2025年時点における世界の金需要:用途別内訳と動向

はじめに: 世界全体で見た金(ゴールド)の需要は、主に「宝飾品」「投資」「工業・電子機器用途」「中央銀行(外貨準備)」の4分野に大別されます。2024年の年間総需要は約4,974トン(過去最高)に達しており、以下のような用途別内訳となっています(残りは店頭取引などのその他需要):

  • 宝飾品需要:40%(約2,003トン)
  • 投資需要:24%(約1,180トン)
  • 工業用途:7%(約326トン)
  • 中央銀行の購入:21%(約1,045トン)
  • その他(OTC取引など):8%(約421トン)

以下では、それぞれの用途分野ごとに詳しい動向や地域ごとの特徴を解説します。

宝飾品需要(約40%)

金需要の中で最大の割合を占めるのが宝飾品向け需要です。2024年の宝飾品需要は約2,003トンとなり、前年(2,190トン)から約11%減少しました。金価格の高騰により消費者の購買量が抑えられたことが主因で、数量ベースではコロナ禍の2020年を除けば2009年以来の低水準となりました。ただし金価格上昇の影響で、金額ベースの宝飾市場規模は過去最高(約1,440億ドル)に達しています。

地域別の動向: 最大の宝飾品市場であるアジアで需要減少が顕著でした。特に中国本土の宝飾品消費は前年比約24%も落ち込み(約479トンに減少)、高金価格や経済減速で需要が大きく冷え込みました。一方、インドの宝飾品需要は約563トンと前年比わずか2%減に留まり、中国を抜いて世界最大の金宝飾品市場となりました。インドでは伝統的に結婚や祭礼での金装飾品需要が根強く、高騰する価格下でも比較的堅調さを維持しました(備考: 2024年7月にインド政府が金輸入関税を引き下げたことも需要下支え要因となりました)。中東やトルコなど他地域でも、インド人観光客の購買行動の変化や各国の経済状況によって宝飾需要に強弱が見られています。

投資需要(約24%)

投資目的での金需要は、金地金(バー)や金貨、金ETF(上場投資信託)などへの資金流入を指し、総需要の約4分の1を占めます。2024年の投資需要量は約1,179トンとなり、前年から約25%増加しました。特に年後半にかけて景気後退懸念や地政学リスクの高まりを背景に、安全資産として金への投資が増えたことが要因です。世界的な金価格上昇や主要国の金利政策転換(利下げ観測)は、投資家が再び金に注目する追い風となりました。

内容の内訳とトレンド: 投資需要を構成するうち、現物投資であるバー(地金)とコイン(金貨・メダル)の需要は合計で約1,186トンと前年並みでした。ただし内訳に変化があり、金地金バーの購入量が増加する一方、公式金貨の購入量は減少する傾向が見られました。地域別では、中国やインドで個人の金地金・金貨購入が前年より大きく伸び(インド+29%、中国+20%など)、これが米国や欧州での投資用金貨需要減少を補いました。また間接投資に分類される金ETFは、2024年は年間ではほぼ純変動ゼロ(微減に留まる)となりました。年初は金ETFから資金流出が続いていましたが、年後半に米国市場を中心に資金が再流入し、前年まで続いた大幅流出トレンドが転換しました。総じて、有事の避難先・インフレヘッジとしての金投資需要が足元で強含んでおり、金価格や金融環境に敏感に反応する状況が続いています。

工業用途需要(約7%)

金の工業用途(テクノロジー需要)は、電子機器分野を中心に年間約300トン台の需要があり、総需要の1割弱を占めます。2024年の工業用途による金需要は約326トンとなり、前年から約7%増加しました。電気伝導性や耐久性に優れる金は、電子部品(半導体やプリント基板の接点・配線など)に不可欠な素材であり、また他の工業用途(化学触媒や装飾メッキ)や歯科医療にも一部使われます。2024年は世界的なAI・データセンター需要の拡大に伴い高性能サーバー向け部品での金使用が増えたほか、スマートフォンやPCなど民生用電子機器の市場も前年の低迷から若干持ち直し、電子分野での金使用量が約9%伸びました。一方で歯科材料としての金使用は代替素材の普及で年々減少傾向(2024年は約9トン)にあり、他の工業用途も高価格を背景に微減傾向です。総じて、工業用途の金需要は技術トレンドに左右されるものの、中長期的には電子産業の成長と素材の効率化(薄膜化による使用量削減)との綱引きで、緩やかな増減にとどまっています。

中央銀行の純購入(約21%)

各国中央銀行による金の購入(外貨準備への金準備資産の組み入れ)は、近年世界の金需要を大きく押し上げている要因です。2024年の中央銀行純購入量は約1,045トンとなり、前年比ほぼ横ばい(わずかに減少)でしたが、過去3年間連続で年1,000トンを超える極めて高い水準を維持しました。中央銀行需要は総需要の約5分の1を占め、世界金融危機後15年間連続の純買い越しとなっています。とりわけ地政学的リスクの高まりや米ドル資産の見直しを背景に、新興国を中心とした各国中銀が金準備を積み増す動きが顕著です。

主要国・地域の動向: 2024年に最大の公式セクター買い手となったのはポーランド中央銀行で、年間約90トンの金を購入しました。これは同国総準備高の約17%を金が占める水準で、近年積極的に金準備比率を引き上げています。またトルコ共和国中央銀行も約75トンを増やし、前年に見られた売却から再び買い越しに転じました。さらに中国人民銀行は月次ベースで継続的に金を買い増し、インド準備銀行(RBI)も通年で約73トンの購入を行うなど、アジア新興国でも金備蓄の拡大が続いています。ハンガリーやチェコ、中東産油国など他の新興・資源国でも公表ベースで数十トン規模の購入例が相次ぎ、公的部門の需要は地域的に広範囲に支えられています。一方、売却側は一部の先進国・産金国中央銀行による断続的かつ小規模な売りに留まり、総体として中央銀行の金需要は依然堅調です。

その他の需要(約8%)

上記に分類されないその他の需要は、年間で約420トン程度、総需要の約8%を占めます。これは主に店頭(OTC)市場での非公開取引や、統計上把握しきれない金需要を指す残余のカテゴリーです。OTC取引は機関投資家や富裕層による大口取引が多く含まれ、公的な統計に現れないため正確な数量把握が難しいものの、2024年はこうした水面下の需要も旺盛で、市場全体の金需要を下支えしました(ただし数量は前年よりやや減少)。その他の需要にはこのほか、一部の未分類な用途が含まれる場合もありますが、いずれも全体に占める割合は小さく、基本的には投資需要の延長線上にあるとみなすことができます。

要約

2024年時点のデータに基づけば、世界の金需要は宝飾品向けが最大(約40%)で、次いで投資向け(約24%)、中央銀行による準備資産向け(約21%)、工業用途(約7%)が続いています。残りの約8%は店頭市場などその他の需要です。足元では金価格の歴史的高騰にもかかわらず、中央銀行の積極的な金準備の増強や個人・機関投資家からの需要拡大によって、世界全体の金需要は過去最高水準を維持しています。一方で高価格の影響で宝飾品需要は抑制され、地域的には中国の落ち込みをインドなど他国の需要が補う構図となりました。今後も経済・地政学情勢によって各用途の需要バランスが変化し得るものの、金は引き続き多様な用途分野で根強い需要が見込まれています。

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