国際的な外貨準備において金がドル建て国債を上回り、市場関係者の間では「脱ドル化」と捉えられる動きが注目されています。2025年末から2026年にかけて金価格は急騰し、中央銀行は年間1,000トンを超える買い越しを続けました。金の外貨準備に占める比率は四半世紀ぶりに25%前後まで上昇し、金の評価額は米国債保有額を上回っています。世界の外貨準備の約6割を占める米ドルの比率は長期的に低下傾向にあり、一部の新興国は制裁リスクや米国の財政赤字への不安からドル資産のウエートを減らしています。この動きを追い風に、金は信用リスクを持たない「最後の安全資産」として買い増しされ、各国の中央銀行では海外保管分を自国に戻す「金の返還」も進んでいます。こうしたデータは、現行のキーニジアン的な財政拡張・紙幣増発への信認低下と、政府債務や通貨の「紙の約束」に対する安全資産への回帰を示唆しています。
他方で「脱ドル化」が進んでいるという見方には慎重な意見も多く、統計からはドルの国際的地位が依然として圧倒的であることが読み取れます。国際通貨基金や米連邦準備制度理事会のデータによると、2024~2025年の米ドルの外貨準備シェアは約58%で横ばい推移しており、2001年の約72%からは低下したものの依然として他通貨を大きく上回っています。ユーロや円のシェア低下の方が顕著であり、ドルから金への乗り換えが直接的に起こっているわけではありません。金準備の増加も、価格上昇による評価額の伸びが大部分で、物量ベースでは2015年以降1割弱しか増えていません。国際貿易の決済通貨としてもドルの優位は揺らいでおらず、世界貿易の大半は依然としてドル建てで行われています。金融システムの深さと流動性、米国の法的安定性もあり、代替通貨がすぐに取って代わる兆候は見られません。
こうした事実を踏まえると、現在進行中の現象は「脱ドル化」ではなく「政府債務離れ・金への回帰」と捉えるのが妥当です。先進国の財政膨張やインフレによる実質金利の低下、地政学的な制裁リスクへの警戒が、中央銀行に対し金という無リスク資産への分散を促しています。その一方で、ドルの機能は依然として代替が効かず、国際金融システムの基軸として続いています。金の保有が増えていることは、紙幣という債務証書に対する信認が薄れているサインではあるものの、ドルの終焉を意味するものではありません。むしろ、多くの国は安全資産の選択肢を広げることでリスク管理を行っており、ドル・金・複数通貨による多極化した準備構成へと移行していると理解すべきでしょう。
要約:
近年、中央銀行の金買い増しによって金の外貨準備比率が上昇し、評価額は米国債を上回った。この動きは脱ドル化というより、先進国の債務膨張と通貨への信認低下に対するリスク分散であり、政府債務という紙の約束より実物資産を重視する流れである。とはいえ、米ドルは依然として外貨準備の約6割を占め、国際貿易や金融市場での役割も圧倒的で、金の増加がドル離れを直ちに意味するわけではない。今後はドル・金・その他通貨を組み合わせた多極的な準備構成が続くと見込まれる。

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