主張(定立)
米国債は、米ドル資産としての流動性の高さや制度的安定性、さらに他国に比べて有利な金利環境によって、今後も安全資産の地位を維持する。また、金への資金流入は短期的なリスク回避行動に過ぎず、根本的には米ドル建て資産への信頼が揺らぐことはない。
反対命題(反定立)
しかし、この主張には異論がある。まず、米国の巨額かつ構造的な財政赤字、そして度重なる債務上限問題や政治的分断は、米国債の安全性に対する信頼を徐々に浸食している。格付機関による格下げや投資家の米国債離れが進行する中、米国債の「絶対的な安全性」は徐々に相対化されつつある。
一方、金への資金流入を単なる一時的な現象と見るのは楽観的に過ぎる。近年の世界的な地政学リスクの高まりや各国による「脱ドル化」政策は、金をはじめとする中立的な資産への構造的な資金シフトを促している。特に各国中央銀行による金保有の急速な増加は、中長期的な安全資産分散の一環として位置づけられるべきものであり、一時的な逃避行動にとどまらない。
統合(総合)
これらを統合的に捉えると、米国債は依然として安全資産として重要な地位を占めているものの、かつてのような圧倒的な安定性を前提とした絶対的な地位は揺らぎつつある。世界の投資家は、米国債への過度な依存を避けるため、金を含めた多様な資産へのリスク分散を進めている。この動きは一過性ではなく、米国経済の相対的地位低下と世界経済の多極化という長期トレンドを反映しており、安全資産としての米国債と金が並存する多元的な秩序への移行が進んでいると言える。
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