現状のスポット用船料の動向と高騰の背景
世界のプロダクトタンカー市場では、スポット用船料が近年急騰し高水準にあります。その背景には、2022年以降の地政学リスクによる貿易構造の変化が大きく影響しています。特にロシアのウクライナ侵攻を機に石油製品の海上輸送ルートが劇的に変わり、タンカーの需要が増加したことが指摘されています (プロダクト船社、市況高騰 業績急回復、4―6月期、ハフニア最高益|日本海事新聞 電子版)。欧州はロシア産石油製品の禁輸措置(2023年2月発効)により、近距離の供給源を失ったため、中東やインド、米国など遠距離からの調達に依存する構造となりました。これによりトンマイル需要(輸送距離×数量)が大幅に増え、市況が急騰したのです (プロダクト船社、市況高騰 業績急回復、4―6月期、ハフニア最高益|日本海事新聞 電子版)。
実際、プロダクトタンカー運賃はウクライナ危機直後の2022年後半から歴史的高水準に達しました。例えば主要タンカー社ハフニア(Hafnia)は2022年4-6月期に過去最高益を計上しており、同四半期のスポット市況高騰ぶりが窺えます (プロダクト船社、市況高騰 業績急回復、4―6月期、ハフニア最高益|日本海事新聞 電子版) (プロダクト船社、市況高騰 業績急回復、4―6月期、ハフニア最高益|日本海事新聞 電子版)。その後いったんは落ち着きを見せたものの、市況は依然として従来比で非常に高いレベルを維持しています (プロダクト船社、市況高騰 業績急回復、4―6月期、ハフニア最高益|日本海事新聞 電子版)。2023年を通じて多少の変動はありましたが、2024年末から再び上昇圧力が強まり、2024年12月~2025年初頭にかけてはサイクル上限に迫る水準となりました。
特に大型のプロダクトタンカーであるLR2型は、2023年末~2024年初にかけて日量10万ドル超という異例の高水準に達しています (Product tanker rates now so high some traders no longer moving cargoes, Gibson says | TradeWinds) (Product tanker rates now so high some traders no longer moving cargoes, Gibson says | TradeWinds)。これはRed Sea(紅海)経由ルートの混乱が拍車をかけた結果で、従来ルートの迂回により輸送距離が延びたことが直接の要因でした (Product tanker rates now so high some traders no longer moving cargoes, Gibson says | TradeWinds)。2024年1月時点で近代船(2015年建造以降)のLR2スポット収益は平均約84,800ドル/日と前年から132%も上昇し、中東湾岸~欧州航路では9万ドルを超える水準に達しています (RE: Hafnia – ’24. | Finansavisen Forum) (RE: Hafnia – ’24. | Finansavisen Forum)。これは2022年末に記録した過去最高値(約9万ドル/日)に匹敵するもので、市況が再びピーク水準へ急騰していることを示しています (RE: Hafnia – ’24. | Finansavisen Forum)。同様にLR1型(中型タンカー)も近代船で平均61,600ドル/日と前年同期比で倍増しており、ブローカーBRSは「紅海情勢がLR1市況急騰の触媒になっている」と分析しています (RE: Hafnia – ’24. | Finansavisen Forum)。一方で大西洋域の小型タンカー(MR型など)は、一部航路で相対的に伸び悩むケースもあります。例えば欧州から米国向けガソリン輸送は、米国の需要低迷や西アフリカ諸国の輸入減少により2024年は低調で、MR船の一部運賃は2021年以来の安値圏となりました (Viewpoint: European tanker rates meander into 2025 | Latest Market News) (Viewpoint: European tanker rates meander into 2025 | Latest Market News)。それでも総じて歴史的水準を上回る高止まりとなっており、市況の強さが際立っています (Viewpoint: European tanker rates meander into 2025 | Latest Market News)。
製油所の稼働状況と輸出入動向の変化
