ロシア経済がSWIFTからの排除を受けた際、「決済網を遮断すれば資金調達が困難になり通貨危機は避けられない」と広く予想されました。SWIFTは国際銀行送金の基盤であり、多くのロシア金融機関が利用していたため、取引の遅延やコスト増、外貨準備の凍結、エネルギー輸出制限などが重なれば急激なルーブル安とインフレが発生すると考えられました。
しかしロシア政府と中央銀行は迅速に資本規制と金融防衛策を講じました。政策金利を9.5%から20%に引き上げて通貨保有の魅力を高め、輸出企業に外貨収入の80%を市場で売却させて外貨供給を確保し、資本移動規制や外貨預金の引き出し制限を導入しました。こうした措置で資本逃避が抑制され、ルーブルは急落後に回復しました。
輸出収入も重要な支えでした。ロシアは恒常的な経常黒字国であり、欧州の禁輸後も中国やインドなどへのエネルギー輸出を維持したことで外貨収入が大きく残りました。加えて欧州向けガス代のルーブル払いを要求し、ルーブル需要を高める施策もとりました。
ロシアはSWIFTの代替として国内の金融メッセージングシステムSPFSを拡充し、2024年末時点で24か国177の非居住金融機関が参加したと報じられています。中国人民銀行が運営する人民元建て決済システムCIPSも利用され、人民元建て取引のシェアは2024年5月にモスクワ取引所で約53%に達しました。さらに電話やFAXによる個別決済スキームや仲介銀行を通じた取引など、多様な迂回策が作られ、一部では暗号資産や物々交換による取引も増加したと指摘されています。
一方でこれらの策は短期的なものであり、長期的な脆弱性も指摘されています。ドル・ユーロ建て取引停止により市場が「制裁対象市場」と「非制裁市場」に分断され、通貨ごとに異なる為替レートが形成される恐れがある。人民元決済への依存は中国の金融インフラや地政学的考慮への依存を深め、戦争遂行のため軍需産業への資源集中や投資の停滞、技術供与の停止と高金利が生産性を押し下げています。ダラス連銀などは2022年末以降に貿易黒字が縮小傾向にあると指摘し、エネルギー価格下落や追加制裁が続けばルーブルへの下押し圧力が再び強まる可能性を警告しています。
総じて、ロシアはSWIFT排除の短期的な打撃を金融政策、貿易黒字、代替決済インフラ、人民元決済の拡大などで緩和し通貨危機を回避しましたが、その安定はエネルギー輸出と中国システムへの依存に支えられており、長期的には経済の分断や成長鈍化、財政赤字拡大などのリスクが残ると結論付けられています。

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