2026年初頭、金は1トロイオンス当たり4,600ドル台から過去最高値を更新し、年内に5,000ドル突破が現実的な目標となっている。その背景には投資家心理の変化と地政学的緊張、米国の金融政策、不安定な株式市場など複数の要因が絡む。以下では各要因を弁証法(肯定・否定・統合)を用いて検討する。
通貨価値下落に備えた買い(ディベースメント・トレード)
テーゼ(肯定)
- 多くの投資家や富裕層は、米ドルや主要通貨の価値低下や財政悪化を懸念し、政府に依存しない価値保存手段として金を保有している。
- ゴールドマン・サックスの分析では、中央銀行の買いに加え民間投資家が長期的な政策リスクヘッジとして金を購入し続けるため、2026年末の金価格目標を5,400ドルへ引き上げた。
- 米大統領の強硬な通商政策やFRBへの政治圧力がドルの信頼性を揺るがし、金の需要を押し上げている。
アンチテーゼ(否定)
- 世界の外貨準備の約57%は依然としてドル建てであり、ドルには代替通貨がないため、過度な通貨危機を懸念する声に反論する向きもある。
- PIMCOは金のバリュエーションが実質金利に比べやや割高であると指摘し、短期的には調整の可能性も示唆している。
- 政策が安定し、財政懸念が和らげば「デバイスメント・トレード」は後退する可能性がある。
総合
通貨価値の毀損に対する不安は金需要の基盤となっているが、ドルが依然として主要な基軸通貨であり、政策環境が変化すればリスク資産に資金が戻る可能性もある。従って、ディベースメント・トレードは金の上昇要因の一つであるものの、長期的な絶対的基調とは言い切れない。
金利低下と機会費用
テーゼ(肯定)
- 国債利回りやMMF利回りが低下すると、金利を生まない金を保有する機会費用が減少し、金の魅力が増す。
- 2025年末から2026年にかけては、インフレ懸念と景気減速見通しから利下げが予想され、金はこれまでの60%超の上昇をさらに伸ばす可能性がある。
- PIMCOも「金の高騰には金利低下が寄与し、金の保有コストを下げる」と指摘している。
アンチテーゼ(否定)
- 経済が予想以上に好調ならFRBは利上げに転じ、国債利回りが上昇して金保有の機会費用が増大する。WGCはトランプ政権の政策が成功すれば金利上昇とドル高によって金が下落する可能性も示す。
- 既に低金利環境を織り込んだ金価格は高値圏にあり、利下げが限定的なら上昇余地は狭い可能性もある。
総合
金利低下は金にとって追い風だが、政策転換やインフレ抑制によって金利が上昇するリスクも残る。金価格の行方は実質金利の動向に大きく左右されるため、市場は中央銀行の政策を注視する必要がある。
中央銀行による購入
テーゼ(肯定)
- セルビアなど新興国の中央銀行が外貨準備の安全性を高めるため金を急速に積み増し、金価格を押し上げている。
- 中央銀行が保有する金は10年で倍増し、準備資産に占める割合は約4分の1に達している。中央銀行は米国債よりも金を多く保有するようになり、政治的に中立な価値保存手段として金を重視している。
- ゴールドマン・サックスは2026年の中央銀行買いが月平均60〜70トンと、2022年以前の4倍近いペースで続くと予想する。
アンチテーゼ(否定)
- 金価格が上昇しすぎれば中央銀行の追加購入が抑制され、買いが鈍化する懸念がある。
- 中央銀行の外貨準備には流動性が求められ、金は売買コストが高いため、長期的に国債や他通貨を完全に代替することは難しい。
- 一部の中央銀行は為替安定や景気刺激のために金売却を行う場合もある。
総合
中央銀行需要は金市場の重要な支柱だが、買いは増加ペースの変動に左右され、価格との双方向性もある。地政学リスクが続く限り構造的な買いは続くと見込まれるが、価格変動が激しくなれば調整局面もあり得る。
割高な株式市場
テーゼ(肯定)
- 2026年1月時点で米国株式のシラーCAPE(景気循環調整後PER)は39.85と過去150年で3回目の高水準で、平均の135%上にあり、過去にこの水準は1929年、2000年、2021年のバブル前後にしか見られない。
- 高値圏の株式市場と特定の巨大企業に集中するリターンが投資家の不安を呼び、安全資産として金への資金移動を促している。
- PIMCOは株式が歴史的に割高で、AI関連投資の負債化も進んでいると指摘し、分散投資として金やコモディティの役割を示唆している。
アンチテーゼ(否定)
- 高PERは今後の企業利益成長とAI革命を織り込んでいるとの見方もあり、株式市場の強さが続く可能性がある。
- バリュエーションが高くても政策金利低下や経済成長によって正当化される場合には、金への資金シフトが限定的になる。
- 株式市場全体が割高でも、一部のセクターは適正価格または過小評価されている。
総合
株式市場の過熱感は金を安全資産として魅力的にしているが、企業業績の強さや技術革新が高バリュエーションを支える可能性もある。投資家は株式と金の両方に分散させ、極端なバリュエーションへの一方的な賭けを避ける必要がある。
モメンタム
テーゼ(肯定)
- 金は2025年に60%を超える歴史的上昇を記録し、過去の統計では20%以上上昇した年の翌年にも平均15%程度上昇を続ける傾向がある。
- PIMCOは金の最近のラリーがモメンタムと流動性によって支えられ、今後1年で10%以上の上昇余地もあると指摘する。
- 強いモメンタムは投資家の追随買いを呼び、更なる上昇を生みやすい。
アンチテーゼ(否定)
- モメンタムに依存した相場は逆張りの売りに弱く、短期の調整が起きやすいとPIMCOは警告している。
- 高値を更新するにつれ利食い売りやリスク回避が出やすく、モメンタムが行き過ぎると反落を招く。
- 2026年の金価格は既に高水準のため、モメンタム頼みの投資はリスクが高い。
総合
モメンタムは金相場を短期的に押し上げるが、基礎的要因(金利や需要)の裏付けがなければ脆弱である。過去の上昇率や投資家心理を考慮しつつも、過剰な楽観や悲観に振り回されない姿勢が求められる。
全体のまとめ
金価格が5,000ドルに迫る背景には、通貨の信頼性低下への不安、金利低下による機会費用の減少、中央銀行の戦略的買い、割高な株式市場への警戒、そしてモメンタムの強さが複合的に作用している。地政学的な不確実性と政治リスクが高まる中、金はポートフォリオの解毒剤として機能し続けている。
しかし、ドルの支配的地位や政策転換、金利上昇、株価の調整が起こった場合には金の上昇が抑制される可能性がある。投資判断においては、各要因の相互作用を踏まえつつ、長期的な分散とリスク管理が欠かせない。

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