プロダクトタンカー需給を左右する石油製品の生産・貿易動向にも、大きな変化が生じています。まず欧州の製油所稼働と輸入増です。欧州各国は2023年以降、国内需要を満たすためロシア以外からの輸入を拡大し、中東・インドから欧州へのディーゼルやジェット燃料の長距離輸送が常態化しました (RE: Hafnia – ’24. | Finansavisen Forum)。EUの石油製品輸入トンマイルは、戦争前の2022年初頭には世界全体の11%程度でしたが、2024年初頭には14%に拡大しており、欧州への長距離輸送が増えたことをデータが裏付けています ( Americas clean tanker rates to stay volatile at elevated floor in Q2 as exports grow | S&P Global )。この間、欧州の製油所は老朽設備の閉鎖やメンテナンスが相次ぎ、域内供給が細ったこともあって、国際調達への依存度が高まりました (Viewpoint: European tanker rates meander into 2025 | Latest Market News) ( Americas clean tanker rates to stay volatile at elevated floor in Q2 as exports grow | S&P Global )。例えば2024年は経済成長鈍化と定期修理の影響で欧州内のガソリン輸出余力が減り、対米輸出が落ち込んでいます (Viewpoint: European tanker rates meander into 2025 | Latest Market News) (Viewpoint: European tanker rates meander into 2025 | Latest Market News)。これにより欧州発MR船の需要は一部低下しましたが、その反面欧州向けの製品タンカー輸送需要(中東・アジア・米国→欧州)は確実に増加しています。
次に中東・アジアの製油所増強と輸出拡大です。サウジアラビアやクウェート、中国などでは新規製油所の稼働や産能拡大が進み、輸出余力が増大しています。中東・インドからの石油製品輸出量は、欧州の需要を満たすべく日量80〜110万バレル規模で推移しており(EUの対露禁輸後の典型的な輸入量)、欧州経由が滞った場合には在庫逼迫か代替調達が必要となる水準です (RE: Hafnia – ’24. | Finansavisen Forum)。実際、2024年初には紅海経由の欧州向け流れが一時止まり、欧州は在庫取り崩しか米国からの代替調達を余儀なくされました (RE: Hafnia – ’24. | Finansavisen Forum)。1月には欧州の米国産ディーゼル輸入が前年の2倍近い日量35〜40万バレルに急増しており、北米→欧州航路でもタンカー需要が一時的に跳ね上がっています (RE: Hafnia – ’24. | Finansavisen Forum)。米国側でも製油所稼働率は堅調で、余剰製品の輸出が活発です。米湾岸から欧州・中南米向けの製品輸送は増加傾向にあり、例えば米国~チリ航路ではパナマ運河経由のタンカー運賃が高位安定しています ( Americas clean tanker rates to stay volatile at elevated floor in Q2 as exports grow | S&P Global ) ( Americas clean tanker rates to stay volatile at elevated floor in Q2 as exports grow | S&P Global )。さらにラテンアメリカ諸国の輸入需要も旺盛で、2024年夏には米湾岸からブラジルへのディーゼル輸送量が月間ベースで2022年以来の最高水準に達したとの報告もあります (Summer surge: Record diesel flows from USGC to Europe, Latin …)。このように、各地域の製油所稼働と輸出入パターンの変化が、世界的なタンカー航路の長距離化と需要増加をもたらし、用船料高騰の根底にあるといえます。
一方で、西アフリカや中南米の自給拡大といった需要減少要因も存在します。ナイジェリアの巨大製油所(ダンゴーテ)の稼働開始遅れなどで足元では大きな影響は出ていませんが、将来的にはこれら地域の輸入減少が一部タンカー需要を抑制する可能性があります (Viewpoint: European tanker rates meander into 2025 | Latest Market News)。また、高騰する運賃自体が需要破壊を招く例も見られます。ブローカー各社は「運賃があまりに高いため、一部の製品取引は採算が合わず見送られている」と指摘しており (Product tanker rates now so high some traders no longer moving cargoes, Gibson says | TradeWinds) (Product tanker rates now so high some traders no longer moving cargoes, Gibson says | TradeWinds)、実際に運賃高騰が商品の貿易量を抑える局面も発生しています。このように、需給双方の要因が絡み合う中で、市場は短期的なバランスを模索しています。
