冷やす可能性があります。
  5. AI投資の飽和と景気後退リスク
    AIインフラ投資計画は一部で撤回や延期が相次ぎ、資金源であるベンチャーキャピタルの資金枯渇が懸念されています。Forbesによれば、AIブームの恩恵を受ける企業の利益はベンチャー企業からの需要に依存しており、資金が尽きればクラウド需要が減速する可能性があります。さらに、利下げが景気後退前の“薬”である場合、企業のCAPEX縮小や消費の減速で株価が下落するシナリオも十分に考えられます。
  6. 金利低下に伴うドル安と海外リスク
    利下げが続く場合、ドル安が進行し、資金が米国株から金や他国株へと流出しやすくなります。金価格は2025年に70%以上上昇し、金利低下で利息が付かない資産の魅力が増していることから、投資資金の一部が米国株から流出する可能性があります。また米国が景気後退入りすれば、欧州や新興国株にも波及し、市場全体が調整するリスクがあります。

合:総合的な視点と投資戦略

強気シナリオは企業利益の大幅な拡大、減税や金融緩和、AIへの莫大な設備投資といった好材料に支えられており、S&P500が2026年も上昇を続ける可能性は十分あります。しかし、株価はすでに高値圏にあり、バリュエーションの割高さや市場の集中、労働市場の不透明感などからリスクも増大しています。歴史的に見ると、中間選挙年は期待外れのリターンに終わることが多く、市場は外部ショックに脆弱です。

したがって投資家は、短期的な株価上昇を狙う過度の楽観に傾くのではなく、以下のようなバランスの取れた戦略を検討すべきです。

  • 分散とリスク管理:AI関連銘柄や大型株に集中するのではなく、利益が回復しつつある他のセクターや海外株式への分散を図る。ボラティリティの上昇に備え、リスク許容度に応じたポートフォリオ配分を行う。
  • バリュエーションと利益の確認:高PER銘柄については利益成長が期待通りに実現するかを厳しく見極め、過度に割高な銘柄を避ける。EPS成長率の実際の軌道が予想から遅れれば、大幅な調整が起こり得る。
  • マクロ環境の注視:労働市場やインフレ指標、FRBの政策方針、政治リスクなどマクロ要因を定期的に確認し、シナリオが変わった際には機動的にポジションを調整する。金利が下がり過ぎてドルが弱含む場合は、金や資源株などインフレヘッジ資産を検討する。

まとめ(要約)

  • 強気派の主張:2026年のS&P500は企業利益の15%成長、OBBBAによる1,000億ドル規模の減税効果、FRBの追加利下げ、AI設備投資の拡大、個人消費の底堅さを追い風に10~17%上昇する可能性がある。マグニフィセント7の高い利益成長と税還付は株価の更なる上昇余地を示している。
  • 弱気派の主張:S&P500のPERは22倍、シラーPERは40倍超とバブル期並みの割高水準。指数は数社の大型ハイテク企業に集中し、全体の30%程度の銘柄しか指数を上回っていない。中間選挙年は歴史的に株価が停滞し、失業率の上昇やAI投資の減速など景気後退リスクが高まっている。
  • 総合的見解:2026年も上昇余地は残されているが、株式市場は高バリュエーションと集中リスクに晒されており、外部ショックによる調整の可能性が高い。投資家は楽観と悲観の両面を踏まえ、分散投資やリスク管理を徹底する必要がある。

強気派は企業利益の高成長や減税・利下げ、AI投資拡大、消費堅調を根拠に2026年の株価上昇を予想する。一方、弱気派は高PERや市場集中、景気後退リスクを懸念。総合的には上昇余地が残るものの、高バリュエーションによる調整リスクに備え、慎重な投資姿勢が必要となる。

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