金と石油の地政学:米国によるベネズエラ介入の歴史的連続性


1. 事件の概要

2026年1月3日、米国はベネズエラ国内で攻撃を行い、当時のニコラス・マドゥロ大統領とその夫人を拘束して米国艦船経由でニューヨークに移送した。米軍は首都カラカスなど複数州で送電網や防空システムを無力化し、特殊部隊と法執行機関が大統領の隠れ家を急襲した。マドゥロ夫妻は米国で麻薬取引やテロ関連犯罪の容疑で起訴され、連邦裁判所に出頭した。米国のドナルド・トランプ大統領は記者会見で「我々はこの国を安全で秩序ある移行が行われるまで運営する」と述べ、米国の油田技術者が老朽化した石油産業の立て直しに乗り出す計画を示した。
作戦の合法性と目的を巡って世界は分裂した。アルゼンチンの新自由主義的政権はマドゥロ退陣を歓迎したが、メキシコやブラジルは米国の介入は「容認できない一線を越えた」と非難した。中国やロシアも主権侵害として強く反発し、中国外務省は行動が国際法に違反すると批判した。米国内では民主党議員が戦争権限をめる説明不足を問題視し、国際法専門家は他国の国家元首を拉致する行為が新たな危険な前例になると警告した。

2. モンロー主義とその現代的適用

2.1 モンロー主義の歴史と原則

モンロー主義は1823年、米国第5代大統領ジェームズ・モンローが議会演説で欧州列強によるアメリカ大陸への再植民地化を警告したことに始まる。欧州の干渉を認めず、米国も欧州の内政に関与しないという相互不干渉の原則を掲げた。その後1904年、セオドア・ルーズベルト大統領は「ルーズベルト補論」として、欧州の介入を防ぐために不安定なラテンアメリカ諸国に対して米国が「警察権」を行使できると主張し、パナマ運河確保などに利用した。冷戦期には共産主義の拡大阻止の名目でキューバ危機やニカラグア介入などに用いられた。

2.2 「トランプ補論」と「ドンロー主義」

トランプ政権は2025年末の国家安全保障戦略で、「非西半球の競争国による戦略的資産の支配を拒否する」とする「トランプ補論」を明記し、米国の西半球への覇権回復を宣言した。1月3日の会見でトランプは「アメリカの優位は二度と疑問視されない」と述べ、西半球における米国の支配を「ドンロー(トランプ+モンロー)主義」と自称した。この新しいモンロー主義は他国の軍事的・経済的介入を排除するだけでなく、自らの軍事力で政権を入れ替える積極姿勢を含む点で従来より攻撃的であると指摘されている。支持者はマドゥロ政権が国際的に認定された犯罪者であることから、米国の行動は法執行であり、西半球の安全保障上の脅威を除去するものと正当化する。一方、批判者はこの補論が過去の帝国主義的干渉を想起させ、主権侵害であると指摘する。歴史学者からは、モンロー主義が「ラテンアメリカ諸国の政府を米国の商業的・戦略的利益に従わせるための道具」として拡張されてきたとする声があり、新戦略が移民制御や麻薬対策、貿易優位、鉱物資源への「飢え」などを動機としていると批判されている。

3. ベネズエラの鉱物資源と金に焦点を当てた分析

3.1 資源の概要

ベネズエラは世界最大級の天然資源を有する国である。石油では確認埋蔵量が約3030億バレルに達し、世界全体の約17%を占めるとされる。この多くはオリノコ地区の重質油で、採掘コストが高いが技術的には比較的単純である。しかし長年の管理不備と投資不足、制裁により生産量は1970年代の日量350万バレルから現在は約110万バレルへと急減した。
鉱業でもベネズエラは豊富な資源を持つ。2018年に政府が公表した「鉱物カタログ」によれば、石炭3億トン、ニッケル40万トンの埋蔵量、金644トン、鉄鉱石146.8億トン、ボーキサイト3.215億トンなどが推定されている。2009年の資料を基にした地図ではアンチモン、銅、コルタン、モリブデン、銀、亜鉛、チタン、タングステン、ウランなど多様な鉱物資源が存在するとされた。アメリカズ・クオータリー誌は、かつて同国がアルミ、セメント、金、鉄、ボーキサイト、鋼などの主要生産国であり、1990年代には鉱物輸出が総輸出額の6%を占めていたと指摘する。しかし2000年代の私企業の国有化により生産は崩壊し、多くの鉱山が閉鎖された。
ベネズエラ政府は2016年以降、違法採掘が横行するアマゾン地域の「ミニンガーク」と呼ばれる特区で金やコルタンを含む採掘を推進し、環境破壊と人権侵害が問題となっている。マドゥロ政権は国内経済悪化による外貨不足を補うため、アマゾンでの金の小規模採掘を奨励していた。