地政学的リスクと航路への影響
ウクライナ戦争と中東情勢といった地政学リスクは、プロダクトタンカー市場に直接・間接の影響を及ぼしています。まずウクライナ戦争に関連する影響では、黒海・バルト海航路の縮小とリスクプレミアムが挙げられます。戦争勃発以降、黒海経由の製品輸送は激減し、一部のタンカーは戦域への航行を避けています。ロシア産石油製品は迂回ルートで第三国へ運ばれるようになり(例えばバルト海→アフリカ/中東や、陸上経由等)、従来の短距離輸送が長距離化しました。黒海やバルト海で運航する船舶には戦争危険保険の上乗せ費用が発生し、これは用船料にも織り込まれる形でコスト増要因となっています。加えて、G7各国はロシア制裁逃れに使われる「影の艦隊」取り締まりを強化し始めており、公的保険や大手船主の市場から締め出された旧式タンカーが増えています (Market news – European Maritime Finance)。その結果、市場で利用可能な船腹が事実上減少することになり、これも市況を下支えする要因です。
中東では紅海ルートの安全保障リスクが深刻化しました。2023年後半からイエメンのフーシ派武装勢力が紅海・アデン湾を航行する船舶に対する攻撃を繰り返し、11月には実際にJPモルガン関連のタンカーがミサイル被害を受け炎上する事件も発生しました (Product tanker rates now so high some traders no longer moving cargoes, Gibson says | TradeWinds)。この紛争激化に対し、米国はフーシ派拠点への空爆を実施(2025年3月)するなど軍事介入し、フーシ派側も米英関係船舶への報復を示唆したため、紅海航行リスクと保険料が急騰しました (Red Sea insurance rates to stay firm as US airstrikes raise fears for ships | Reuters) (Red Sea insurance rates to stay firm as US airstrikes raise fears for ships | Reuters)。戦争危険保険の料率は一時、船舶価値の0.5%から2%近くまで跳ね上がり (Red Sea insurance rates to stay firm as US airstrikes raise fears for ships | Reuters)、紅海経由の航路を通過するだけで数日間の航海に数十万ドル規模の追加コストを伴う事態となったのです (Red Sea insurance rates to stay firm as US airstrikes raise fears for ships | Reuters)。結果として多くの船主が紅海・スエズ運河ルートを忌避し、アフリカ喜望峰回りへの大規模な迂回が起こりました (RE: Hafnia – ’24. | Finansavisen Forum) (RE: Hafnia – ’24. | Finansavisen Forum)。2023年12月以降、600隻以上の商船がスエズ運河経由を避けて迂回したとのデータもあり (How disruption from Houthi attacks in the Red Sea is driving up shipping emissions) (How disruption from Houthi attacks in the Red Sea is driving up shipping emissions)、長距離迂回は燃料費・時間損失だけでなく、大量の船腹を拘束することで市況を押し上げました。
紅海危機による直接的な市況への影響は顕著でした。前述の通り、LR2船は日額10万ドル超、LR1船も6万ドル超へ急騰し (Product tanker rates now so high some traders no longer moving cargoes, Gibson says | TradeWinds) (RE: Hafnia – ’24. | Finansavisen Forum)、「紅海/Suez経由の東西ディーゼル回廊が停止したことで欧州のディーゼル価格も上昇、配達遅延につながっている」との指摘もあります (RE: Hafnia – ’24. | Finansavisen Forum) (RE: Hafnia – ’24. | Finansavisen Forum)。