金価格が史上最高値を更新し、株式や債券の利回りが頭打ちになった2026年、投資家の間では「金を持つべきか否か」という議論が熱を帯びています。金は伝統的にインフレや金融危機への保険とされてきましたが、過去数年の急騰を受けて、安全資産としての役割や適切な保有比率を見直す声も強まっています。そこで、弁証法的な視点から、金を巡るテーゼ(正命題)とアンチテーゼ(反命題)を整理し、双方の主張を踏まえた上でより現実的な統合的視点を示します。
テーゼ:金は2026年も重要な戦略資産である
2025年から2026年にかけての世界経済では、米国の高関税政策や地政学リスクにもかかわらず株式やコモディティが堅調でした。しかし、その好調さの裏には過度の楽観があり、政策不確実性や金融システムへの不信は高水準にあります。株式の予想PERやクレジット・スプレッドは20年平均を大きく上回り、米国のマージンデット残高も過去の株価急落期に匹敵する水準まで膨らみました。さらに、景気刺激策への依存や供給制約により米国のコアインフレ率は約3%と高止まりしており、今後もインフレ懸念が続けば再利上げの可能性も残っています。このように、株式や債券のバリュエーションが割高である一方、政策の舵取りは不透明で、金融システムの安定も揺らいでいます。金は利息を生まない代わりに価値保存機能があり、株式・債券との相関が低いため、ポートフォリオを補完する役割が期待できます。実際、2008年の世界金融危機や2022年のインフレショックといった危機局面では、直前に金が大きく上昇していても下落相場で安全資産として機能しました。また、中央銀行による外貨準備の分散需要や、投資家がインフレヘッジを求める動きが続いており、専門機関の多くは2026年の金価格平均を1オンスあたり4,500~5,500ドル台と見込んでいます。こうした観点から、投資環境が不安定な中では資産保全手段として金を一定比率組み入れるべきだと主張できます。
アンチテーゼ:金は過大評価されており、安全資産としての役割も過信すべきではない
一方で、金はここ数年で急激に値上がりし、2026年初頭には1オンス5,500ドルを超える局面がありました。金は利息や配当を生まないため、価格が急騰している状況では「買っても利回りが得られない高価な石」とも言えます。実際、1月末から2月初めにかけて米国の新FRB議長指名やドル高を受けて金は最大10%急落し、その後急騰するなど、価格変動率が一時年率90%を超える極端なボラティリティを記録しました。保管コストや盗難リスクを考えると、期待するほどの安定性が得られないという批判もあります。また、金価格は米ドルや金利に大きく左右されます。政策金利が予想以上に長期間高止まりすれば、利息を生まない金の機会費用が高まり、投資魅力は低下します。高価格が続けば主要な需要源である宝飾品需要が縮小し、買い手が離れる可能性も指摘されています。加えて、投機的な先物取引や証拠金規制の変化が価格を大きく揺さぶることがあり、安全資産とはいえ短期的には大きな損失を被るリスクもあります。そのため、金への過剰な投資や「価格は必ず上がる」という発想は危険であり、特に退職後の生活資金を守りたい高齢の投資家は、金を所得が生まれる資産の代替とは考えるべきではないとの意見も根強いです。
総合:適切な範囲での金保有が現実的な選択
テーゼとアンチテーゼの主張を踏まえると、金は2026年の不安定な市場環境において有用な保険である一方、万能の安全資産でもなければ投資家の主力資産にもなり得ません。株式や債券の評価が割高で、金利や政策の不確実性が高い時期には、ポートフォリオに多様性を加え、インフレや市場混乱への耐性を高めるために金を一定量保有することが合理的です。ただしその比率は個人のリスク許容度や収入源の状況に応じて慎重に設定すべきです。金融機関や研究者は5~10%程度の保有を推奨することが多く、過度な集中投資は避けるべきでしょう。金の価格は大きく変動する可能性があるため、長期的な視点でリバランスを行いながら保有すること、売買のタイミングに一喜一憂せず計画的に管理することが重要です。また、物理的な金と並んで金ETFや金鉱株、さらには他の実物資産やデジタル資産など多様な手段を組み合わせることで、流動性やコストの問題を軽減することも検討できます。結局のところ、金は相場の混乱から資産価値を守る一つの道具であり、それ自体が財産形成のエンジンではありません。過度の期待も過小評価もせず、全体の資産構成の中で適切な役割を与えることが、2026年の投資環境においては最も現実的な選択といえるでしょう。

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