正(テーゼ):インフレが賃金・金利の正常化を促す
日本は長らくデフレや低インフレ状態が続き、企業も家計も価格を上げられないまま賃金も上がらず、名目金利がほぼゼロに張り付いた「停滞」の期間を過ごしてきました。こうした環境では、需要の増減や原材料の値上がりがあっても商品価格に反映されにくく、企業は内部留保に偏重し、人件費を抑えることで利益を確保してきました。しかし最近では、円安や海外資源価格の上昇、人口減による人手不足などが重なり、幅広い品目で価格改定が続いています。価格メカニズムが再び動き始め、物価上昇が常態化することで企業が賃上げを検討する余地も生まれ、名目賃金・金利を徐々に引き上げる機運が出てきました。「第2ステージ」に入ったとも言われ、物価・賃金・金利がデフレ期の異常な関係から正常な関係へと移行しつつあることが期待されます。
反(アンチテーゼ):価格メカニズムの再起動と賃金遅滞の齟齬
一方、価格が上がっても賃金が追い付かない状況が続けば、家計の実質購買力は低下します。慢性的に低賃金だった非正規雇用や地域間格差の是正が進まないままインフレに突入すると、生活必需品の値上げが家計を直撃し、企業の販売量も落ちかねません。また、賃金上昇を原価に転嫁できない中小企業やサービス業ではコスト高だけが残り、価格メカニズムの本来の機能である資源配分をゆがめることもあります。さらに、政府が対策として消費税を引き下げれば価格低下圧力が働き、一時的に家計の負担は和らぐものの、財政余力を奪って将来的な社会保障やインフラ投資に支障をもたらす可能性があります。税率引き下げによる需要刺激も持続的な賃金・生産性向上につながる保証はなく、「消費減税は消費者にとってマイナス」という反論にも一定の合理性があります。
合(ジンテーゼ):構造改革と物価・賃金の好循環の追求
このような矛盾を総合的に乗り越えるには、単純なインフレ礼賛や減税策に頼るのでなく、物価・賃金・金利の好循環を作り出す構造改革が必要です。まず、企業は労働市場の逼迫を賃金に反映させて人材確保を進め、付加価値の高い商品・サービスへの転換を図るべきです。政府は最低賃金引き上げや税制の見直しを通じて賃金上昇を後押ししつつ、教育や職業訓練への投資で生産性向上を促す必要があります。消費税については、低所得者の負担軽減策を的確に行いながら、財政健全化と社会保障維持の観点から軽々に引き下げない判断が求められます。また、中央銀行は物価と賃金の動向を慎重に見極めながら金利を正常化し、過度な金融緩和に依存しない環境を整備することが重要です。こうした政策と市場の相互作用が「第2ステージ」の中で成熟すれば、物価メカニズムが機能する中で賃金と金利が適切に調整され、持続的な経済成長と生活水準の向上が実現すると考えられます。

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