ディベースメント時代の金投資

正:金への強気論

中央銀行と投資家の買い需要

金は価値の保存手段として長年認識されてきた。最近ではインフレや財政持続性への懸念から、中央銀行民間投資家が競い合うように金を買い増している。政策金利の引き下げにより金の保有コストが低下し、実質利回りの低さも金を相対的に魅力的にしている。

ディベースメント(通貨価値の棄損)へのヘッジ

巨額の財政赤字や量的緩和が続く米国や欧州では、通貨の信認が揺らぎつつある。この「ディベースメント」懸念を背景に、インフレや通貨安に備える手段として金が選好されている。実際、2025年には金のコールオプションへの需要が急増し、投機的な買いが金相場を押し上げた。

長期的上昇見通し

ゴールドマン・サックスは、金価格が2026年末までに1オンス5,400ドルに達すると予想している。この見通しは中央銀行の買いが継続することを前提としており、新興国の多くが外貨準備での金保有比率をまだ引き上げられる余地があるという。インフレ率が高止まりし実質金利が低下すれば、金への資金シフトは続くと考えられる。

反:金への懐疑論

ボラティリティの高まり

2025年初頭に発生した金価格の急落は、オプション市場の需給が引き起こした。金のコールオプションを販売したディーラーは価格上昇時にヘッジ目的で金を買い、価格が下落するとそのポジションを解消する。こうした「ガンマ効果」によって、相場が上昇すると更に買いが入り急騰し、ひとたび下落に転じるとストップロスが連鎖するため急落する。このように、金市場は想定外のボラティリティを孕んでおり、短期的な投資家にはリスクが高い。

銀との比較と流動性リスク

銀市場は金と同様に安全資産として語られるが、ロンドンの保管庫では流動性バッファーが減少している。米国の関税リスクを見越して多くの銀がロンドンから移動した結果、残された流動性は限られている。投資家の需要が高まると保管庫の底に触れかけ、価格は急騰するが、一転して需要が引くと急落する。銀の流動性逼迫が長期化する場合、金に比べて極端な価格変動が続く可能性があり、金の強気論にも影を落とす。

コモディティ全般の供給増加

金は希少性ゆえに供給増が見込めないが、他のコモディティは価格上昇が生産拡大を促す。銅やリチウムなどでは国家による備蓄や輸出管理が進み、一時的に価格は上昇するかもしれないが、最終的には供給増により調整される。投資家がコモディティ全般に「保険需要」を持ち、価格が高止まりする状況が長続きしないことは、金市場にも波及しうる。

合:統合的視点

長期的価値保存と短期的ボラティリティの共存

金は数千年にわたって価値の保存手段として認識され、法定通貨の信認低下や地政学リスクの高まりに対する自然なヘッジとなる。一方で、オプション市場による投機的な需給や銀市場の流動性問題など、短期的なボラティリティ要因も存在する。このため、金への投資は長期的な資産防衛として有効だが、短期的な価格変動に左右されにくいポジションサイズと資金管理が求められる。

多様化戦略の必要性

金に集中投資するのではなく、銀や工業用メタル、株式、債券などと組み合わせることでポートフォリオ全体のリスク・リターン特性を調整できる。特に、金価格の急騰局面ではポジションの一部を利益確定し他資産に振り向けるなど、ダイナミックなリバランスが重要となる。また、中央銀行の買い需要や金融政策の変化をモニターし、金の持つ役割を再評価する姿勢も欠かせない。

信任の危機と貨幣制度のゆくえ

通貨価値の棄損や中央銀行デジタル通貨(CBDC)の普及に対する懸念は、金だけでなく暗号資産や他の安全資産への需要を刺激する。金融システムの信任が揺らぐ中で、金は物理的資産としての安心感を提供するが、ブロックチェーン技術の台頭など新たな逃避先も台頭している。投資家は金の伝統的な役割を理解しつつ、社会全体の貨幣観の変化にも目を配る必要がある。

まとめ

金市場では中央銀行と投資家の需要増加が相場を押し上げる一方、オプション市場の需給や銀の流動性逼迫による短期的なボラティリティも顕在化している。金は希少性に基づく長期的な価値保存手段であり、通貨価値の棄損や地政学リスクに対するヘッジとして有効である。しかしながら、急激な価格変動に備えて適切な資金管理を行い、他の資産との分散投資を通じてリスクを軽減することが望ましい。長期的な視点と短期的なリスクへの備えを両立させることで、金投資の恩恵を最大化できるだろう。

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