米国FRB議長の交代見通し
- 現在パウエル議長の任期は2026年5月まで。政権交代に伴い新議長選定が予定され、報道では米財務長官スコット・ベッセント氏や元連銀理事ケビン・ウォーシュ氏らが名前に挙がっている。米トランプ政権下では「早めに後任を決定する」との動きもみられ、2025年秋以降に候補者面接、2026年春までに新議長就任の公算が大きい。
- パウエル氏自身は「残留よりも2029年まで財務長官を務めたい」と述べており、トランプ氏の支持を集める財務長官ポストに留まる意向と伝えられている。したがって後任には現政権幹部からの抜擢が予想される。
財政赤字とインフレ政策
- 米国の財政赤字は2025年にGDP比約6%(約1.9兆ドル)に達するとCBOが予測しており、公債発行残高は2025年末でGDP比約98%、2035年に118%まで増加する見通しである。社会保障・医療など義務的支出の増大に加え、2025年に期限切れとなる法人税減税措置を延長すれば、さらに債務負担が膨らむ。
- 政府は巨額の赤字を補填するため歳出削減や増税による財政再建が不可避だが、いずれも政治的に困難であるため、「インフレ容認」という議論も浮上している。インフレが実際より高止まりすれば債務の実質負担が軽減されるからで、専門家の間では「政治的に最も容易な解決策は故意にインフレ率を高めることかもしれない」と指摘される。一方、中央銀行はインフレ目標の2%超過を許容すれば信認を損なうリスクを警戒しており、当局がインフレを容認する可能性は高くないと見られる。財政規律の緩みが続くと、信用不安が高まり利回り上昇圧力になるとの見方が広がっている。
マクロ経済動向とFRB政策
- インフレ率: 2025年春の米消費者物価指数(CPI)は前年同月比で約2.3–2.5%と、ピークから大幅に低下し、FRBの目標付近で推移している。根強い要因として関税政策やエネルギー価格の変動があり、今後も2%前後で安定するとの予想が多い。
- 経済成長率: 2025年第1四半期の実質GDPは前期比年率▲0.3%と縮小した(輸入急増の一時的影響)。しかし個人消費は依然底堅く、企業設備投資も増加しており、貿易摩擦の剥落後に反発が期待される。年率成長は高値圏(2-3%台)から緩やかに鈍化し、2025年中でも1-2%程度で推移すると見られる。
- 雇用動向: 失業率は4.1–4.2%前後で横ばい。2025年前半は月間10万~20万件程度の雇用増が続いており、労働需給は引き続き逼迫している。賃金上昇率は年間約4%弱で、高止まりしている。輸入関税や財政支出削減などの不確実性は企業の採用意欲を低下させつつあり、労働市場にも徐々に影響が出始めている。
- FRB金融政策: 2024年末に政策金利を5.25–5.50%から4.25–4.50%に引き下げた後、2025年半ばも4.25–4.50%で維持する見込み。インフレの落ち着きと景気減速懸念から、年後半には追加利下げが想定されている。市場では2025年9月以降に0.25ポイントの利下げ開始、年末までに計2回程度の利下げを見込む動きがある。一方、物価・雇用動向次第では利下げ幅やタイミングが前倒し・後ろ倒しになる可能性もある。
米国債市場への影響
- 信用リスク: ムーディーズが2025年5月に米国格付けを最高位「Aaa」から一段階下げて「Aa1」とした。背景には累積債務の膨張と財政の持続性への懸念があり、財政赤字への警戒感が高まっている。フィッチ、S&Pは現在もAAA同等の評価だが、下振れリスクを注視している。
- 需給構造: 2025年には財政赤字の穴埋めで数百億ドル規模の長期債入札が続く。短期(1–5年)の国債には依然として強い需要があり、外国中央銀行や機関投資家が買い支えている。しかし、20年債や30年債など長期ゾーンでは需給不均衡への懸念から利回り上昇圧力が強い。実際、2025年春の米国債入札では長期債の落札利回りが上昇し、入札物準備倍率も過去最低水準に落ちた。財政懸念により「債券ビジランテ(債券市場の監視役)」的な動きも見られ、長期金利は新高値圏(10年債4.6%、20年債5.1%超)で推移している。