迂回航路では航海日数が約50%延びるケースもあり (How disruption from Houthi attacks in the Red Sea is driving up shipping emissions)、その穴を埋めるため各地で代替品のスポット需要が発生しました (RE: Hafnia – ’24. | Finansavisen Forum)。また、紅海情勢の長期化が見通せない中で船社は防衛的措置を継続しており、2024年初~春先には「2月上旬まで中東→欧州の製品船が一隻もスエズ運河を使用しない見通し」とまで言われました (RE: Hafnia – ’24. | Finansavisen Forum)。このような極端な航路制限は、当該期間の中東→欧州向け供給を事実上ゼロにしうるため、市場へのインパクトは甚大です。欧州は在庫取り崩しか他地域からの緊急調達に迫られ、結果的にタンカー市況の世界的連鎖高騰を招きました (RE: Hafnia – ’24. | Finansavisen Forum) (RE: Hafnia – ’24. | Finansavisen Forum)。
その他の地政学リスクでは、イスラエル・ガザ紛争(2023年秋)の波及も無視できません。直接タンカー航路が封鎖される事態には至りませんでしたが、中東情勢の不安定化は紅海のみならずホルムズ海峡など他の要衝でも警戒感を高めました。ホルムズ海峡やペルシャ湾では幸い目立った混乱は起きていませんが、有事に備えた航行制限計画が議論されるなどリスクプレミアムの一部織り込みが行われています。さらに、大国間の制裁合戦や関税措置もタンカー需要に影響します。例えば米国がロシア産原油・製品購入国に追加関税を課す可能性(報道ベース)など、貿易制限は結果としてより遠方からの調達ニーズを生みタンカー需要を押し上げると指摘されています (Market news – European Maritime Finance) (Market news – European Maritime Finance)。このように、地政学的リスクは直接的な紛争被害による航路遮断・迂回と、制裁や貿易摩擦による物流パターン変更の両面から、短期的な用船料高騰要因となっています。
主要航路の混雑・運航制限の状況
上述の地政学リスクと関連しますが、海上交通のボトルネックや運河の制限も用船料に影響する重要な要因です。まず挙げられるのはスエズ運河・紅海航路の混乱です。紅海危機では大手海運各社(コンテナ船会社など)はこぞって喜望峰回りへ転換し、2024年前半も通常航路への復帰を見送る動きが続きました (Market news – European Maritime Finance) (Market news – European Maritime Finance)。専門家は「主要船社が通常運航を再開するまで少なくとも6ヶ月はかかる」と予測しており (Market news – European Maritime Finance)、紅海ルートの半ば恒常的な混雑・遠回り状態が続いています。プロダクトタンカーも例外でなく、紅海経由航路を使えない分だけ他の航路にしわ寄せが及びました。例えば中東→欧州の製品需要は北回り(喜望峰経由南下後ジブラルタル海峡から欧州)か、代替として米国→欧州・アジア→欧州など別ルートで補完する必要が生じ、各方面の航路に負荷が分散しています (RE: Hafnia – ’24. | Finansavisen Forum) (RE: Hafnia – ’24. | Finansavisen Forum)。この結果、大西洋側の一部航路でも船舶待機や調整遅延が発生し、全体的な航行効率低下が市況を底上げしました。
次にパナマ運河の通航制限です。2023年はパナマ運河の水位低下(干ばつ)の影響で船舶通航枠が削減され、大規模な渋滞が発生しました。特に秋頃には待機船が数百隻に達し、一部のタンカーは待ち時間回避のため喜望峰回りや長大な南米南端回りを余儀なくされました。パナマ当局は2024年前半まで断続的に通航隻数や喫水制限を実施しており、運河通過には追加費用を伴うオークション枠確保が必要になるなど、船腹供給に制限がかかりました ( Americas clean tanker rates to stay volatile at elevated floor in Q2 as exports grow | S&P Global ) ( Americas clean tanker rates to stay volatile at elevated floor in Q2 as exports grow | S&P Global )。