米国では、2025年度の統合財政赤字がGDPの約6%に達すると見込まれており、国債残高と利払いの増大が持続可能性の懸念を生んでいる。この状況に対し、下院のビル・ハイゼンガ議員(共和)やスコット・ピーターズ議員(民主)らが、財政赤字をGDP比3%以下に抑えることを目標とした超党派決議案を発表した。ブリッジウォーター・アソシエーツの創業者レイ・ダリオはこの「3%案」を全面的に支持する旨を投稿し、議会での討議を促している。以下では、この主張について弁証法の枠組みに基づき検討する。
命題(テーゼ):3%目標は財政の持続可能性を確保するために必要
レイ・ダリオは長期の負債サイクル研究に基づき、現在の米国債務の増加ペースが続けば財政危機につながると警告している。彼は共和党議員との会合で「財政赤字をGDPの約3%まで削減しない限り、債務供給が需要を上回り、利払いが政府支出を圧迫する」と述べている。また、タイム誌への寄稿では、赤字削減のための3つのレバーとして「歳出削減・増税・金利引下げ」を挙げ、各レバーを適切に組み合わせれば10年後に政府債務負担が約17%減少すると指摘している。さらに3%案を支持する経済学者や実業家は、赤字を縮小することで利払いを抑え、民間投資を呼び込めると主張し、将来世代への負担軽減を訴えている。このように、3%目標は財政の信頼性回復と経済の安定に必要だというのがテーゼである。
反対命題(アンチテーゼ):3%目標は画一的で景気や格差への悪影響が懸念される
一方で、固定的な赤字目標には批判もある。米国は基軸通貨国であり、政府が自国通貨建てで債務を発行しているため、理論上はデフォルトリスクが低いという見方がある。この立場からは、財政赤字そのものよりもインフレ率や資源配分の方が重要で、早急な赤字削減は景気回復を妨げ失業を増やすと懸念される。また、ダリオが提唱する支出削減や増税は具体的な対象を示しておらず、教育や医療などの公共サービスが削減対象となる場合、所得格差や社会的弱者への影響が大きい。金利引下げに重点を置く提案も、米連邦準備制度の独立性を損なうとの批判がある。さらに、景気後退や戦争など例外的状況では一時的な赤字拡大が必要な場合もあり、3%という数値を機械的に守ることは柔軟性を欠くとの指摘がある。
統合(ジンテーゼ):財政規律と成長投資の両立を図る柔軟な枠組み
財政赤字の急激な拡大が持続不可能であることは、多くの専門家が認めている。その一方で、赤字削減が極端な緊縮となり、景気悪化や社会的コストを招いては本末転倒である。したがって、テーゼとアンチテーゼを統合するためには、以下のような柔軟なアプローチが必要だろう。
- 目標はガイドラインとして採用しつつ、経済状況に応じた弾力性を確保する。3%の赤字目標は長期的な財政健全化の指針として有用だが、不況時や緊急時には財政支出で景気を下支えする必要がある。そのため、景気循環を考慮した構造的な目標や中期的な財政規律ルールを設けることが望ましい。
- 負担の公平性を重視した歳出改革と税制改革。支出削減は無駄の排除や補助金の見直しに重点を置き、教育・インフラへの投資と社会的弱者の保護は維持する。一方、税制では超富裕層や大企業への優遇措置を見直し、持続的な歳入確保を図る。こうした改革があってこそ、赤字縮小は社会的正当性を持つ。
- 金融政策との協調。ダリオが指摘するように金利は赤字削減に大きな影響を与える。しかし金利の引下げはインフレや資産バブルを招くリスクもあるため、財政政策と金融政策が相互作用を慎重に調整する必要がある。財政緊縮と金融緩和の同時実施により、成長への悪影響を最小限に抑えられる可能性がある。
- 経済成長を促す投資の重視。長期的には潜在成長率の向上が赤字対GDP比を下げる最も持続的な手段である。人材育成、研究開発、インフラ整備などの投資は、将来の税収増大につながり、赤字目標達成を容易にする。
以上のように、レイ・ダリオが支持するGDP比3%の赤字目標は財政規律を高める有効なシグナルである。しかし、その達成方法や適用の仕方には慎重な検討が不可欠であり、社会的公正と経済成長を両立させる総合的な政策が求められる。

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