2025年現在の米国の同盟国と戦略的パートナー(地域別)

米国は現在、世界各地で50か国以上と公式な軍事同盟(防衛条約)を結んでおり、地図の赤い部分がその条約上の同盟国を示しています。以下に、こうした同盟国および主要な戦略パートナーを地域別に整理し、それぞれの関係の概要を説明します。

北米(北アメリカ)

  • カナダ:米国にとって最も緊密な隣国同盟国です。1949年から共にNATO(北大西洋条約機構)の創設メンバーであり、相互防衛義務を共有しています。また米加両国は北米航空宇宙防衛司令部(NORAD)を通じて北米大陸の防空を共同で担い、情報共有(ファイブ・アイズ)など安全保障面で密接に協力しています。
  • メキシコ:米国とは地理的・経済的に密接なパートナーですが、公式な軍事同盟条約はありません。かつては米州相互援助条約(リオ条約)の加盟国でしたが現在は脱退しており、同盟義務は負っていません。それでも麻薬対策や国境警備など安全保障面での協力関係は深く、地域の戦略的パートナーと言えます。

中南米(中南米・カリブ海)

  • 米州相互援助条約(リオ条約):1947年締結の地域防衛条約で、中南米の多くの国(アルゼンチン、ブラジル、コロンビア、チリなど)と米国が集団防衛を約束しています。冷戦期に共産主義の脅威に対処する目的で結ばれました。しかし近年この条約は形骸化しており、発動例も少ないため、実際の軍事協力は限定的です。
  • 主要な中南米パートナー:中南米には正式な二国間軍事同盟はありませんが、アルゼンチン、ブラジル、コロンビアなどはいずれも米国によって「主要非NATO同盟国」(Major Non-NATO Ally)に指定され、防衛協力関係が強化されています。例えばブラジルやコロンビアは米軍との合同演習や装備協力を行い、地域の治安維持や麻薬取締においても米国と連携しています。これらの国々は米国の戦略的利益を共有する実質的な同盟的パートナーです。

欧州(ヨーロッパ)

  • NATO同盟国:欧州の米国同盟国の中心はNATOに加盟するヨーロッパ諸国です。NATOは「集団的自衛」を定めた軍事同盟(1949年発足)で、米国・カナダに加え、イギリス、フランス、ドイツ、イタリアなど西欧からポーランド、バルト三国、トルコに至るまで現在31か国(2023年にフィンランド加盟。スウェーデンも加盟目前)の加盟国があります。これら欧州諸国はロシアなどからの侵略に対し**相互防衛義務(NATO条約第5条)**を負っており、米軍は欧州各地に駐留して安全保障を担っています。
  • イギリス(イングランド):イギリスは米国と「特殊な関係(Special Relationship)」と称される特別な同盟関係にあります。NATOの主要国であるだけでなく、ファイブ・アイズという英語圏5か国の情報同盟の一員でもあり、核兵器の開発・運用や軍事作戦でも米国と緊密に協力しています。例えば両国は中東やアフガニスタンで共に軍事行動をとり、また最新のAUKUSパートナーシップにも参加するなど、軍事・諜報のあらゆる面で深い協働関係にあります。
  • その他の欧州主要同盟国フランスドイツなど西ヨーロッパの大国も米国と強固な同盟関係を築いています。フランスはNATO統合軍から一時離脱していた時期もありましたが、現在は軍事構想上の要として米国と連携し、欧州の治安維持や対テロ作戦に協力しています。ドイツも在欧米軍の中核的駐留国であり、経済力と合わせ米欧同盟の柱です。また**ポーランドやバルト三国(エストニア、ラトビア、リトアニア)**はロシアと接する最前線の同盟国として米軍の増強支援を受けており、ミサイル防衛システムの配備など安全保障面で特に緊密な協力が行われています。

アジア太平洋(インド太平洋地域)

