USDT・金・実物資産:テザーが築く新しい金融インフラの光と影

テザー(Tether)は2014年に創設された暗号資産市場最大のステーブルコインで、主力であるUSDTは米ドルに1対1でペッグされている。2024年初の供給量は約99億ドルで、2025年には140億ドルを超えた。2024年、同社は拠点をエルサルバドルに移し、130億ドルを超える利益を計上した。テザー社は準備資産の84.58%を現金・現金同等物や米国短期国債に置き、残りは債券、金、ビットコインその他の投資で構成する。ただし、USDTの償還には最低10万ドルと1%の手数料が必要で一般利用者の直接換金は難しく、依然として透明性への疑念が残る。

USDT以外にも複数の通貨に連動したトークンを展開し、特に金に裏付けられたTether Gold(XAU₮)は2025年に供給量52万トロイオンス(約16.18t)を保有し、金連動ステーブルコイン市場の半数以上を支配した。同年には米国のジェニウス法(GENIUS Act)に適合したUSATを新たに発行し、準備金情報を月次で公開する計画を示したほか、再生可能エネルギー企業Adecoagroへの出資や米国債・金の大量購入など実物資産への投資を拡大した。この結果、2025年の収益は約52億ドルに達し、暗号資産プロトコル全体の四割を占めた。

テザーを巡る評価は賛否両論である。肯定的な評価(テーゼ)は、①ビットコインやイーサリアムといったボラティリティの高い暗号資産との取引における基軸通貨として、価格安定性を提供して市場の流動性を支えてきた点、②米国債の大量購入によって米財政に貢献しつつ安定収益を確保している点、③金トークンや農業企業への投資、複数チェーン対応など実物資産とデジタル技術を結びつける革新を行っている点、④高収益により安定した財務基盤を築いている点が挙げられる。

一方、否定的な評価(アンチテーゼ)としては、①準備金の詳細開示が遅れ独立監査を受けていないことから透明性への疑念が根強い点、②準備資産に高リスク資産を含むことや開示不足が原因でS&Pグローバルが2025年にテザーの安定性評価を最低ランクまで引き下げた点、③償還の集中管理や高額な手数料により中央集権的で分散型金融の理念と矛盾する点、④マネーロンダリングや制裁逃れへの悪用が指摘されウォレット凍結機能が検閲抵抗性を損なう点、⑤USDT発行とビットコイン価格の相関による市場操作疑惑などがある。

ジェニウス法はステーブルコインに初めて連邦規制を適用し、100%準備金と月次開示、誤解を招く表示の禁止、消費者保護とAML規定を義務付ける。同法を受け、テザーは既存のUSDTを外国発行トークンとして扱いつつ、米国居住者向けにUSATを発行し、報告頻度を四半期から毎月に短縮するなど情報開示の改善を進めている。しかし、同時にS&Pの格下げや各国規制当局の監視強化が、さらなる透明性向上と低リスク資産へのシフトの必要性を示している。

弁証法的に統合(シンテーゼ)すると、テザーは暗号資産市場に不可欠な流動性供給者であり続けるために、①準備金の詳細公開と第三者監査の導入、米国と各国の規制に適応するなど透明性と規制遵守の強化、②中央管理による迅速な対応と分散技術を組み合わせ検閲耐性と利用者保護のバランスを取る、③金や農業企業への投資を含む実物資産とデジタル資産の連携を深める、④USDCやDaiなど透明性の高い競合の台頭に対応してガバナンスを改善することが求められる。テザーが暗号資産と伝統的金融の橋渡し役を続けるには、価格安定性と流動性を提供しつつも透明性やリスク管理、規制順守、技術的分散化を両立する戦略が不可欠である。

要約: テザーは米ドルにペッグされたUSDTで暗号市場最大のステーブルコインとして流動性を支え、金トークンXAU₮など多様化を図り、2025年は52億ドルの収益を上げた。一方で準備金の透明性不足、高リスク資産への依存、中央集権構造、マネロンへの悪用などの批判が強い。ジェニウス法による規制のもと、テザーは新トークンUSATの発行や月次開示の導入で透明性改善を進めているが、信頼を高めるには第三者監査や低リスク資産へのシフト、分散技術と規制遵守の両立が必要である。

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