3.2 資源と政治の関連

米国の攻撃後の記者会見でトランプは、ベネズエラの石油資源を活用して米国の費用を回収するとし、「地面から出てくる金で占領費用が補填される」と述べた。この発言は2003年のイラク戦争前に「イラクの石油で戦費を賄える」と主張した論理を想起させる。米国政府は石油企業が老朽化した施設を再建するために進出する計画を明らかにした。一方で中国はベネズエラに約670億ドルを投資し、2025年末には同国の石油輸出の約90%が中国向けであった。このため中国は米国の軍事行動を覇権的行為と非難し、「非ヘミスフェリック競争国」の排除を明記した米国戦略を自国への直接的脅威と見なしている。ロシアも軍事・金融支援を行っており、両国はベネズエラの鉱業・石油への権益確保を進めていた。
このような豊富な資源は、米国だけでなく国際的プレーヤーが関与する要因となった。資源管理の不透明性や環境問題を放置したまま開発を進めれば、国内の社会不安や国際的非難を招く。豊かな鉱物資源は経済再建の鍵となり得るが、外国勢力による収奪や環境破壊を伴えば「資源の呪い」となりかねない。

4. 弁証法的考察

4.1 テーゼ:モンロー主義と安全保障に基づく正当化

米国側の論理は、マドゥロ政権が麻薬取引やテロに関わる犯罪者であり、米国民の安全を脅かしてきたというものである。トランプはマドゥロを「国際的な脅威」と呼び、モンロー主義の原則を用いて外国勢力の干渉を排除し、西半球の安定を守ると主張した。国家安全保障戦略は「米国の優位が再び疑問視されないようにする」とし、マドゥロ捕縛を法執行・自衛行動と位置付けた。ベネズエラの石油・鉱山資源を再活性化させることでベネズエラ経済を立て直し、米国と地域のエネルギー安全保障を高めるという主張もある。

4.2 アンチテーゼ:主権侵害と資源奪取批判

対照的に、批判者は今回の行動を国際法およびベネズエラの主権への重大な侵害とみなす。メキシコやブラジルなど複数のラテンアメリカ諸国は、米国の介入が「容認できない線を越えた」と非難した。学者や米国議員は、外国の国家元首を軍事力で拉致することが危険な前例となると警告し、他国が同様の行為を正当化する口実となり得ると指摘した。歴史家はモンロー主義がしばしば米国の商業的・戦略的利益のために用いられてきたことを挙げ、今回の「トランプ補論」も資源獲得と覇権の維持を目的にしていると批判する。さらに、ベネズエラの資源開発には違法採掘や環境破壊が伴っており、金をはじめとする鉱山資源の乱獲が先住民の土地や生態系を脅かしている。このような状況で外部勢力が強権的に資源開発を進めれば、社会的混乱や反米感情を一層深める危険がある。

4.3 合:複雑な現実と将来の方向性

マドゥロ捕縛は、麻薬取引や腐敗に対する法執行であると同時に、西半球における覇権争いと資源確保の文脈の中で理解する必要がある。モンロー主義は元来、欧州列強から新興独立国を守るための防衛的宣言だった。しかしその後の補論や今回の「ドンロー主義」は攻撃的に拡張され、他国の政権交代や資源支配を正当化する道具として使われている。今後の課題は、国際法と地域の自決を尊重しつつ、麻薬取引や人権侵害などの越境問題に取り組む新たな枠組みを築くことである。ラテンアメリカ諸国や国連を含む多国間の協議を通じて、ベネズエラの政治移行を支援し、豊かな資源を透明かつ持続可能な形で管理する仕組みが求められる。モンロー主義の「非干渉」原則は、外部勢力による干渉を防ぐと同時に、地域諸国の自主的連帯を促進するという形で再解釈されるべきである。資源開発は経済再建の鍵になり得るが、環境保護や地域社会への利益配分を組み込まなければ「資源の呪い」となる。米国は武力介入ではなく、民主的な移行と開発パートナーシップを通じて信頼を築く必要がある。

5. 要約

2026年1月、米国は特殊作戦でニコラス・マドゥロ大統領を拘束し、石油・鉱山資源の再建を名目にベネズエラ支配を宣言した。トランプ政権はモンロー主義の現代版である「トランプ補論/ドンロー主義」を掲げ、西半球の覇権回復と外国勢力排除を正当化した。しかし多くのラテンアメリカ諸国や中国・ロシアは主権侵害として非難し、歴史家や専門家はこの新ドクトリンが資源奪取を正当化する帝国主義的発想だと批判する。ベネズエラは世界最大級の石油埋蔵量と金・鉄鉱石など多様な鉱物資源を持つが、生産は低迷し、違法採掘による環境破壊が深刻である。今後は国際法と地域の自決を尊重し、資源を持続的に管理する多国間の協力が不可欠である。


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