  • 日本:米国にとって東アジアで最重要の同盟国です。日米安全保障条約(1960年改定)に基づき、米国は日本の防衛義務を負い、約5万人の在日米軍が日本各地に駐留しています。日本は米軍基地を提供し、日米は北朝鮮の脅威や中国の台頭に対し共同で抑止力を維持しています。また経済・技術面でも密接な協力関係にあり、インド太平洋地域の平和と安定の礎となる同盟の要です。
  • 大韓民国(韓国):韓国もまた1953年の米韓相互防衛条約により米国と軍事同盟を結んでいます。朝鮮戦争の休戦後、在韓米軍が駐留して韓国の安全を保証し、北朝鮮からの攻撃に備えた共同防衛体制(合同軍事演習やミサイル防衛協力など)が築かれています。米韓同盟は東アジアの安全保障の柱であり、近年は対北朝鮮だけでなくインド太平洋全域での安全保障協力(例えば韓国の軍備増強や地域海洋安全保障での連携)へと発展しています。
  • オーストラリア&ニュージーランド:オーストラリアは米国の主要同盟国の一つで、1951年に締結されたANZUS条約(太平洋安全保障条約)で結ばれています。以降、ベトナム戦争から中東まで米軍とともに戦闘に参加し、緊密な軍事協力を続けています。最近では米英との新たな安全保障枠組みAUKUSにも加わり、原子力潜水艦技術の共有など先端軍事分野で米国との協調を深めています。ニュージーランドもANZUSの一員でしたが、1980年代に核政策を巡って同盟関係が一時緩みました。それでも現在ではファイブ・アイズのメンバーとして米国と情報面で協力し、太平洋地域の平和維持活動などで協調する実質的な同盟パートナーです。
  • フィリピン&タイ:東南アジアでの米国の公式同盟国です。フィリピンは1951年の米比相互防衛条約で結ばれ、冷戦期は米軍基地が置かれていました(一時撤退しましたが、近年は南シナ海での中国の動きに対抗するため米軍の輪番駐留が再開しています)。米比は領有権問題やテロ対策でも協力し、フィリピンは再び米国の重要な地域同盟国となっています。一方、タイは1954年の東南アジア集団防衛条約(SEATO)の盟主的存在で、冷戦期に米軍と協力してインドシナ半島での共産主義拡大を防ぎました。現在SEATOは消滅しましたが、米タイ両国は引き続き1950年代以来の同盟関係を維持し、タイは「主要非NATO同盟国」に指定されています。両国は毎年大規模軍事演習(コブラ・ゴールド演習)を共催するなど、防衛協力を続けています。
  • インド:インドは正式な同盟条約こそありませんが、近年著しく関係を深めた戦略的パートナーです。米国はインド太平洋戦略の一環としてインドとの防衛協力を拡大し、日米豪との**「クアッド」(四カ国戦略対話)**にインドを迎え入れて安全保障対話を行っています。インドと米国は海上合同演習(マラバール演習への米参加)や防衛装備の取引(米国からインドへの最新兵器供与)を通じ、中国の海洋進出や地域不安定要因に対抗する連携を強めています。インドは伝統的に非同盟を掲げてきましたが、米国からは「主要防衛パートナー」と位置付けられ、実質的な準同盟関係に近づきつつあります。
  • クアッド(Quad):正式名称を「日米豪印戦略対話」とする枠組みで、米国、日本、オーストラリア、インドの4か国から成ります。これは2000年代後半から協議が始まり、2017年以降本格化した戦略的パートナーシップで、海洋安全保障やインフラ支援、災害救助など幅広い分野で協力しています。クアッド自体は軍事同盟ではありませんが、四国は定期的な首脳会談や共同軍事演習を通じてインド太平洋地域の安定と「自由で開かれたインド太平洋」の実現に向けた結束を示しています。
  • AUKUS:2021年に発足した米英豪の3か国安全保障パートナーシップです。メンバーは米国、イギリス、オーストラリアで、オーストラリア海軍への原子力潜水艦の供与・建造協力やAI・サイバー分野での軍事技術共有など、次世代の防衛力強化を目的としています。AUKUSは中国の軍事力増強やインド太平洋での影響力拡大に対応するための枠組みとして位置付けられ、米国の同盟ネットワークを強化する新たな取り組みです。
  • 台湾(中華民国):台湾は米国と正式な軍事同盟条約はありませんが、極めて重要な事実上の同盟パートナーです。米国は1979年の台湾関係法に基づき、台湾の防衛に必要な軍事的支援を提供することを約束しており、中国からの武力攻撃に対して台湾を支援する姿勢を示しています。1954年の米華相互防衛条約(台湾との条約)は米中国交樹立時に失効しましたが、その後も米台関係は非公式ながら緊密で、米国は先進兵器の供与や訓練を通じ台湾の自衛力強化を支援しています。台湾有事は米国の安全保障上の重大な関心事であり、公式な条約はなくとも戦略的パートナーシップの様相を呈しています。

中東(中東地域)