実際、米湾岸→チリのようなパナマ経由の航路では、2023年5月以降平均運賃が約280万ドル(ラウンド航海ベース)に達し、それ以前より高止まりしました ( Americas clean tanker rates to stay volatile at elevated floor in Q2 as exports grow | S&P Global ) ( Americas clean tanker rates to stay volatile at elevated floor in Q2 as exports grow | S&P Global )。2024年3月末にパナマ運河の1日あたり船枠は24隻から27隻に拡大されましたが ( Americas clean tanker rates to stay volatile at elevated floor in Q2 as exports grow | S&P Global )、依然として待ち時間や追加コストのプレミアムは残っています ( Americas clean tanker rates to stay volatile at elevated floor in Q2 as exports grow | S&P Global )。こうした運河制限は主に中小型タンカー(MRなど)のルート選択に影響し、一時的に運河経由の運賃プレミアムが市場で織り込まれる状況となりました ( Americas clean tanker rates to stay volatile at elevated floor in Q2 as exports grow | S&P Global )。船主側もこれを見越し、より有利な高運賃ルートに船を回す動きを取るため、結果として地域間バランスが崩れやすくなります ( Americas clean tanker rates to stay volatile at elevated floor in Q2 as exports grow | S&P Global ) ( Americas clean tanker rates to stay volatile at elevated floor in Q2 as exports grow | S&P Global )。
港湾の混雑も見逃せません。世界的な石油製品貿易の拡大で、一部の輸出入港では処理能力の限界から船舶の沖待ちが増加しました。例えば欧州の主要港(アントワープやロッテルダム等)では、受け入れるディーゼル船が急増した局面において荷役待ち時間が延び、タンカーの有効稼働船隊が減少する要因となりました。また、新興の輸入国となったアフリカ・中南米の港ではインフラ未整備ゆえに1隻あたりの滞在日数が長期化することもあります。港湾での滞留はそのまま船腹の需給ひっ迫につながり、スポット市況を押し上げます。
総じて、主要シーレーンの遮断・迂回や運河・港湾のボトルネックは、短期的にタンカー供給を減少させる効果を持ち、現在の用船料高騰を支える一因となっています。
短期的な需要急増要因(季節要因・供給不足など)
最後に、プロダクトタンカーの需要を突発的に押し上げる短期的要因について整理します。
- 季節要因による需要増: 石油製品需要は季節変動が大きく、それに伴い海上輸送需要も上下します。冬季には北半球で暖房油(灯油・軽油)の消費が増えるため、秋から初冬にかけて欧州や北アジアで在庫積み増しの輸入需要が高まります。特に寒波が予想される年は追加調達が増え、タンカー市況を押し上げる傾向があります。夏季にはガソリンの需要期(ドライブシーズン)となり、米国や欧州でガソリン在庫が不足すると、両岸間や中東・アジアからのガソリン輸送が活発化します。また夏は航空需要増によるジェット燃料輸送も増加します。例えば2023年夏、欧州では観光需要回復でジェット燃料消費が伸び、中東からのジェット燃料輸送が増えたことが報じられました(※実データは割愛)。このように季節的な需要ピークが局所的な船腹逼迫を招き、用船料を短期的に跳ね上げることがあります。
- 精製設備トラブル・計画外シャットダウン: 突発的な供給不足もタンカー需要を急増させます。大規模製油所がハリケーンや事故、ストライキなどで停止すると、その地域は即座に輸入に頼らざるを得なくなります。例えば2023年春、フランスでの製油所ストライキの際には周辺国からのガソリン・軽油輸送が急増し、短期間ながら欧州域内の運賃が上振れしました(報道あり)。他にも米国墨西哥湾岸でハリケーン被害が発生した際、ラテンアメリカ向け製品供給が滞り、代替として欧州やアジアから製品を調達する動きが出たことがあります。予期せぬ供給寸断はスポット船の緊急手配を招き、市況を押し上げる典型的な要因です。
