序論:LSEGと銀
LSEG(ロンドン証券取引所グループ)は株式取引所だけでなく、FTSE Russell インデックス事業や Refinitiv データプラットフォーム、清算機構LCHなど多様な金融インフラを傘下に持つ総合企業である。特にRefinitiv/Reutersは世界の金融市場向けにリアルタイムの価格データやニュースを配信している。2025 年は銀相場が急騰し、銀価格の統計や解説においてLSEGのデータやニュースが多用された。ビジネスインサイダージャパンは、LSEGのデータに基づき 2025 年10月13日の世界市場で銀が1オンス当たり 51.38ドルの史上最高値を付けたと報じた。このため、本稿ではLSEGの視点を踏まえ、銀市場の現況を弁証法的に論じる。
正(テーゼ):銀高騰を支える構造要因
- 需要の急増 – 再生可能エネルギーや電子機器の拡大により工業用需要が増大している。Sprottの最新レポートでは、銀鉱山生産とリサイクル供給が10年以上ほぼ横ばいの一方、太陽光パネルや電子機器向け需要の急増で供給不足が恒常化しており、2025年の不足は1億2,500万オンス、2021年以降の累計不足は約8億オンスに達すると報告されている。Kitcoのインタビューでも、過去10年で鉱山供給が8,000万オンス減少し、太陽光パネルやAI関連データセンターなどの電化需要が大幅に増えていると指摘している。
- 在庫の急減 – ロンドン銀市場は世界最大の現物取引市場であり、LBMAのデータによるとロンドンの銀在庫は2021 年のピークから急減し、2025 年には過去最低水準まで落ち込んだ。銀に対する需要増とETF買い付けにより「自由に取引できる」在庫が枯渇している【523…142】。Reutersは、在庫不足が銀価格を米国COMEX先物価格よりも高いプレミアムに押し上げ、米国と中国から約15〜20百万オンスの銀が航空便でロンドンに運ばれる事態を引き起こしたと報じている。
- 金融市場での人気と政策支援 – 銀は「貧者の金」と呼ばれ、金と同様の安全資産として需要が高まっている。2025 年に米国金利の引き下げやドル安期待が高まると投資家は金や銀を買い増し、銀価格は年初来161%上昇し初めて80ドル台を突破した。また、米国政府は銀を「重要鉱物」に指定しており、政策的な支援も価格を押し上げている。
反(アンチテーゼ):銀のリスクと限界
- 市場規模の小ささと価格変動性 – 銀は金と比べて市場規模が小さく、中央銀行による買い支えもないため価格変動が激しい。ビジネスインサイダージャパンは、銀の急騰は米連邦準備制度の利下げ観測と短期資金流入によるものであり、LSEG データが示す史上最高値でも市場の脆弱性は変わらないとゴールドマン・サックスが警告していると報じた。同記事では、銀市場の規模が金の約9分の1であり、わずかな資金流出でも大きな価格調整を引き起こすと指摘している。
- 在庫補充と供給改善の可能性 – Reutersは10月後半、米国と中国から大量の銀がロンドンに輸送され、市場の逼迫が緩和され始めたと報じている。LBMAのデータでは、2025年9月末時点のロンドン在庫が24,581トンと報告され、このうち83%がETF向けに割り当てられているものの、年末にかけて在庫が補充され、借入金利が下落している。また、投資資金が流出すれば銀価格の調整局面が訪れる可能性がある。
- 政策変更やテクノロジーの影響 – 米国の輸入関税や中国の輸出規制など政策が変化すると、銀の流通経路が大きく変わり、価格に強い影響を与える。さらに新しい太陽光パネル技術や素材代替が進めば、銀の需要増加が鈍化するリスクもある。
合(ジンテーゼ):銀市場に対する統合的視点
LSEG のデータと報道を総合すると、銀市場は長期的な需要増と供給不足によって構造的に引き締まっており、2025 年には史上最高値を更新した。しかし同時に、銀市場は規模が小さく変動性が高く、供給の一部が補充されるだけで価格が大幅に調整する可能性がある。弁証法的に考えると、以下のような統合的な視点が導かれる。
- 投資価値の再評価 – 銀は再生可能エネルギーや電子機器に不可欠な金属であり、長期的には需要が拡大する。一方で短期的には価格変動リスクが高く、十分な分散投資とリスク管理が必要である。
- 市場インフラの重要性 – ロンドン銀市場の流動性や在庫状況が世界的な銀価格に大きな影響を及ぼす。LSEGのデータプラットフォームやReutersの報道は、投資家や企業がこの市場環境を把握する上で不可欠である。銀関連企業(例:フレスニーヨなど)が上場するロンドン証券取引所は、銀価格の上昇で株価が上昇する可能性がある一方、価格が反落すればリスクも大きい。
- 持続可能な供給と政策 – 供給不足を解消するためには新しい銀鉱山の開発やリサイクル技術の向上が求められるが、それには時間と投資が必要である。政策面では、米中貿易交渉や重要鉱物リストの変更が供給と需要のバランスに影響するため、投資家は地政学的リスクにも注意を払うべきである。
要約
2025年の銀市場は、供給不足と工業需要の急増を背景に記録的な高値を付け、LSEGのデータによれば10月13日に1オンス51.38ドル、年末には80ドル超に達した。Sprott や Kitco の分析では、鉱山供給の停滞とETFによる取り崩しによりロンドン在庫が縮小し、これが銀価格を押し上げる主要因となった。一方で銀市場は金に比べ規模が小さく、中央銀行による買い支えもないため変動が激しく、米中の貿易政策や在庫補充の動向次第で急落するリスクもある。弁証法的に見ると、銀は長期的な需要と供給不足から上昇余地がある一方で、高いボラティリティと政策リスクを伴う資産である。投資家にとっては、LSEGが提供するリアルタイムデータやインデックスを活用しながら、需給構造とリスク要因を総合的に評価することが重要である。

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