紙の銀と実在の銀:価格乖離が暴く市場構造の限界


1. テーゼ(命題):急騰と現物不足が招くETF破綻の危険

  • 史上空前の価格上昇
    2025年の銀は150%超の高騰を記録し、2026年初頭も70ドル台という高値圏にあります。主因は中東・BRICS諸国の金買いに続くドル回避、米国財政悪化への警戒、そして利下げ観測です。結果として、ゴールドと同様にシルバーも通貨代替資産として買われています。
  • 現物とペーパー価格の乖離
    ロンドンのスポット銀価格がシカゴ先物を上回る「逆ざや」が定着し、上海では現物価格がロンドンやCOMEXより10%以上高い状態です。日本やUAEでも高額なプレミアムが付いており、「今すぐ現物を欲しい」投資家の需要が紙市場を上回っています。
  • 構造的な供給不足
    銀の鉱山生産は2016年頃をピークに減少傾向にあり、一方で太陽光パネル、電気自動車、5G設備などの産業用途が増大して需要の半数以上を占めています。銀は金のように循環しにくいため、消費されると市場から消えていきます。2024年まで7年連続で需給は赤字であり、2025年上半期には銀ETFへの純流入が9500万オンスに達するなど在庫を吸い上げました。
  • ETFの脆弱性と規制リスク
    多くの銀ETFは「現物を保有している」と宣伝しますが、実際にはサブカストディアンやリース契約を通じた複雑な仕組みに依存し、未割当の「紙の銀」も含みます。物理市場が逼迫すると、ETFの作成・償還に携わる承認参加者が現物を調達できず、基準価額からの乖離や償還停止、最悪の場合は現金決済への移行が起こり得ます。また、政府債務が危機的になれば金融資産の強制的な「一時停止」や没収の対象になるとの懸念も一部で語られています。2025年10月にはインドの複数の資産運用会社が銀ETFへの新規資金流入を一時停止し、これは現物不足が原因であると説明しました。
  • 地政学・規制の不透明さ
    中国は世界第2位の銀生産国で、レアアースに続き銀の輸出規制を導入する可能性があります。輸出規制が現実になれば西側市場の供給はさらに圧迫され、銀価格の急激なスパイクとETF不足を招くと予想されます。

このように、シルバー市場の急騰と現物の逼迫は、紙市場の基盤を揺るがし、特にETFなどの金融商品に破綻リスクをもたらす可能性があるという主張が展開されています。


2. アンチテーゼ(反命題):物理的制約や誇張、リスク管理の現実

  • 乖離は流通・位置の問題であり、完全な「枯渇」ではない
    COMEX先物とロンドン現物との価格差(EFP)が拡大したのは、銀が「違う場所や形態」にあるため即座の引渡しができないことを反映しており、必ずしも全世界的な絶対量の欠乏を意味しません。短期的な逆ざやや高いリースレートは過去にも発生しており、市場が調整されることで正常化した例があります。
  • ETFはすべて同じではなく、即座に「破綻」するわけではない
    銀ETFは現物保管型と先物連動型に大別されます。前者も保管・貸借契約を伴う複雑な構造ですが、監査や公的な規制の下に運用されています。インドのファンドが新規申込を停止したのは、既存の保有者を保護するための一時的な措置であり、償還や既存の積立は継続しています。ETFが完全に崩壊し投資家が全資産を失うというシナリオは極端であり、過去には類似事例がほとんどありません。
  • 価格上昇が供給を誘発しうる
    銀価格の高騰は新しい鉱山開発やリサイクルを促進します。銀は鉛や銅の副産物が多く、これらの金属が高くなれば総供給量の増加につながります。また、一部の産業では銀をアルミニウムや銅など他の金属に代替する研究も進行中です。
  • 政府の没収リスクは低い
    1933年の米国における金没収など歴史的前例はありますが、現代の民主国家において投資家からETFや貴金属を徴発することは法的にも政治的にも難しいと考えられます。むしろ没収よりも課税や取引規制の形で資本流出を抑制することが一般的です。
  • 市場情報の誇張と煽り
    SNSや特定のアナリストが語る「銀行破綻」「金融崩壊」のシナリオはクリックを稼ぐための過剰な表現であることも多く、実際には主要銀行の株価や財務状態にそれらのリスクは表れていません。冷静なデータ分析と分散投資の原則が重要です。

3. ジンテーゼ(統合):リスクと現実を踏まえた投資戦略

  • 短期的なプレミアムは実在するが、広い視野が必要
    銀市場の今の歪みは、物流や地理的な要因、リース市場の逼迫が複合した結果です。現物を欲する投資家が増えたため小口コインやバーのプレミアムは高騰していますが、これは必ずしも「総供給ゼロ」ではありません。反面、強い産業需要と構造的な不足は事実であり、銀が戦略物資として再評価されている点は無視できません。
  • ETFと現物の両方の特徴を理解する
    ETFは流動性や保管の手間がなく、小額から売買できる利便性があります。しかし、カウンターパーティーリスクや現物引き渡し停止の可能性もゼロではないことから、大口の長期投資家や不安の強い投資家は現物(バーやコイン)を直接保有するのも一案です。一部の専門家が指摘するように、金融危機時には紙資産よりも現物の方が安心という心理的側面も大きいでしょう。ただし、全資産を貴金属に集中させるのではなく、ポートフォリオ全体の分散が肝要です。
  • 政策・地政学を注視しながら冷静に対応
    中国や他国の輸出規制、米国の金融緩和政策、中央銀行の金銀購入動向などは今後も価格変動要因になります。投資判断の際は、短期的な噂よりもデータや公式発表を基にし、利上げ/利下げや景気サイクル、製造業の需要動向などを総合的に見ることが重要です。
  • リスク管理と長期的な視点
    急騰相場ではボラティリティも高まりやすく、短期的な調整やプレミアムの剥落が起こり得ます。ETF停止や高プレミアムを理由にパニック売買をするよりも、資金を分散し、長期のスパンで合理的な保有比率を考えることが望ましいでしょう。

最後に要約

  • 銀の価格は急上昇しており、現物とペーパー市場の価格差が拡大している。
    現物を求める投資家や産業需要が高まり、上海や東京では国際価格に対して大きなプレミアムがついている。
  • 供給面では鉱山生産の伸び悩みと七年以上続く需給赤字が続き、産業用途の増大が構造的な不足を生んでいる。
    その一方で、物流や品位の違い、場所の問題が価格差の主因である場合もあり、「絶対的に銀がなくなる」というわけではない。
  • ETFに関する懸念は、現物調達の難しさと複雑な仕組みによるカウンターパーティーリスクから来ている。
    ただし各国の一時的な投資停止措置は既存投資家保護が目的であり、即座の破綻を意味するものではない。
  • 投資家は現物保有とETFのメリット・デメリットを理解し、分散と長期視点を持つことが望ましい。
    価格急騰に浮足立たず、政策や産業動向などファンダメンタルズを継続的にフォローすることが重要である。

このように、銀価格急騰の背景とETFリスクは複合的であり、単純な「破綻」か「安心」かの二者択一では語れません。市場の仕組みや供給・需要の実態を理解した上で冷静な判断を行うことが重要です。

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