ドル依存からの距離感:ブラジルの金保有拡大とBRICS


ブラジルの外貨準備における金保有比率の推移

ブラジル中央銀行(Banco Central do Brasil)は、2024年末まで外貨準備の大部分をドル建て債券で運用していました。2024年末時点の報告書では、ドルが国際準備高の約78.45%を占め、金は3.55%に過ぎませんでした。金はカウンターシクリカルな資産として市場の悪化時に価値を維持しやすいとされ、その保有割合を徐々に高めてきました。2015年には0.66%だった金比率が2024年には3.55%となり、2025年には約43 トンの金を購入したことで金の保有比率は約6%へ上昇しています。それでもブラジルの外貨準備の大部分は米ドルであり、金保有比率はBRICS諸国の中で低い部類に入ります。

BRICS諸国との比較

  • 中国: 中国人民銀行は2025年9月末まで14か月連続で金を購入し、保有量を約2,300トンに増やしました。人民日報によれば、2025年11月時点で金は中国の外貨準備の約9.5%を占めます。人民元国際化や米国債依存の低減を目的に金保有を増やしており、世界平均(15%程度)より低いものの毎月の買い増しで構造変化を促しています。
  • ロシア: ロシアは米ドル資産を削減し、金の積み増しを続けてきました。2025年末には国際準備が約7,550億ドル、うち金の評価額が約3,265億ドルであり、金の比率は約43%に達しています。ウクライナ侵攻後に西側諸国がロシアのドル建て資産を凍結したことから、物理的な金への転換が進められました。
  • インド: インド準備銀行は2025年に金を積極的に買い増し、9月までに保有量を880トンへ増やしました。金の外貨準備比率は2025年3月の11.70%から9月には13.92%へ上昇し、イギリスの保管庫から国内へ金塊を返還して差し押さえリスクや保管費用を低減しています。
  • 南アフリカ: 金の新規購入はほとんど行っていませんが、金価格の高騰により外貨準備に占める金の評価比率は2019年の11%から2025年には約20%へ上昇しました。同国は金産出国として金を安全資産として保持する一方、流動性確保のために外貨資産も維持しています。
  • BRICS全体: BRICS諸国および連携国は世界の金供給の半分を支配していると報じられ、各国中央銀行は米ドル依存を減らし、政治的に中立な金にシフトする「二重戦略」を採っています。ロシア資産凍結を契機に、金を制裁耐性のある資産と位置づける見方が共有されています。

ブラジルが金を積み増す理由

資産配分の多様化(テーゼ)

ブラジルの国際準備の約8割は米ドル建て資産であり、金はわずか3.55%でした。米ドル資産に偏るリスクが認識され、ロシアの外貨凍結といった事例によって準備資産の多様化が必要と判断されました。金は政治的に中立で物理的に保有できるため、他国による差し押さえリスクが低い資産とみなされています。またブラジル中央銀行は、金が市場急落時に価値を維持するためポートフォリオのリスク緩和に役立つと指摘しており、インフレや金融危機への保険として金投資が強調されています。

コストと流動性の懸念(アンチテーゼ)

金は利息を生まないため、米ドルや国債と比較して機会費用が大きく、価格下落局面では評価損となりやすいという欠点があります。ブラジル政府は外貨準備の大半をドルやユーロ建て債券で保有し、債券の利回りを確保する必要があります。また、為替介入では流動性の高いドル資産が必要であり、金は短期的な為替介入には適していないため、金比率を急激に高めることには慎重です。

シンセシス(総合)

ブラジルの金保有比率はBRICS諸国の中で依然低いものの、ロシア資産凍結や米ドルの信認低下への懸念から準備資産の多様化が進んでいます。ブラジルは2025年に金を約43トン積み増し、保有比率を約6%へ引き上げましたが、外貨準備の主軸はドル建て債券です。金の買い増しは長期的なリスクヘッジとして行われ、金利収益と流動性を確保する債券とのバランスを取りながら適度な保有を維持する戦略を採っています。

弁証法的考察:BRICSとの相違と共通点

  • テーゼ(多様化の重視):BRICS各国は米ドル資産への依存リスクを意識し、金を制裁耐性があり政治的に中立な資産として位置づける点で共通しています。中国は人民元国際化、ロシアは制裁回避、インドは地政学リスクとインフレへの備え、南アフリカは価格上昇による評価益のために金比率を高めています。
  • アンチテーゼ(国別制約):ブラジルのように経済規模が大きく貿易でドルが支配的な国では、ドル資産の流動性や利子収入が重要であり、金を急激に増やすことには慎重にならざるを得ません。南アフリカは自国産金の評価で比率が高いものの、新規購入は少なく、中国やロシアは長期戦略として金を増やしているがドル資産も維持しています。
  • シンセシス(調和):BRICS諸国はそれぞれの経済構造や地政学的立場に応じて金と外貨のバランスを模索しています。ブラジルは約6%という中庸な比率でリスク管理と流動性の両立を目指し、ロシアや中国のように比率を高めすぎれば流動性が低下すること、インドのように金利収益と安全性を両立させる必要があることが示されています。これらの動きは米ドル中心の世界金融システムに対する多極化への布石であり、金がその象徴として位置付けられています。

要約

ブラジルの外貨準備における金保有比率は2015年の0.66%から2024年には3.55%へ上昇し、2025年の金買い増しにより約6%となりました。主な理由は外貨準備の多様化や市場ショックへの備えであり、ロシア資産凍結に代表される地政学リスクが契機となっています。ブラジルはドル資産の流動性と利子収益を重視するため金比率はBRICS中で最も低いものの、今後も慎重に増やしていくとみられます。BRICS諸国全体では米ドル依存を減らし、制裁耐性のある資産を重視する潮流が強まり、金が多極化する世界金融システムの核心として再評価されています。

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