低迷と反発の構造:中間選挙年に潜む米国株アノマリーの真実


大統領サイクルとは

米国株式市場には大統領選挙サイクル(Presidential election cycle)と呼ばれる季節性があるとされます。4年間の任期には、選挙の翌年(1年目)、中間選挙の年(2年目)、選挙の前年(3年目)、選挙の年(4年目)という4期があり、それぞれ株式パフォーマンスが異なると考えられています。選挙の翌年は新政権の公約実現に向けた増税や規制強化により市場が調整しやすく、2年目は政治的不確実性が高まって株価が伸び悩むとされます。3年目は選挙を前に減税や景気刺激策が打ち出されるため最も高いリターンとなり、4年目は選挙運動への期待と政策不透明感が交錯します。

歴史的な平均騰落率

Stock Trader’s Almanac による長期統計では、ダウ平均株価の1896年以降の平均リターンは選挙の翌年+3%、中間選挙の年+4%、選挙の前年+10.2%、選挙の年+6%となっています。中間選挙の年のリターンは4年間で最も低く、選挙前年のリターンは突出して高いことがわかります。LPLリサーチの分析でも、1950年以降に強気相場が4年目に入った7回の平均上昇率は12.8%に対し、中間選挙がある年の平均上昇率は3.8%で、他の3年間平均11%を下回ったとの報告があります。S&P 500に関するU.S. Bankのデータでは、中間選挙の前年12か月の平均リターンは0.3%と歴史平均8.1%を大きく下回る一方、選挙後12か月の平均リターンは16.3%に跳ね上がると分析されています。これらの統計は「中間選挙の年は低迷する」「選挙前年は強い」という経験則を支持しています。

テーゼ(主張):中間選挙の年は株価低迷期

  • 政策サイクルの影響: 新大統領は任期前半に増税や規制強化など痛みを伴う政策を実施し、任期後半に減税や景気刺激策を打ち出して選挙戦を有利に進めようとする傾向があると指摘されています。これにより前半が株価低迷期、後半が上昇期となるという説明です。
  • 統計的な裏付け: Stock Trader’s Almanac によると、過去のダウ平均リターンは中間選挙の年が+4%にすぎず、選挙前年の+10.2%とは大きな差があります。LPLリサーチも中間選挙年の平均上昇率が3.8%と他の年の11%より低いことを示しています。
  • 季節的な下落パターン: Time‑Price‑Research の検証では、1949~2024年のデータでDJIA・S&P 500・NASDAQ・Russell 2000のいずれも1月から9月にかけて平均2〜8%下落し、10月以降に回復するパターンが確認されています。また、第二期共和党政権の中間選挙年では年初の小幅上昇後にボラティリティが高まり、10月以降に8%以上の年末ラリーが起こると指摘しています。
  • 深い調整とその後の反発: 同じ研究で1950~2022年の中間選挙年におけるS&P 500のピークから谷への平均下落率は17.3%で、この調整は平均115日間続きますが、その後1年間の平均リターンは31.7%と強力なリカバリーが生じることが示されています。株価低迷期が投資機会に変わる可能性を示唆しています。
  • 投資家心理: 米国の中間選挙では与党が議席を失うことが多く、政策の先行きに対する不確実性が高まります。U.S. Bank は中間選挙前の12か月のS&P 500平均リターンが0.3%と低いことを示し、その原因として「どの党が多数派を握るか不確定で政策優先順位が不明瞭になる」ことを挙げています。

これらから、中間選挙の年は株価が低迷しやすいというテーゼが成立します。

アンチテーゼ(反論):政治サイクルの影響は限定的

中間選挙の年が株価に与える影響については懐疑的な見方も多く、以下の理由が挙げられます。

  • 相関が弱いことへの指摘: Central Trust の解説では、長期データに基づき大統領選挙が株式市場に与える影響は統計的に有意ではないと述べています。株式市場の動向は経済指標や企業収益、金融政策、地政学リスクなど多数の要因によって左右されるため、選挙という単一のイベントの影響は小さいとされます。投資家は政治的不確実性を既に織り込み、選挙結果だけでポートフォリオを大きく変えるべきではないと助言しています。
  • データの限界と経済要因: T. Rowe Price のレポートは1927年以降の大統領選挙が24回しかなく、統計的な帰結を出すにはサンプルが不十分であると指摘します。平均リターンは選挙のある年でわずかに低いものの、その期間には世界恐慌やITバブル、金融危機、パンデミックなど大きな経済イベントが重なっており、選挙そのものより経済要因の方が影響が大きいと説明しています。また、同レポートでは大統領任期の初年に景気後退が集中していることも示され、マーケットの弱さは選挙サイクルよりも景気サイクルに関連していると読み取れます。選挙前に株価が堅調になる一方、選挙後のリターンが非選挙年より低い傾向も報告されています。
  • 党派構成やグリッドロックの影響は小さい: U.S. Bank の分析では、政党が変わっても市場パフォーマンスに明確な差はなく、党派支配の有無は株価に影響を与えないと結論付けています。政府が停滞する「グリッドロック」が投資家に安心感を与えるという説もありますが、決定的とは言えません。
  • 平均値は時代環境に左右される: U.S. Bank の統計によると、1960~70年代のスタグフレーション期を除けば中間選挙前年の平均リターンは8.1%で長期平均とほぼ同じです。このため、中間選挙の年が弱いという印象は特定時期のデータに引きずられている可能性があります。