- 在庫調整と思惑的需要: 石油製品価格が下落基調になると、消費国は在庫補充の好機と捉えて買い付けを増やす傾向があります。逆に価格高騰時には手控えるため、タンカー需要も価格動向に左右されます。昨今の高市況下では、一部トレーダーが運賃高騰を嫌って買付見送りをしていますが (Product tanker rates now so high some traders no longer moving cargoes, Gibson says | TradeWinds) (Product tanker rates now so high some traders no longer moving cargoes, Gibson says | TradeWinds)、例えば価格が一服すると一気に補充需要が出て短期的に船舶確保が殺到する可能性もあります。また投機的な浮動在庫(船上ストレージ)需要も、市況次第では発生します。2020年のように原油価格暴落時にはタンカーが海上貯蔵に使われましたが、製品でも価格が安い時期には洋上在庫として積み増し、価格上昇を待つ動きが稀にあります。この思惑的動きも短期的には船を拘束しうる要素です。
- その他の一時的要因: パナマ運河の渇水や運河事故、港湾ストライキ、サプライチェーンの混乱(例えばパンデミックによる労働力不足)なども一時的に物流を乱し、結果として需要の山谷を生むことがあります。最近ではないものの、2021年のスエズ運河座礁事故(Ever Given事件)の際には、運河閉鎖によって迂回輸送需要が一時的に増えました。現在のところ同様の大型事故は起きていませんが、物流インフラは常にタンカー市場への潜在リスク要因となっています。
以上のように、季節要因や予期せぬ供給不足は平時でも短期的にプロダクトタンカー需要を押し上げる要因であり、市況高騰に拍車をかけます。これらに地政学リスクや航路混雑が重なると複合的なショックとなり、足元のような急騰局面を引き起こすのです。
まとめ
足元でのプロダクトタンカー用船料の高騰は、ロシア制裁に伴う貿易ルート長距離化という構造変化の上に、紅海情勢など地政学リスクによる航路寸断や季節的・突発的な需要逼迫が重なった結果といえます。スポット市場は2022年以降歴史的好況となり、特に東西を結ぶ長距離航路で記録的な運賃が生じています (RE: Hafnia – ’24. | Finansavisen Forum) (RE: Hafnia – ’24. | Finansavisen Forum)。一方で、一部では需要減少要因も台頭しつつあり、地域・船型間で強弱が分かれる状況です (Viewpoint: European tanker rates meander into 2025 | Latest Market News) (Viewpoint: European tanker rates meander into 2025 | Latest Market News)。短期的には紅海リスクの行方や各国の在庫動向次第でさらなる変動も予想されます。もっとも、今後大量の新造船(2025年は前年の2倍近い約200隻のタンカーが納入予定 ( Global tanker freight to strengthen in 2025 on sanctions, offset by new ships | S&P Global ) ( Global tanker freight to strengthen in 2025 on sanctions, offset by new ships | S&P Global ))が控えるため、中長期的には供給面から上昇に歯止めがかかる可能性も指摘されています。
足元の急騰局面を正しく理解するには、以上のようなスポット市況トレンド、精製・貿易構造の変化、地政学リスク、物流上の制約、そして一時的な需要変動要因を総合的に捉える必要があります。現在の市況高騰は複数の要因が同時に作用した結果であり、いずれか一つの緩和(例えば紅海の安定化や季節要因の一巡)で多少の沈静化は見込めるものの、基調としては高止まりが続くと見られています (RE: Hafnia – ’24. | Finansavisen Forum) (Viewpoint: European tanker rates meander into 2025 | Latest Market News)。業界各社は引き続き情勢を注視しながら、運賃動向に対応していくことが求められるでしょう。
参考資料: 最新の業界ニュースやマーケットレポートより (RE: Hafnia – ’24. | Finansavisen Forum) (Product tanker rates now so high some traders no longer moving cargoes, Gibson says | TradeWinds) (Red Sea insurance rates to stay firm as US airstrikes raise fears for ships | Reuters) (プロダクト船社、市況高騰 業績急回復、4―6月期、ハフニア最高益|日本海事新聞 電子版)ほか。
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