働き方改革の死角:管理職に残る「無制限残業」の構造


問題意識

2019年から順次施行された働き方改革関連法によって一般労働者の残業時間は厳しく制限された。36協定を結んでも月45時間・年360時間を超える時間外労働は原則禁止される。しかし労働基準法第41条が定める「管理監督者」には労働時間・休憩・休日に関する規制が適用されず、働き方改革後も残業規制が存在しない。この制度は、経営と一体的な立場にある者に柔軟な働き方を許容する一方で、長時間労働や「名ばかり管理職」への批判を招いている。本稿では管理職の残業規制の有無を弁証法的に検討する。

テーゼ(主張の意義)

  • 管理監督者の特殊性
    管理監督者は労働条件の決定や労務管理において経営者と一体の立場にあり、労働時間規制から除外される。重要な職務内容・責任・権限を持ち、裁量をもって業務を進めるため、通常の勤務時間規制が適さない。
  • 働き方改革の例外
    残業規制が適用されない理由は、管理監督者が経営上大きな裁量と高い報酬を有し、労働時間規制の枠を超えた働き方が求められるからである。36協定や月45時間・年360時間といった上限は適用されない。その代わり、企業には彼らの健康管理として労働時間を把握する義務が課せられ、時間外労働が月80時間を超えた場合の医師の面接指導などが設けられている。
  • 組織運営とリーダーシップ
    経営側は、残業規制のない管理職が緊急対応や経営判断に迅速に応じられると評価している。成果主義が重視される中、時間規制に縛られない働き方が生産性向上に寄与するとする声もある。また、管理職は組織文化の体現者として、率先して困難な業務を担うべきという価値観も存在する。

アンチテーゼ(批判的視座)

  • 名ばかり管理職と長時間労働
    一般社員の残業が制限されることで業務が管理職に集中し、結果として長時間労働が常態化することが指摘されている。役職名だけで裁量や報酬が伴わない「名ばかり管理職」が増え、残業代支払いの回避に利用されているとの批判も強い。
  • 健康への影響と公平性の欠如
    残業規制がないことは過労死や精神疾患リスクを高める。厚生労働省は管理職にも労働時間の把握と過重労働対策を求めるが、罰則付きの上限がないため長時間労働が放置されがちである。管理職は深夜割増は支払われるものの、通常の残業割増がなく、責任の重さに対して報酬が見合わないケースが多い。特に中小企業では制度運用が不十分で管理職が疲弊し、組織全体のパフォーマンスに悪影響を及ぼす。

ジンテーゼ(統合的見解)

  • 適切な線引きと待遇改善
    残業規制の適用除外を維持するにしても、管理監督者の要件を厳格に運用し、名ばかり管理職を排除することが不可欠である。職務内容や責任・権限、勤務実態を総合的に判断し、単なる肩書で扱うことを避けるべきだ。
  • 健康管理と労働時間の目安
    働き方改革後、管理監督者の労働時間把握と過重労働対策が義務づけられている。企業は管理職の健康被害を防ぐために労働時間の目安を設け、面談などの健康管理を徹底する必要がある。欧州のように週48時間上限がある国もあり、日本でも指針策定が検討されている。
  • 働き方改革の第二ステージ
    一般社員の残業削減と有給取得が進んできた今、管理職の働き方に目を向けることが重要である。成果主義と長時間労働の価値観を見直し、業務の適正配分やIT活用による効率化、裁量に応じた報酬制度の再設計などが求められる。

要約

働き方改革によって一般社員の残業は大幅に規制された一方、労働基準法上の管理監督者は規制の適用外で、月45時間・年360時間の上限も受けないまま柔軟な勤務が求められている。しかし、残業規制の穴となっている名ばかり管理職や長時間労働による健康被害、報酬の不公平といった課題も浮き彫りとなっている。今後は、管理職の選定基準を厳格化し待遇を改善すること、労働時間の把握と健康管理を徹底すること、管理職も含めた働き方改革の「第二ステージ」を進めることが必要である。

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