  • イスラエル:イスラエルは中東における米国の最も緊密な同盟的パートナーです。正式な防衛条約は存在しませんが、米国は事実上イスラエルの安全保障を保証しており、毎年巨額の軍事援助を提供しています。両国は強固な軍事協力関係(ミサイル防衛の共同開発「アロー計画」など)にあり、イスラエルの主要な脅威であるイランやテロ組織に対して戦略を共有しています。またイスラエルは米国にとって民主主義を基盤とする地域唯一の親密盟友であり、政治・経済面も含め特別な関係にあります。
  • サウジアラビア:サウジは湾岸地域での米国の重要な安全保障パートナーです。相互防衛条約はありませんが、1945年以来の伝統的な協力関係があり、冷戦期には石油供給と引き換えに米国がサウジの安全保障を支えるという暗黙の了解が形成されました。米軍は1991年の湾岸戦争でサウジ領土を防衛し、それ以降もサウジに軍事顧問団や防空ミサイルを派遣しています。サウジも米国から大量の最新兵器を購入しており、イランの影響力拡大を抑止する点で利害を共有する戦略的同盟関係にあります。ただし近年は人権問題や地域政策で摩擦もあり、関係の微調整が続いています。
  • 湾岸アラブ諸国:ペルシャ湾岸のその他のアラブ君主国も米国と密接な安全保障関係にあります。アラブ首長国連邦(UAE)、カタール、バーレーン、クウェートなどは米国から「主要非NATO同盟国」に指定され、米軍基地の受け入れや防衛装備品の供与を通じて協力しています。例えばカタールはアルウデイド空軍基地を提供し米中央軍の地域拠点となっています。バーレーンも第5艦隊の基地を抱え、UAEとクウェートも米国と防衛協定を結んでいます。これら湾岸諸国はイランや過激派への対抗上、米国の軍事プレゼンスに依存しており、事実上の同盟ネットワークを形成しています(湾岸協力会議(GCC)と米国との安保対話を含む)。
  • エジプト&ヨルダン:両国とも米国の中東政策における中核的パートナーです。エジプトは1979年のイスラエルとの平和条約(キャンプ・デービッド合意)以降、米国から大量の軍事援助を受け取ってきました。公式な相互防衛条約はありませんが、エジプト軍は米国製兵器で装備され、合同演習(ブライトスター演習)も定期的に行われています。ヨルダンも1994年にイスラエルと平和条約を締結し、以降米国の「主要非NATO同盟国」として多大な支援を受けています。ヨルダンは過激派組織との戦いで米軍と協力し、シリアやイラク情勢の安定化にも寄与しています。両国とも中東和平やテロ対策の面で米国と戦略目標を共有し、地域の安定に欠かせない同盟的関係を築いています。

アフリカ

  • 北アフリカ諸国:アフリカ大陸には米国と正式な防衛条約を結ぶ同盟国は存在しませんが、一部の国々とは強い軍事協力関係にあります。例えばモロッコチュニジアは米国から「主要非NATO同盟国」に指定されており、対テロ作戦の協力や軍事訓練・装備支援を通じて安全保障面で提携しています。モロッコはアフリカにおける米軍の演習(「アフリカン・ライオン」演習など)のホスト国となり、チュニジアも北アフリカのテロ脅威への対処で米国の支援を受けています。
  • サブサハラ・アフリカ:サハラ以南のアフリカでも、いくつかの国が米国の戦略パートナーとして位置付けられています。最近ではケニアがその一例で、2024年に米国はケニアを主要非NATO同盟国に指定しました。これはケニアがソマリア情勢の安定化や国連平和維持活動で主導的役割を果たしていることを評価したものです。米国は他にもアフリカ連合(AU)や地域機構を通じてアフリカの平和維持に貢献しており、正式な軍事同盟は無いものの各国と軍事支援・情報共有を行うことで、実質的な安全保障パートナーシップを展開しています。

要約

2025年時点の米国の同盟国と主要な戦略的パートナーの要約は以下の通り。

北米

  • カナダ:NATO加盟国。米国と緊密な防衛協力(NORAD、ファイブ・アイズ)。
  • メキシコ:正式同盟なしだが、戦略的協力あり。

中南米

  • 米州相互援助条約(リオ条約)加盟国:ブラジル、アルゼンチン、コロンビアなど。冷戦期以降、協力は限定的。
  • 主要非NATO同盟国:ブラジル、コロンビアなどが実質的パートナー。

欧州

  • NATO同盟国:英・仏・独・ポーランド・バルト三国など31カ国。
  • イギリス:米英特別関係、AUKUS参加、ファイブ・アイズ。
  • フランス・ドイツ:NATOを通じ米国と協調、防衛協力。

アジア太平洋

  • 日本:日米安保条約、米軍駐留。
  • 韓国:米韓相互防衛条約、米軍駐留。
  • オーストラリア・ニュージーランド:ANZUS条約(豪はAUKUS参加)。
  • フィリピン・タイ:正式な防衛条約あり。
  • インド:公式同盟なしだが、クアッドを通じて緊密な戦略的協力。
  • 台湾:条約なしだが、実質的に防衛協力を行うパートナー。

中東

  • イスラエル:条約はないが最も緊密な実質的パートナー。
  • サウジアラビア・湾岸諸国(UAE・カタールなど):米軍駐留や軍事協力に基づく実質的同盟関係。
  • エジプト・ヨルダン:「主要非NATO同盟国」として対テロ協力。

アフリカ

  • 正式な軍事同盟はないが、モロッコ、チュニジア、ケニアなど「主要非NATO同盟国」として防衛協力あり。

以上、米国は世界各地に幅広い軍事的・戦略的ネットワークを構築し、安全保障の要としています。

コメント

タイトルとURLをコピーしました