背景
貸倒引当金は、売掛金や貸付金などの金銭債権が将来貸倒れる可能性を見積もって設定する評価性引当金であり、法人税法では「個別評価金銭債権」と「一括評価金銭債権」に区分されます。一括評価金銭債権の範囲は、売掛金や貸付金など回収を目的とした金銭債権に限定され、国税庁のタックスアンサーでは保証金・敷金などが明確に除外されています。
問題意識(命題)
賃貸借契約などで差し入れられる保証金や敷金は契約終了時に返還されることが予定され、返還請求権は債権として貸方に計上されます。将来的に返還されないリスクに備えて貸倒引当金を計上するべきではないかという疑問が生じます。以下では弁証法的視点からこの疑問を検討します。
正(テーゼ):保証金も債権であり引当金の対象とすべきだ
- 債権性:保証金や敷金は返還請求権であり、債権である以上、回収不能リスクへの備えとして貸倒引当金を設定するのは合理的に見えます。
- 長期性のリスク:保証金は長期間預けられることが多く、長期的な取引先の信用変動や倒産リスクを考慮すると返還不能となる可能性が無視できないように思えます。
- 会計的整合性:会計基準上、将来の貸倒リスクを適切に見積もり財務諸表に反映することが求められるため、保証金にも引当金を設定することが理論的には考えられます。
反(アンチテーゼ):保証金は一括評価貸倒引当金の範囲外である
- 法令による明示的除外:国税庁のタックスアンサー「No.5500」は、一括評価金銭債権に当たらないものとして「保証金、敷金、預け金その他これらに類する債権」を挙げています。これは法人税法第52条および法基通11-2-18に基づく指針であり、保証金等が一括評価の対象外であることが明記されています。
- 現金回収目的ではない:貸倒引当金の対象となるのは「将来、金銭による取立てを目的としている」債権であり、売掛金・受取手形・貸付金などが対象になる一方、敷金や保証金などは対象外と説明されています。
- 返還請求権は条件付き債権:敷金返還請求権は賃貸借契約の終了および修繕費等の精算後に初めて発生する停止条件付き債権であり、契約期間中は実体のない条件付き債権に過ぎないとされています。このため、通常の売掛金等と同様に貸倒引当金の対象とするのは適当ではありません。
- 回収不能リスクが極めて低い:保証金や敷金などは貸倒れリスクが低いため引当金を設定する必要がありません。
- 相殺適状・担保性:保証金は物件や借入金に対する担保として差し入れられ、債務と相殺される性質を持つため、貸金とは認められません。そのため、一括評価の貸金総額から控除して限度額を計算するべきとされています。
- 個別評価の対象だが引当不要が原則:国税庁の質疑応答事例では、寄託債権である保証金は個別評価金銭債権に含まれるものの、通常は貸倒れによる損失見込額が生じないため、引当金を設定する必要はないと説明されています。
合(ジンテーゼ):保証金を一括評価から除外する合理性
保証金は債権であるものの、返還請求権の発生が契約終了という条件付きであり、現時点で確定していないこと、担保性が強く回収不能リスクが極めて低いことから、売掛金・貸付金等のように一括評価で一般債権として扱うべきではありません。一括評価は多数の金銭債権を統計的に評価する制度であり、貸倒れの可能性がほとんどない保証金を含めれば過大な引当金を計上することになります。保証金が返還されないという異常事例が発生した場合は、個別評価として対応すれば足りるため、保証金を一括評価の対象から除外するのは法令上も実務上も合理的な判断です。
要約
- 一括評価貸倒引当金の対象は、売掛金・貸付金など将来の現金回収を目的とした金銭債権であり、保証金や敷金は対象外と明示されています。
- 保証金返還請求権は賃貸借契約終了後に確定する条件付き債権であり、契約中は実体のないため貸倒引当金の対象外です。
- 保証金や敷金は回収不能リスクが極めて低く、担保性の強い預託金であるため、貸付金のように引当金を設定する必要はありません。
- 国税庁の質疑応答では、保証金は個別評価金銭債権に含まれるが、通常は引当金を設定する必要がないとされています。

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