ピーター・ティールは「競争は敗者のすることだ」と語り、企業が永続的に価値を獲得するためには独占的な地位を築くことが不可欠だと主張します。航空会社のように大きな価値を提供しても激しい競争に晒されれば利益が残りにくいのに対し、Googleは検索市場を実質的に独占し、高い利益率を確保しています。ティールの思考を踏まえながら、この思想を正・反・合の三段階で検討します。
正(テーゼ)
独占の重要性を強調するティールの論点は、大きく四つに集約できます。第一に、価値を創造することとその価値を自社の利益として確保することは別のことであり、競争市場では価値の多くが消費者に流れてしまうことです。第二に、企業の価値は売上規模ではなく、利益率の高さとその持続性に左右されるという点です。第三に、完全競争はビジネスの現場では悪夢であり、価格決定権を失った企業は消耗戦に巻き込まれます。第四に、企業は規模の大きな市場を狙うのではなく、支配可能なニッチ市場から始め、既存の製品より桁違いに優れた価値を提供することで独占を築くべきだとしています。PayPalやAmazon、Facebookの創業期はこの戦略の典型例といえるでしょう。
反(アンチテーゼ)
他方、この独占論には批判もあります。競争が存在しない市場では企業の革新意欲が弱まり、価格の吊り上げや品質低下など消費者の不利益につながる危険があります。独占による社会的コストや倫理的問題も無視できません。また、現実の市場は単純に独占企業と完全競争企業に二分されるものではなく、寡占や差別化競争など多様な形態があり、多くの企業は漸進的な改善を重ねて価値を生み出しています。10倍の改善や小市場の独占は理想的ですが、技術的なハードルや資本制約から誰もが実現できる戦略ではありません。
合(ジンテーゼ)
この対立を統合すると、ティールの教えは「競争から逃げよ」という単純なものではなく、「競争が意味をなさなくなるほどの独自価値を追求せよ」というメッセージに読み替えることができます。企業はニッチ市場で圧倒的な価値を創出し、ネットワーク効果や規模の経済、強いブランドを活かして高い利益率を確保するべきです。その一方で、競争がもたらす技術革新や市場規律の役割を認識し、公正な競争や社会的責任を損なわないようにすることが重要です。要するに、独占的優位を築くための価値創造と、健全な競争環境を保つ姿勢の両立が長期的な繁栄をもたらすと考えられます。
要約
- ティールは、競争を排し独占を築くことこそ利益の持続に必要だと述べ、利益率の高さや小市場からの支配を重視します。
- これに対し、独占は革新停滞や消費者不利益を招く可能性があり、現実の市場は単純な二分法に収まらないとの批判が存在します。
- 総合的には、競争を無視できるほど独自の価値を生み出す努力と、競争がもたらす規律を両立させることが企業に求められる姿勢だといえます。

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