米国株式市場(S&P500)の展望(2025年夏~秋)

正:強気要因

  • インフレ沈静化と金融緩和期待
    2024年末以降、米国のインフレ率は緩やかに低下傾向にあり、FRBは2025年6月時点で政策金利の据え置きを続けています。市場では早ければ夏~秋に利下げ開始との見通しも台頭しており(例:市場は2025年7月頃に0.25%利下げ2回を織り込む)、実質金利の低下が予想されます。また、強い雇用統計や企業業績に支えられ、景気が「頑丈」だとみなされているため、株式市場への追い風となる可能性があります。
  • 企業の自社株買いの拡大
    2025年前半、S&P500企業は歴史的な規模の自社株買いを承認・実施しています。6月上旬までに約7,500億ドル超の買戻し権限が認められ、2025年第1四半期だけで約2,830億ドルが実行されました(前年同期比+約27%)。買戻しは株価の下支えとなり、需給ギャップを埋める効果が期待されます。資金余裕がある大手ハイテク企業や金融機関を中心に買い圧力が強まりやすく、市場心理を改善させる要因です。
  • 投資家ポジションの調整余地
    米国株への投資家姿勢は2025年前半に極端に慎重になりました。5月のBofAファンドマネージャー調査では、米国株式の保有を大幅にアンダーウェイトしている割合が歴史的高水準(約38%アンダーウェイト)に達しています。これは市場全体として「売り持ち」が膨らんでいることを示し、逆説的に買い戻し余力を残す結果とも解釈できます。市場参加者がすでに警戒姿勢を強めた状況では、ポジション調整が一巡すれば急速な押し目買いが入る可能性があります。
  • テクニカル面の強さ
    2025年5月までの株価回復により、S&P500は3月の調整前高値近辺(約6,000ポイント)まで回復しています。株価は短期上昇トレンドを維持しており、テクニカル指標も割高圏に入るものの、収益加速に支えられた上昇モメンタムを示しています。また、5月の雇用統計など堅調な経済指標も強気材料となっており、短期的には上値を追いやすい環境といえます。

反:弱気要因

  • 中東・地政学リスクによるエネルギー価格上昇
    地政学的緊張、特に中東情勢の悪化は原油価格を押し上げるリスクがあります。例えばイスラエルとイランの対立激化や紅海の海上交通障害といった事象が起きれば、主要産油国からの供給不安が増大し、WTI原油価格が急騰する可能性があります。原油価格上昇は世界景気に逆風となり、米国ではガソリン・生活コストの増加から消費を冷え込ませる要因となり得ます。2025年通年のオイル価格見通しは比較的落ち着いていますが(ブレント平均約67ドル、WTI約63ドル)、突発的な供給リスクは先行き不透明要素です。
  • オプション市場のボラティリティ
    2025年4月にトランプ政権の新関税発表でVIX(恐怖指数)が急騰し、その後関税の一時棚上げで急速に低下しました。不安定な政策環境下ではこうした「急騰・急落」が断続的に発生しやすく、オプション・ボラティリティの高止まりにつながります。オプションマーケットでは、高い行使価格のコール購入やプット・オプション買いが積み上がり、ギリシャ指標(ガンマ、シータなど)の非線形リスクも増大しています。夏場以降、関税再開のリスク(トランプ関税が7月にも再開見込み)や追加関税検討などが台頭すれば、再びVIXが上昇しやすく、市場の急変動を引き起こす恐れがあります。
  • 米中・貿易摩擦の再燃
    トランプ政権の関税政策は依然として不透明です。一部関税の一時凍結により投資家心理は一時改善しましたが、根本的な米中・国際貿易摩擦が解決したわけではありません。追加関税や報復策の再燃は企業収益を圧迫し、不確実性を拡大させます。特に7月以降の対中国関税再開、EUへのデジタルサービス課税への対応など、不測の事態が市場に影響を及ぼすリスクが残ります。
  • バリュエーションとレバレッジ懸念
    S&P500は2024年まで大幅上昇しましたが、成長銘柄を中心としたバリュエーションは高水準にあります。PER(株価収益率)はコロナ前の平均を上回り、特にハイテク・成長株の集中度が高いことがリスクです。さらに、2025年初頭まで増加していた証券担保貸借(マージン債務)は少し後退したものの、まだ高水準にあります。レバレッジの縮小が続けば、急落局面で追加売りが出やすく、市場全体の下振れを加速しかねません。
  • 潜在的な景気減速
    2025年下期にかけては、米国経済の成長率鈍化も警戒点です。賃金上昇や雇用堅調にもかかわらず、高金利と政策の不確実性は企業・消費者心理を冷やしています。住宅市場は依然低調で(JPモルガン予測で2025年も緩慢成長)、米中など海外成長の鈍化は輸出にも影響します。こうしたサインは景気後退への警戒感をくすぐり、予想外に連邦準備制度が利上げ再開を検討するような事態が起きれば株価下落要因となります。

合:2025年夏~秋の中期展望

正・反両面を踏まえると、2025年夏~秋のS&P500は上下どちらにも振れやすいレンジ相場の展開が想定されます。一方で緩和的金融政策や企業収益の下支えが追い風となり、6,000ポイント近辺から年末にかけ上昇余地を試す可能性があります。複数のアナリストは年末に向け6,500ポイント超を想定しており、夏場にかけて6,200~6,300ポイント程度までの上値トライも視野に入りそうです。他方、地政学リスクや政策不透明性が表面化すると、5,800ポイント前後までの押し目も想定されます。したがって、「約5,800~6,500ポイント」のレンジ内での上下動と見なすのが現実的でしょう。

投資戦略としては、強気要因を評価しつつリスク管理を徹底することが重要です。具体的には:

  • 上昇トレンドを利用して質の高い成長株(テクノロジー、大型グロース)や景気敏感株(金融、エネルギーなど)を押し目買いしつつも、バリュー株やディフェンシブ銘柄でヘッジをかける。
  • ボラティリティの高まりに備え、オプション取引によるカバード・コールやプットの購入などで下値リスクを抑制する。
  • 買い一辺倒ではなく、予想を超える悪材料が出た場合には売りポジションや一時的な現金比率の引き上げで対応する(「守りと攻めのバランス」)。
  • 不安定要因(関税・地政学・金利動向)に応じて柔軟にポートフォリオをリバランスし、短期~中期のテクニカル変化に注意を払う。

総じて、2025年夏以降の米株市場は底堅さと警戒感が混在する局面になると考えられます。強気材料が優勢な場合は年後半に向けて高値追いの展開も期待できる一方で、想定外の事件やデータ悪化で下振れリスクが常に存在します。投資家は目先の好材料に過度に飛びつくのではなく、ボラティリティを活用した利食い・損切り戦略を駆使しながら、市場レンジを射程に入れた慎重かつ柔軟な運用が求められます。

要約

2025年夏~秋のS&P500は、インフレ鎮静化や企業買い支えなど強気要因に支えられつつも、地政学リスクや政策不透明性で不安定な展開が予想されます。株価レンジはおおむね5,800~6,500ポイント程度とみられ、上昇余地がある一方で急落リスクにも注意が必要です。したがって、成長株を中心に押し目で買いを狙いつつ、ヘッジやポジション縮小で下振れに備える「守りと攻めの両立」を図るのが中期的な基本戦略となるでしょう。

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