テーゼ:通貨指数と実質金利の役割の違い
- **DXY(米ドル指数)**は、ユーロ・円・英ポンド・カナダドル・スウェーデンクローナ・スイスフランの6通貨に対する米ドルの名目為替レートを加重平均した指数です。ドルが強くなれば指数は上昇し、弱くなれば下落します。金はドル建てで取引されるため、DXYが下落すると海外投資家にとって金が割安になり、需要が増えます。このため一般的に「弱いドル(DXY下落)=金高騰」との逆相関が意識されます。
- 実質金利は名目金利からインフレ率を引いたもので、資金の実質的な運用利回りを示します。金は利子を生まない資産のため、実質金利が高いほど金を保有する機会費用が増し、金価格は下押しされます。一方で実質金利が低下またはマイナスになると金の保有コストが下がり、需要が増えるため、金価格と実質金利は長期的に逆相関になりやすいと言えます。
- こうしたことから、DXYは金価格の「翻訳効果」を表し、他通貨に対するドルの相対価値を示します。一方、実質金利は金の「時間価値」を映し、利子が付く資産と比較したときの金保有の機会費用を表します。それぞれ影響の仕方が根本的に異なります。
アンチテーゼ:弱いドルでも金が上がらない例外
- 高金利がドル安効果を相殺するケース
2025年12月上旬、米ドル指数が5週間ぶりの安値圏に下落する一方、米国10年債利回りは約2週間ぶりの高水準を維持しました。この時期、金価格は1オンス4,208ドル付近で横ばいとなり、週ベースではマイナス圏でした。ドル安が金需要を刺激したものの、実質金利の上昇による機会費用の増加がその支援効果を打ち消し、金価格は上がりませんでした。 - リスク選好の回復で安全資産需要が減退するケース
2025年7月末には米国と日本の貿易合意や米欧交渉の進展が報じられ、世界的なリスク選好が改善しました。米ドル指数は2週間ぶりの安値となったものの、安全資産としての需要が薄れ、金価格は横ばいにとどまりました。投資家が米国株式やその他のリスク資産に資金を移したため、ドル安の支援効果は埋没しました。貿易交渉の進展による地政学的緊張の緩和も金の買い材料を削ぎました。 - DXYでは捉えきれない要因
金市場では中央銀行の大規模な金買い、投機筋の動向、中国やインドなど新興国からの実物需要などが価格に大きく影響します。2026年1月の報告では、過去数年の金価格上昇は地政学的緊張や通貨多極化への備えが主因であり、「弱いドルは金を支える要因だが影響は過大評価されている」と指摘されました。ドルが10%下落しても金は約10%の上昇にとどまり、実質金利の低下や安全資産需要の増加が伴わなければ顕著な上昇は起こらない、という例も挙げられています。
総合:DXYと実質金利の弁証法的統合
弁証法的に整理すると、テーゼでは「ドル安や実質金利の低下が金価格を押し上げる」という伝統的な逆相関が主張されます。一方、アンチテーゼではドル安にもかかわらず実質金利の高さやリスク選好の改善、地政学的安心感などが金の需要を減らし、逆相関が崩れる事例が示されます。これを統合すると次のような結論が導かれます。
- 複数要因の重なりが重要
DXYの変動は金価格に影響を与えるものの、実質金利や地政学リスク、中央銀行の買い入れなど他の要因の影響も大きく、ドル安単独で金価格を決定するわけではありません。 - 金の安全資産としての性質は状況依存
市場が不安定で安全資産需要が高まる局面では、ドルと金が同時に買われ逆相関が崩れることがあります。反対に、リスク選好が強いときはドル安でも金への資金流入は限定的です。 - 実質金利は機会費用の指標
利回りが高止まりすると金保有のコストが増し、ドル安の効果を打ち消します。一方、利下げやインフレ加速で実質金利が低下すれば、ドルが強めでも金は上昇しやすくなります。 - 長期的には通貨多極化と信用不安が背景
ロシア資産の凍結や貿易戦争などをきっかけに、各国中央銀行が外貨準備の多様化を進めています。こうした構造的な金需要はドル指数に左右されにくく、金が信用不安に対する恒久的なヘッジとして位置付けられていることを意味します。
結論
DXY(ドル指数)と実質金利はどちらも金価格の主要なドライバーですが、その役割は質的に異なります。DXYは他通貨に対するドルの相対価値を示す指標に過ぎず、実質金利は利回りとインフレの差という金融の時間価値を映し出します。弱いドルでも金が上がらない例外は、高金利やリスクオン相場などが支配的になると実際に起こり、逆に金価格が上昇するときには多くの場合、ドル安や実質金利低下に加え、地政学リスクや中央銀行の需要増加など複数の要因が同時に作用しています。


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