AI・EV時代の戦略資源としての銅:価格高騰の必然と限界


はじめに

チリ・マントベルデ銅山のストライキが供給障害となり、AIデータセンター建設やEV、送電網の更新といった需要拡大を背景に、銅価格が過去最高値を更新しました。2026年初頭には1ポンド当たり5.89ドル(約1万2,500米ドル/トン)に達しています。こうした動きを支える要因と抑制要因を弁証法的に整理しました。

テーゼ:供給制約による強気材料

  • 主要鉱山の操業停止が供給を逼迫
    チリのマントベルデ鉱山は2026年1月からストライキに入り、生産は3割に縮小しました。他の鉱山でも2020~24年にわたって労働争議や事故が続き、供給が大きく制約されています。
  • 新鉱床の発見は極めて稀
    新規の大規模銅鉱床はほとんど見つかっておらず、S&Pグローバルの調査では主要な発見が過去10年で前の10年の5分の1にとどまります。さらに発見から生産開始まで平均17年を要し、供給拡大が間に合わないと予測されています。
  • AIデータセンター建設が巨額の銅を消費
    AIブームを支えるデータセンターは従来型よりも大量の電力を消費し、冷却設備や変圧器に銅が多用されます。米国投資銀行は一つのデータセンター建設で最大5万トンの銅が必要と試算。データセンター全体で2030年までに年500万トン超の需要が生じると見込まれています。
  • 送電網と発電設備の拡充
    国際エネルギー機関(IEA)のデータによれば、送電網の更新・新設に必要な銅は2025年の12.52百万トンから2030年には14.87百万トンに増加する見通しです。
  • 電気自動車(EV)需要の急拡大
    EVは内燃機関車よりも多くの銅を使用します。EV関連の銅需要は2020年の204,000トンから2025年には1.28百万トン、2030年には2.2百万トンに倍増すると予想されています。
  • 価格高騰が生産者の収益を押し上げ
    こうした需給逼迫を受け、LME銅価格は2025年に平均11,705米ドル/トン、2026年初には1ポンド当たり5.89ドル(約1万2,500米ドル/トン)まで上昇しました。
  • 銅関連株の恩恵
    銅価格に最も敏感な上場企業はサザン・カッパー(SCCO)であり、銅価格上昇の恩恵を受けやすいとされます。またフリーポート・マクモラン(FCX)はEBITDAの70%超を銅が占めますが、インドネシアのグラスバーグ鉱山で事故があり株価は出遅れており、割安に放置されているとの指摘があります。

アンチテーゼ:需給緩和要因と抑制材料

  • 価格調整予想
    ゴールドマン・サックスは2025年12月のレポートで、LME銅価格は記録的高値から2026年に平均1万米ドル前後まで下落すると予想。国際銅研究グループ(ICSG)も2026年の鉱山生産を前年比2.3%増、精錬生産を0.9%増と見込み、需要増(2.1%増)を上回る供給拡大によって2026年後半には市場が均衡すると指摘しています。
  • EVの銅使用量効率の改善
    EVの急増は銅需要を押し上げる一方で、車両1台当たりの銅使用量は技術革新により削減が進んでいます。Benchmark Mineral Intelligenceによれば、BEV1台に使われる銅量は2015年の99kgから2030年には62kgへ減少すると予測されています。
    • 駆動用銅は38kgから17kgへ減少。
    • バッテリー用銅箔も41kgから26kgへ減る見込みです。
    • アルミニウムや高張力銅線への置き換えも進行しており、さらなる軽量化が進むと見られています。
  • スクラップ供給の増加
    自動車や再生電線のリサイクルが進めば、2026年後半から供給が回復する可能性があります。2020年代後半にはスクラップ銅供給が年間約1,100万トンに増えるとの試算もあり、価格圧力が和らぐ要因となります。
  • 中国住宅市場の停滞
    中国で銅需要の約23%を占める不動産開発が調整局面にあり、住宅価格は2025年に底打ちした後もしばらく低迷する可能性があるため、建設用途の銅需要は弱含むと予想されます。
  • 投資家のリスクと慎重姿勢
    労働争議や事故が頻発する鉱山は投資リスクが高く、フリーポート・マクモランやサザン・カッパーのような主要生産者は株価が大きく上下します。米国の金融政策やドル相場次第では投機的資金が引き揚げ、銅価格が調整する可能性も指摘されています。

ジンテーゼ:統合的な視点

銅価格の動向を弁証法的に整理すると、長期的にはAIデータセンター・電力グリッド更新・EV普及といった構造的需要が強く、新規鉱床の希少性や開発の長期化が供給制約を生むため、価格は高値圏に張り付きやすいことが分かります。一方で、技術革新による効率向上やアルミニウムへの代替、スクラップ供給の増加、そして中国不動産市場の停滞といった要因が中期的には価格を抑制しうることも見逃せません。

投資家にとっては、サザン・カッパーやフリーポート・マクモランのような銅関連株が受益者となる一方、労働争議や事故によるリスクを慎重に見極める必要があります。長期的には供給不足が続く可能性が高いものの、短期的な価格調整局面もあり得るため、循環要因と構造要因の両面を踏まえたバランス感覚が重要と言えるでしょう。


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