金の外貨準備比率低下と米ドル中心の巨大な外貨準備構造

歴史的に見ると、金の外貨準備比率が低下した背景には、「米ドルを中心とする外貨準備の急激な増加」がある。

確かに、1970年代以降、一部の西側諸国は市場で保有金を売却し、IMFも金を放出したが、世界全体の中央銀行は基本的に金保有を維持しており、金準備総量は大幅には減少していない。一方で、1990年代以降、新興国の経済成長に伴う輸出拡大と資本市場のグローバル化によって、米ドル建て資産などの蓄積が進み、外貨準備が爆発的に増加したため、相対的に金比率は大きく低下したのである。

また、外貨準備の急増を促した重要な動機として、通貨危機の経験とその反省がある。1997年のアジア通貨危機や2008年の世界金融危機では、十分な外貨準備を持たない国々が通貨防衛に失敗し、深刻な経済混乱を経験した。こうした痛みから、多くの新興国はIMFなど外部支援に依存する脆弱性を減らすため、自ら大量の外貨準備を蓄えるという防衛的な戦略を採用した。また、金融のグローバル化が資本の急激な流入・流出を招く状況下では、通貨の安定維持と危機への備えとして大規模な外貨準備の必要性が高まったのである。

よって、「輸出拡大を背景とする積極的な外貨準備蓄積」と「通貨危機への備えとしての防衛的な外貨準備蓄積」は互いに補強し合い、その結果として世界全体の外貨準備は前例のない規模にまで拡大した。そして、この急激な外貨準備の増大が、相対的な金比率の低下をさらに顕著にしたと言える。つまり、「金中心の準備制度」が、「金融危機への備えとしての外貨準備拡大」によって揺さぶられ、その結果「米ドル中心の巨大な外貨準備構造」が生まれたのである。この構造の下では、中央銀行の外貨準備に占める金の割合は大幅に低下することが歴史的必然となったのである。

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