- 中期見通し: 政府債の大量発行を受け、長期金利は今後も高止まり傾向にあると見られる。外国人投資家は短期債でリスク回避的なポートフォリオ運用を続ける一方、長期債は利回りが魅力的になるまで回帰投資を控える可能性が高い。財政規律が取れない限り、米国債利回りは底値を切り上げるリスクがある。
為替・株式・インフレ資産への影響(短期~中期6か月~2年)
- ドル為替相場: 米経済が相対的に安定し、FRBが早期に利下げする見通しが強まればドル安要因となる。一方、米中貿易摩擦や地政学リスクで「危険回避」局面になると安全資産としてドルが買われやすい。2025年春の動向では、貿易戦争の緊張で株安・金利低下とともにドルはやや買われる展開だった。中期的には米金利の先行きや財政リスクが主要因となり、ドルの強弱が左右される見込み。
- 株式市場(S&P500、NASDAQ等): 2025年は米株価は基本的に上値が重い見通しだ。利下げ予想や企業業績見通しが支えとなる一方、逆風も大きい。特に貿易摩擦による企業収益への懸念、財政赤字拡大に伴う長期金利上昇や税制変更リスクは重しだ。市場のモメンタムは不安定で、上値は2024年高値に届かず、下値では支持線(たとえばS&P500 ~4,000ポイントなど)で買いが入る可能性が高い。短期的には不確実性で乱高下しやすく、安定化には政策リスクの剥落が必要となる。年後半から2026年にかけては利下げによる資金流入や企業決算の好調が追い風となる可能性がある。
- インフレ・安全資産(ゴールド、ビットコイン): ゴールドはリスク要因の高まりとインフレヘッジ需要で強含みが予想される。2025年時点で既に史上最高値圏($3,300超)で取引されており、JPモルガンなど大手機関も2025年末で$3,675、2026年初に$4,000超との見通しを示すほど強気である。インフレや中央銀行需要が高止まるシナリオではさらに上昇余地がある。一方、ビットコインは伝統的に「デジタルゴールド」と称されるものの、近年は株式市場との連動性が強まっている。市場ショック時には株・ビットコイン共に売られやすいため、リスク資産としての側面が大きい。今後も金同様に流動性拡大やインフレ期待がビットコイン価格を押し上げる可能性はあるが、相場変動は極めて大きく、規制や投資家心理にも左右されやすい。短中期的には、インフレ不安と地政学的緊張でまず金が買われ、ビットコインはリスク許容度次第で上振れか急落の二極化が想定される。
主要な示唆
- FRB交代と金融政策: 2026年春までに次期議長が決まり、当面は金融緩和に傾く可能性が高い。パウエル体制からの急激な変更は予想されず、インフレ動向次第で大きく変わる。利下げが予想されれば株高・債券安・ドル安圧力となる。
- 財政持続性: 現状の財政拡大は長期金利上昇と国債市場の不安定要因となっており、抜本的な財政健全化なしに信用リスクは徐々に高まる。債券投資家は中長期債回避姿勢を示し、国債利回りはベースラインで上昇トレンドが続く公算大。
- マクロ経済: 成長・雇用は底堅さを保つがピークは越え、物価は緩やかに低下する予想。FRBは「安定物価・完全雇用」のバランスを見ながら徐々に金融緩和に動く見込み。景気悪化懸念が高まらなければ、緩やかな成長が続くと見られる。
- 市場影響(6か月~2年): 短期的には貿易・政策リスクで市場はボラティリティ高い状況が続く。中長期では、金融緩和予想により株式への追い風と金利低下期待が出る一方、財政赤字の問題で長期金利の底入れは遅れる可能性がある。ゴールドは上昇余地が大きく、米ドルは世界経済情勢や米金利見通し次第で変動。ビットコインはリスク資産色が強まるため、投資スタンスは慎重にすべきである。総合すると、米国市場は引き続き財政・政策・貿易の3大リスクに左右されつつ、FRBと政府の動向を睨みながら推移すると予想される。
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