テーゼ(主張):米州重視と「トランプ補論」によるラテン株ブーム
- 西半球への地政学的シフト
2025年末に公表された米国の国家安全保障戦略(NSS)は、米国の焦点を西半球に向け直し、1823年のモンロー主義に「トランプ補論」を付加したと評価されている。この戦略は「移民」「麻薬・犯罪」「中国」をラテンアメリカにおける三つの主要脅威と位置づけ、中国の港湾やインフラへの影響力排除を強調した。
政策の背景には、2026年1月に米特殊部隊がベネズエラのマドゥロ大統領夫妻を拘束した「絶対的決意作戦」があり、関係者によれば米軍は15,000人超を動員して周到な準備のもと実行した。この作戦は中国やロシアへの牽制と見なされ、「中国やロシアを西半球から排除する」という米国の決意を示すものとする専門家の意見もある。 - 投資マネーの流入と期待先行の株価
米国投資家はこの新たな地政学テーマに敏感に反応し、ラテンアメリカ株へ資金をシフトさせた。2025年のラテン株は現地通貨ベースでチリ+57%、ペルー+51%、コロンビア+44%など米国の+16%を大きく上回り、米ドル安や資源価格上昇、AIブームによる需要増への期待が追い風となっている。同戦略により米企業のリショアリング(供給網の「再半球化」)が進むとの思惑も根強い。 - 米国による「新しい影響圏」構想
アトランティック・カウンシルの分析では、マドゥロ拘束は米国が「西半球の秩序を米国にとって都合の良いものに作り替える」機会を生んだとし、米国がベネズエラを暫定統治し、米石油会社の復帰を後押しするとの観測もある。この構想により、アルゼンチンやチリなどの友好国との経済連携強化が進むという期待から、ラテン株が米国株をアウトパフォームしているとの主張がある。
アンチテーゼ(反対意見):現実の複雑さとリスクの過小評価
- ラテンアメリカ諸国の自律性と不満
ブルッキングス研究所は、2025年NSSが西半球での「ネオ・インペリアリズム」を再び肯定する一方、ラテンアメリカ諸国の意向をほとんど認めていないと批判し、この構想は過去の米国介入への反発を再燃させる懸念があると指摘する。また、移民と犯罪を最大の脅威と位置づけ軍事力行使を正当化することは、新たな「永遠の戦争」を生みかねないと批判する。 - 投資リスクと実体経済の乖離
ラテン株の上昇は、米国の軍事行動や政策よりも、資源ブームや低バリュエーションによる資金流入が主因であるとの見方もあり、政治不安や低いハイテク比率がリスクとして挙げられている。ベネズエラやキューバなどでは長年の制裁や設備老朽化が深刻で、エネルギー供給が不安定な中、米企業が大規模投資に踏み切るには時間がかかるとする意見も多い。
さらに、米軍の作戦に対しては国際法違反の疑いが濃厚であると指摘されており、米国の行動が国際的非難や報復を招けば、地域の安定や投資環境が悪化する可能性がある。 - 国内政治と世論の分裂
フロリダ州などのキューバ系・ベネズエラ系移民コミュニティはトランプ政権への影響力を持つが、その意見は一枚岩ではなく、米軍介入に賛成する声と懐疑的な声が併存していると報じられている。移民人口の規模は大きいが(キューバ系米国人約240万人など)、必ずしも全員が「新しい影響圏」構想を支持しているわけではなく、国内世論が分裂している点も考慮すべきである。
ジンテーゼ(統合):物語と現実のバランスを取った投資・政策判断
- 地政学的物語は一時的な追い風
米国が西半球に重点を移し、中国・ロシアの影響力を排除しようとする動きは、ラテン株に短期的な上昇圧力を与えた。投資家はこの「物語」を利用してリターンを追求できるものの、政策の持続性や各国の自主性を見誤ると期待外れとなる可能性がある。ベネズエラ拘束作戦は象徴的出来事であるが、実際にはラテンアメリカ諸国が自国の政治経済課題を抱えており、一部では中国などとの連携も続いている。 - 実体経済とガバナンスの見極めが重要
投資判断では、資源価格や為替動向などファンダメンタルズを重視し、国ごとの政治リスクや制度構造を精査することが必要だ。米国の政策変更や軍事行動は投資マインドに影響を与えるが、長期的な企業利益や経済成長を保証するわけではない。逆に、米国の強硬姿勢が地域の混乱や反米感情を高めれば、リスクプレミアムが上昇し、投資のうまみは薄れる。 - 協調と多極化の中での新戦略
今後は、米国が一方的に「影響圏」を定めるのではなく、ラテンアメリカ諸国との実利的なパートナーシップが求められる。トランプ政権のNSSは供給網の「再半球化」を掲げるが、それを実現するには現地の協力や中国・欧州の存在への対応が不可欠である。ラテンアメリカは北米、アジア、欧州との多方向貿易を志向しており、米国が一国主導で政策を進めると反発が強まるため、柔軟な外交と経済政策が必要となる。
最後に要約
- 米国の西半球シフト:2025年NSSはモンロー主義の延長線上に「トランプ補論」を掲げ、西半球重視と中国・ロシア排除を打ち出した。
- 投資家心理と株価:マドゥロ大統領の拘束を含む米軍の強硬策はラテン株の上昇に拍車をかけ、チリ+57%など米国株を大きく凌駕した。
- 反論とリスク:新戦略はラテン諸国の意向を軽視しており、移民・麻薬を主要脅威とする姿勢は反発や国際法違反の批判を招いている。政治不安やエネルギー問題など実体経済の課題も大きく、物語先行の投資は危険である。
- 総合的見方:短期的には地政学的物語が資金流入を誘うが、長期的には各国のガバナンス改善や多極的なパートナーシップが鍵。米国の一国主導よりも現地との協調が必要であり、投資家は基本的なファンダメンタルズとリスクを吟味すべきである。

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