これらの反論から、政治サイクルだけに過度な意味を見出すべきではないというアンチテーゼが導かれます。

別の視点:中間選挙後の強いリバウンド

中間選挙の年が弱いとしても、その後の市場回復は顕著です。これは「中間選挙は買い場」という視点につながります。

  • 中間選挙前年の不振・翌年の好調: U.S. Bank によると、S&P 500は中間選挙前12か月の平均リターンが0.3%であるのに対し、選挙後12か月は平均16.3%と大幅に上昇します。特に選挙後1~3か月間のリターンは非選挙年を大きく上回っています。また、1946年以降の中間選挙後で株価が12か月間下落したのは大恐慌期の1939年のみであり、長期的にはほぼ確実にプラスとなってきました。
  • 長期的な上昇トレンド: Forbes の調査では、1950年以降の18回の中間選挙全てで選挙後12か月間の株価がプラスになっています。平均年率は18.6%で、通常年の10.6%を大きく上回り、2年後の平均リターンは33.7%にも達します。議会がねじれ状態となる「グリッドロック効果」によって大型立法リスクが低下し、投資家心理が改善することが株価上昇の一因とされています。
  • 季節的な下落が投資機会に変わる: Time‑Price‑Research は中間選挙年の平均的な下落幅(17.3%)とその後1年間の平均上昇率(31.7%)を示し、深い調整が大きなリバウンドに転じやすいことを強調しています。

こうしたデータは、「中間選挙の年の弱さ」はその後の強力な反発への布石と捉えられることを示しています。

ジンテーゼ(総合):サイクルは目安であり決定論ではない

上記のテーゼとアンチテーゼから導かれる結論は、「大統領サイクルによる季節性は存在するものの、それだけで市場動向を説明することはできない」というものです。

  • 経験則としての有用性: 中間選挙の年はボラティリティが高まりやすく、1~9月に調整し、秋口から反発するパターンが過去に多く見られました。この経験則は投資家が短期的な下落に備えるための指針となります。
  • 限界の認識: しかし統計的な裏付けは限定的で、景気後退や金融危機など大きな経済要因がサイクル効果を上書きすることが多いことがわかります。過去データにはサンプルの偏りもあり、中間選挙が必ず弱気相場をもたらすとは限りません。
  • 長期投資の観点: 歴史的には中間選挙後の株価パフォーマンスが良好であり、深い調整が逆に投資機会となる場合が多いです。従って、政治イベントに過剰反応せず、長期的な企業利益や金利動向などファンダメンタルズに基づいて投資判断を行うことが重要です。

2026年の特殊要因

2026年は米中摩擦や関税政策、AI投資の盛衰、FRBの利下げ見通しなど複数の不確定要素があり、景気後退の有無がより大きな影響を与えるでしょう。大統領サイクルを参考にしつつも、マクロ経済データや企業業績の分析が欠かせません。

まとめ

  • 中間選挙年のアノマリー: 古典的な大統領サイクルでは任期2年目(中間選挙年)が最もリターンが低く、平均上昇率は3~4%とされます。1~9月に下落し、秋以降に回復する傾向があるとされています。
  • 中間選挙前後の差: S&P 500は中間選挙前12か月の平均リターンが0.3%であるのに対し、選挙後12か月は16.3%と大幅に上昇します。1950年以降の18回の中間選挙では選挙後1年間の株価はすべてプラスであり、その平均年率は18.6%、2年後には33.7%に達します。
  • 政治サイクルの限界: 大統領選挙は株式市場の一因に過ぎず、企業利益や金融政策、地政学イベントといったファンダメンタルズの方が大きな影響力を持ちます。データのサンプル数が少なく、景気後退など他の要因が結果を左右していることも多いです。
  • 投資家への示唆: 中間選挙年のボラティリティや季節性を意識しつつも、短期的な政治イベントで過度な投資判断を下さないことが肝要です。長期的には景気や企業収益を重視し、調整局面を投資機会として活用する戦略が有効だと言えるでしょう。

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